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スペシャルインタビュー:
国家公務員共済組合連合会  立川病院   小粥  博樹  氏

2014/09/01

近年、日本の社会保障制度は転換期を迎え、混合診療も導入される中、2020年までに地域包括型ケアシステムの構築が急がれている。国民の皆保険は守られるのか、医療格差はどんどん広がっていくしかないのか。在宅でもしっかり生活を支えてくれる医療者と介護者は足りているのか?柔道整復師はどのように医療者と連携をはかれば良いのだろうか?

背骨を専門に診られている立川病院整形外科医長でリハビリテーション科の部長を務める小粥医師に今後の地域医療の在り方をお聞きした。

 

患者さんのためにも整形外科と接骨院は補完し合う関係であるべきと思います!
小粥博樹氏

国家公務員共済組合連合会 
立川病院
整形外科・医長
リハビリテーション科・部長
小粥 博樹 氏

 

―混合診療の導入が進められております。医療費の抑制、あるいは窓口負担の増加など、今、日本の医療は転換期を迎えていると思いますが、小粥先生はどのように今の医療を分析されていますか?

そうですね。これまで混合診療の中での問題点は、自由診療を受けようとした時に、保険適用の分まで全て自費になってしまっていたことです。そういう面がなくなるという点では、良いのではないかとは思っています。しかしながら、厚生労働省は医療費を削減する考えがベースにあるでしょうから、今後未だ日本に導入されていない良い治療法、良い薬剤があって時間が経過しても保険診療扱いにはならずに自費のまま据え置かれることになりかねないと思います。仮にそうであれば、結局お金のある人は良い薬や治療法を選択できるが、お金の無い人は選択できないという医療格差が確実に起こります。場合によっては医療格差が顕著になる可能性はあると思って危惧しています。厚生労働省はお金が無いとして直ぐには保険診療を認めたくないですからね。

 

今までは、例えば癌で未承認の抗癌剤を使うのであれば、かかっている他の診療費まで全部保険が使えなくなってしまっていました。今回はこれまでと違って新しい薬が出たら保険を使わないで選択できる訳です。そうなるとそのままずっと保険適用をしないままにしておいても使える人は使えるということで、最初はその薬剤の数が少なくても品目数がどんどん増えていく可能性はあるのではないかと思っています。いま現在も医師会は強く反対していますが、徐々に押し切られる形になってきていると思われます。TPPについてもそうですし、民主党、自民党政権に関係なく、未だに日米MOSS協議の効力が生きていますので、この分野での政治の駆け引きにおいてアメリカはやはり依然として強いなと感じています。この先どうなっていくのかと心配しています。

 

―小粥先生は、昨年の8月25日に横浜で開催された酒田先生との勉強会で、プライマリケアについてスペシャリストとジェネラリストの両面が求められていると話されております。こうしたことは整形外科医の中にあっても存在するように思います。今後、整形外科医の中でのスペシャリストとジェネラリストはどのようになっていくのでしょうか。また柔道整復においては、運動療法などの手技療法にたけた方もおり、そうした分野を専門性としてみるならば、スペシャリストという側面もあると思います。一方で、柔道整復師には限界もありますので、そうした中での注意点があればお聞かせください。

いま整形外科領域では背骨や手の外科等のサブスペシャリティとしての制度が出来てきています。病診連携でいえば専門性がより高いのはやはり病院の勤務医になるのではないでしょうか。ただジェネラリストについて言うと、整形外科領域の一般疾患全てをプライマリに診られるというのは開業医の先生たちが中心になると思いますが、開業医の先生たちも勤務医の時代はサブスペシャリティを皆さんお持ちでしたから、そういう点ではある意味両面持っていらっしゃる訳です。ジェネラリストとしての知識もサブスペシャリティとしての知識も日進月歩で変わりますので、情報を常にアップデートして勉強していかなければなりません。

 

例えば一昔前は、"痛み"に関して心理面での影響が強いということはあまり表立って言われてはおりませんでした。今はリエゾン療法を行う福島医大の他にも多数の施設で慢性疼痛の成因、感作成立の機序などの研究が行われ、それに基づいた多角的な診療が行われています。腰痛の85%を占めると言われる非特異的腰痛には、心因性腰痛が入っているのは確かですが、今の医学で局在診断ができないというだけであって、今後の医学の進歩に伴い非特異的腰痛と呼ばれる腰痛の率は減っていくと思います。

 

私も昔と違い今は、心因性の要素が強い腰痛患者さんには抗不安薬だけでなく抗鬱剤も時に処方しています。体幹性の疼痛は四肢などの末梢に較べてサイコソーシャルな修飾を受けやすいというデータで出ています。背骨を専門にしていると〝首や、肩や、腰だ〟と体の中心周りの痛みで患者さんが多く来られます。配偶者が亡くなって日が浅く鬱状態にある人、パーキンソン病の人、介護疲れの人や、仕事場で問題を抱えている人などは腰痛が増強しやすい状態にあります。そういった背景も含めて診ていかなければいけません。かといって心理面に重きを置きすぎて、"これは心因性の疼痛だ"と簡単な診察だけで安易にかたづけてしまうと器質的な疾患を見落とすことになってしまいますので、注意が必要です。

 

痛みに関して先述の心理面での修飾が加わることが多いのは確かですし、様々な病気に対しての新しい治験も出てきていますので、やはりその辺りの勉強はしっかりやらなければ鑑別する眼力が養えません。病院で勤務していると自分の専門の整形外科以外の患者さんもいっぱい診る機会があります。私の高校の同級生である酒田君くらいになれれば、本当に患者さんをよく診ているので凄いと思いますが、一人で接骨院をやられている柔道整復師の方は、彼のように一人の患者さんの診察に時間をかけるのは難しいと思います。

 

診察には、まず最低限ベースに教科書的な知識がないと、これだろうあれだろうという鑑別疾患が思い浮かばない。だから教科書を読んだり学会誌を見たりという知識は必要になります。その上で実際に患者さんを診察して自分が下したある診断が、その患者さんの真の診断名と一致するのかしないのかの"フィードバック"がされることで、教科書的な知識が経験で修正・補強されて、貴重な信頼できるデータベースとして増えて蓄積されていく訳です。日常なんとなく診察してなんとなくやり過ごしているのでは、データベースの蓄積は残念ながら行われない。先ほどの酒田君の場合は、彼の紹介状に多くの先生が信頼をして返事をくれますし、会って直接話をする場も持っていますので、フィードバックがかかるんですね。データベースを構築していくためには、そのような何らかの戻りの情報がないと難しいと思います。

 

今は地域連携の部署がある病院が多くあります。紹介状の返事がもらえなかった際、医者に直接〝あの患者さんどうなりましたか?〟と聞くとハードルが高いのであれば地域連携室に何とか結果(診断名)だけでも知りたいと依頼するのが良いかもしれません。患者さんの紹介元と確認が取れれば、当院の地域連携室でも、診断名や今後予定している検査など患者さんの現状を、問い合わせの電話に対しお答えしています。柔整師さんに対して紹介状の返事を書くことが義務付けられていないことが紹介状の返事をなかなかもらえない一因ではありますが、基本的に勤務医の雑務が多く多忙なのが主因と考えます。かくいう私も返事を書く率が低いほうで、医師からもらった紹介状にも失礼ながら結構返事を書いていないんです(笑)。実際問題、鍼灸マッサージ師の方の同意書も含め、柔整師の方からの紹介状はやはりかなり少ないです。

 

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