柔整ホットニュース

特集

これからの日本の医療と保険制度

2010/10/16

第9の選択

次にAさんが来院された時、私は施術が終わって帰ろうとしているAさんを呼び止め、「ちょっとだけ話を聞かせて」とお願いしました。
そしてAさんのお話を聞き、私からは上記の考えをお伝えしました。

Aさんは、初めは、その整形外科医院の先生の注射はいかに効果が高いかということばかりおっしゃっていましたが、最後の方で「でも、いずれ手術しなくてはならなくなるとは思うのよ。」と漏らされました。
会社には今日連絡して、手術を取りやめることにしたと伝えたとのことでした。会社は、「それならそれでいいが、治ったわけではないのだろうから、今度痛くなったときには、即辞めてもらうから。」と答えたそうでした。だから、もうこれからはどんなに痛くなっても、絶対に口が裂けても痛いって言わないことにしたの、とAさんはおっしゃいました。
そして、私の言うことはわかるけど、生活ができなくなるのでしょうがない、とおっしゃいました。

私はAさんに聞きました。「もし、生活の面でのことがなければ、今でも手術を受けたいと思っていらっしゃるのですか?それとも手術が怖くなったとか、何かそれ以外の理由があるのですか?」

Aさんの答えは、「手術が怖いのは確かだが、生活の心配がなければ、本当は手術を受けたい。」ということでした。

 

第10の選択

ここで行った私の第10の選択については内容を伏せておきます。そのあと私は次の内容をAさんに提案しました。
「今すぐに決めないで、今日一日ゆっくり考えられたらどうですか?そして、Aさんがやっぱり手術は嫌だと思うなら、手術はやめた方がいい。でも、やっぱり手術を受けようと思われたら、明日の時点で、会社にそのことを電話すればいいんじゃないですか?」

翌日、Aさんは「やっぱり手術を受けることにした。」とご報告にいらっしゃいました。
そしてそれから3週間後、Aさんから「今日退院しました。」と電話がかかってきました。

 

第11の選択に向かって

Aさんのお話では、状態は全然良くないとのことでした。同じ手術を受けた人がみんなどんどん良くなっているのに私だけ全然ダメだと落ち込んでいらっしゃいました。
いつもなら手術が終わった患者さんは、退院した直後はまだ痛かったり腫れていたりはしていても、「手術前の痛みはすっかりなくなった。」と口をそろえておっしゃるのに、何かがあったのか?せっかく手術を受けたのに、まさか前よりも状態が悪くなってしまったのか?と大変心配になりました。
しかし、数日後来院していただき拝見したところ、確かに“すごくいい状態”とは言えないが、熱感や腫れ、浮腫はそれほどひどくなく、手術の痕もケロイド状になることなくきれいで、一安心しました。

まだまだリハビリで今の症状を改善していく余地が十分にある。大丈夫、きっとうまくいく。いや、うまくいかせなくてはならない。

関節可動域制限はまだ大きいので、しっかりとリハビリをやらせていただいて、何としても本当に患者さんが満足できるまでのいい状態になっていただけるよう、全力で頑張っていかなければ、と思いました。

Aさんの人生の主人公はAさんご本人です。そして何と言っても、実際にこの数多くの試練に耐え、それを乗り越えようと戦っているのもAさんご本人です。今までAさんを襲ってきた痛みや苦しみは、Aさん自身に与えられているのであって、私たちに与えられているわけではありません。私たちはAさんの人生の脇役として、たまたま登場することになったに過ぎません。
Aさんの人生というドラマを、Aさん自身が、ご自分で心から“良かった”思えるドラマにすること、そこに真実があるのだと思います。
私たちは、脇役である自分たちの役割は何かを見つけ出し、それを果たしていく、それが私たち自身の使命だと思います。そして視点を変えれば、それは同時に、私たちの人生というドラマを、私たち自身が“良かった”と心から思えるドラマにしていくためにも、必要なことだと言えるのです。

『共に助け合って生きる。』
だからこそ、ここに真実があるのだと思います。