柔整ホットニュース

特集

これからの日本の医療と保険制度

2010/10/16

ここに一つの疑問がある。果たして、現在の保険制度は、ミッション③『国家で正しい医療が提供される仕組みを創る』ということに整合したものとなっているのであろうか。現行の保険制度におけるいくつもの課題の中で、ここではこの一つの課題を取り上げることとする。

 

さて、そもそも「正しい医療が提供される」とはどういうことか。

誤診をなくすこと。
適切な処置を行うこと。

上記の2つである。いくら病院が人口に応じた適切な数だけ整備され、医師や柔道整復師、その他の医療資格者が毎年排出されようとも、患者が正しく診断され、正しい治療を受け、結果として助かるのでなければ、全く意味がない。医療のヴィジョンは「人々の命と健康を守ること」である。誤診をされ、誤った処置をされたのでは、ヴィジョンと正反対の行いをされたことになる。

 

現行の保険制度の考え方は、基本的にはまず「疾患名」があり、その疾患に対して必要とされている処置、これに対して医療報酬を支払うというものである。ここに大きな落とし穴がある。この考え方は、「正しい医療が提供される」というミッションとは反対のベクトルを持つものになりかねない。それはなぜか。
この制度には、最も大切なミッションの一つである「誤診をなくすこと」を目指したスピリットが、全く反映されていないのである。たとえば、どういったケースでその事実がみられるのだろうか。

 

患者が頭痛を訴えて内科医院を受診したとする。そこでは「上気道感染症」と診断して処置した。しかし翌日、友達に勧められて脳神経外科を受診したところ、原因は「クモ膜下出血」であった。緊急手術が行われ、何とか一命は取りとめた。しかし、命を救った脳神経外科に対して決められた医療費が支払われる一方、誤診した内科医院にも、「上気道感染症」の診断と処置に対して自動的に医療費が支払われるのである。このようなことは日常的に起こっている。重症、軽傷を問わずである。
我々で言えば、膝関節痛と歩行困難を訴えて来院した患者を「膝関節捻挫」として施術を続けた柔道整復師には、レセプトで請求すれば自動的に療養費が支払われる。しかし、その原因が「脊髄障害」によるものと判断し、専門医に紹介、手術を行っていただき、寝たきりになることを防いだ柔道整復師には、療養費も支払われないどころか、患者の運命を変えることになった専門医への紹介状は、1円の支払い対象にもならない。

小生の施術所では、当院施術の適応症例に対して施術を行うと共に、他科疾患との鑑別に力を入れている。そこに力を入れざるを得ないほど、日常施術において他科疾患が発見される数が多いのである。現在、毎月医療機関を紹介する数は30例から50例である。即ち、年間500例程度の患者の紹介状を、他診療科に対して書かなくてはならなくなっている。小生はこの業務に対して全くペイされない現行の保険制度であっても、この取り組みはやり続けるし、今までもそうしてきた。しかし現行の保険制度の形で、こういった取り組みが全国的に広がっていくことは期待できるだろうか。