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スペシャルインタビュー:
国家公務員共済組合連合会  立川病院   小粥  博樹  氏

2014/09/01

―プライマリケアの一翼を担っている柔整においてもエビデンスが求められており、ここ数年かけて富山大学で研究され、そろそろ研究の結果報告が出されると聞いています。コストとアウトカムにおいて、エビデンスが立証されれば柔整はこれまで以上にしっかりと認知され、地域医療に貢献できるでしょうか。

やはり人が多くなって淘汰の時代に入った場合に否応なくそちらを考えざるを得なくなると思います。例えば医師においても、相対的に医師の多い県は、県民一人当たりの医療費が多い傾向であることが分っています。同様に柔整師の方が今後全体として大きく増えた結果、以前より保険診療の支払い額が大きく増加することになって、柔整師間で何かしらの調整や差別化が起きるのではないかと思っています。

 

しかし、業界全体でのエビデンスが確立され、しかもコストパフォーマンス(患者さんの疼痛が改善し、社会復帰または自立した状態になるまでのコスト)が他の治療法よりも良好となれば、医療界の反発があったとしても、厚生労働省はそっちを押したくなるでしょう。エビデンスについては、いろいろな機関で研究されているようですが、侵襲的な検査を行えないこと、二重盲検法での対照群を設定しにくいことなどから有意差を証明するには、現在ある手法ではやや力不足で、何らかの技術革新やブレークスルーが必要な気がします。

 

しかしそれ以上に大切なのは柔整師業界が一丸となってそちらに向かおうとすることではないかと思います。柔整師個々人でかなり向かうベクトルに差があるのではないかと感じます。一丸となってエビデンスを出し、国に認められれば、これまで以上に地域に密着した医療に貢献していただけるのではと思います。

 

―柔整の問題点はどこだと思われていますか?それについてアドバイスもお願いします。

以前、浜西先生と酒田君の対談内容を読ませていただいて、実際に法律上認められているのは急性期の「骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷」に限られると知って、確かに〝えっ?そうなんだ〟って正直思いました。ただ整形外科と柔整師さんとでお互い補完できなくないという思いもあります。

反面、浜西先生が言われるように見過ごされたり、骨折されたり、状態を悪化させられたり、やはりマッサージを受けると背骨が折れる人はいます。なにしろ洗濯物を干したり、ゴミ出しをしたり、お孫さんを抱っこしても骨折しやすい人は直ぐ折れます。施術或いはリハビリ訓練を行う上で、外力をかける時は難しい点がありますので十分注意をされたほうが良いと思います。

 

他にも、一部に含まれている悪性疾患や炎症性疾患(レッドフラッグの疾患)に対して注意が必要です。炎症性疾患は基本痛みが強いので数人経験すればあまり間違えたりしないのですが、悪性疾患は疼痛の程度はいろいろで、頻度は腰痛でいうと統計上100人に1人となっています。一般的に多くは一か月二か月で消えてしまう腰痛ですが、ガイドライン上も一か月を超えるようであればレントゲンを撮るなど検査をしたほうが良い。

 

厚生労働省の最近の統計によると、日本人は男性で55%、女性では40%が一生の間に何らかの癌にかかりますので、知らずに担癌状態になっている人は意外と来院されます。癌の既往歴があり背骨に転移してくる人もいれば、何の癌の既往歴もなく、腰が痛いと言って普通に開業医さんとか接骨院にかかっていて、長く続くのでおかしいと思って精査したら癌だったというのは全然稀ではありません。日本人の2人に1人が癌になっている時代です。癌で死亡する人が今3人に1人です。最早、癌になること自体は当たり前の加齢現象の一つです。全部の癌の1割以上で骨転移が見られ、肺の次に転移しやすい場所です。

 

覚えておいてほしいのは癌の転移や、炎症性疾患は処置が遅れると、麻痺が出てきてしまったり重症化して、治療経過が不良になってしまいます。今は癌の転移であっても、色々な治療法のオプションがあり、早期発見すれば手術になったり、麻痺になったりする危険性を減らし、余命の延長に大きく寄与することになります。柔整師さんに求められるのは、この種のレッドフラッグの疾患についての知識と、素早い対応です。決して囲ってしまってはいけません。

 

―やはり昨年のセミナーで小粥先生は、〝今後はナースにしても、アメリカみたいに例えば麻酔の補助、簡単な麻酔はナースが行える仕組み、これはプラクティショナーナースといって専門性が高まる。理学療法士さんも脳血管専門の理学療法士、認定理学療法士というように、柔整師さんのほうでも今後多分質を確実に担保することが行われていくのではないか。それに乗れない人たちはどこかで切られていくか、恐らく厚生労働省では認定がついている人とついてない人で診療報酬に差をつけるなどしてくるでしょう。取っても取らなくても同じであれば誰もモチベーション上がらないですから。そういう構造に医者がなっていますので他の医療業界も全部なっていくと思っています〟と発言されていらっしゃいますが、もう一度教えていただけますか?

どちらかというと、アメリカのプラクティショナーナースというのは医者の補助で、医者がやらなくても出来ることはどんどん振っているのではないかと思います。日本は医者の数が、人口比あたり高いほうではないので本当はそういうのがあったら良いと思います。医療は何所へ向かって行っていくかといったら、やはり患者中心に向かっていく訳です。それは医療費との兼ね合わせで、より効果の高い、コストパフォーマンスの高い医療、しかも患者さんの満足度の高いほうに自然と向かわざるを得ないようになっていっていると思います。

 

質問の主旨とは若干ずれますが、最近、手術や検査の前に行う説明を「インフォームドコンセント」という表現から徐々に患者さんが主体的に治療法を選択するという意味の「インフォームドディシジョン」と言うようになって来ています。他にも昔は「コンプライアンスが悪い患者」というのは、指示通りに薬を飲んでくれない患者さんのことを言っていましたが、コンプライアンスが悪いというと、どっちかというと従わせる意味あいが強く感じられるということで、今は「アドヒアランスが悪い患者」と言うんですね。つまり今は患者さんの自主性を重んじた言葉に変わってきています。

 

又、これは対立する言葉ではないけれどもエビデンスベースドメディスンEBMについて、今それを補完するものとしてナラティブベースドメディスンNBMという発想があります。これも基本的なポジションとして患者中心ということです。確かにエビデンスといっても患者さんの各々の事情、個々の患者さんでケースとしては違いますし、やはりEBMは、ある集団において統計上こうだったという話で、個々の患者さんにおいては微妙に匙加減を変えてオーダーメイドしたほうが良い事例が多い。こういう言葉や考え方がいろいろ出てきたのは2000年位になってからで、この10何年かです。結局医療が供給サイド側の視点から、どんどん患者中心の視点になってきているのは間違いないことです。

 

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