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元厚労副大臣・武見敬三氏にこれからの社会保障を聞く!

2014/06/01

―安部政権になりTPP参加を表明され、今後しっかり交渉されていくことになると思いますが、日本医師会ではTPP参加について日本の皆保険制度が維持できなくなる危険性があるとして強く反対されております。武見先生のお考えをお聞かせください。

TPPの問題については、基本的には、我が国のTPP参加は当然のことであると思います。我が国のように資源が乏しい国は、「ヒト」・「モノ」・「金」・「情報」が活発に行き交うことを通じて経済活動が活性化されてくる訳です。しかし、今後の協議、交渉の過程において、例えば保険診療外の診療を自己負担で認めろとか、或いは株式会社の医療機関経営を認めろ等、いろいろな意見が米国を含め諸外国から出てくる可能性は少なからずあるでしょう。もし、それらがわが国の公的な医療保険制度を根底から覆すような内容のものであったならば、真正面からその非を指摘し、拒絶をするということを行うべきであると考えます。TPPに参加することによって得られるメリットを最大化し、デメリットを最小化するという考え方でこのTPPの交渉に臨む、そのことによって我が国の医療保険制度をしっかりと守り続ける。他方、日本は自由貿易立国として世界の孤児とならず、引き続き国内でも製造業が活発に活動を続け、経済的にも安定した経済成長が享受できるようにしていくことは、必須のことだと考えます。

 

―日本では超高齢化社会が急速に進行し、逼迫する医療保険財政を考えた時、日本の医療制度はどうなっていくのでしょうか、というより、どうあるべきでしょうか。そのためには現在の問題点はどこにあるのでしょうか。どう改革していくことが良いのでしょうか。

いま日本には、3500もの保険者があって、しかも保険者によって同じ家族構成や同じ所得であったとしても支払う保険料の額が違っています。これは、例えば国民健康保険の中でさえ3倍位の格差がある訳です。我が国の国民医療費の70数%は、保険料を財源として賄う形になっておりますが、引き続き安定した財源を保険料を通じて徴収しようということを考えるとすれば、やはりこの保険料格差というものはキチンと是正していくことが求められます。その為にはちゃんと公平性を保たなければ、これから負担が増えれば増えるほど、不満が拡がることになります。結局、この格差を是正するにはどうしたら良いかということを考えるとやはり保険者を整理・統合していくことが求められる訳です。今、既に議論になっていることは、先ずは国民健康保険から都道府県別に保険者を整理・統合していったらどうかとした意見が出ています。ただ都道府県毎に国民健康保険だけを統合しても実はそれほどの持続・可能性、或いはリスクプールを十分に確保できるようにはなりません。どうしても、きょうかい健保・組合健保・共済組合といった雇用者保険も将来的には整理・統合していくことが求められると思います。ただこれは、公的資金を必要とせずに自立運営出来ている保険者の場合には、明らかに合体すれば条件は悪くなりますから、合体したくない。従って雇用者保険でも組合健康保険でも共済組合健康保険でも大反対です。しかもその背景には経団連とか連合という組織がありますし、そういった大きな政治的な抵抗をキチンと抑えて国民にちゃんと納得して頂くことが重要です。そのためには強い政治的リーダーシップと政策構想能力、中長期的な視点を加えて保険者を整理・統合し、持続可能性を強化しつつ、なおかつ保険料の公平性を確保する。こういったことをやらなければいけないだろうと思っています。

 

―さて、柔道整復の問題に移りますが、現状、柔道整復業界は大きな岐路に立っています。しかし治療内容が患者さんからの信頼や信用を失ったのではなく、問題は保険者に十分な理解が受けられていないことにあるように思われます。社会全体としては、高齢化により医療費がますます増える中で、病気になった人を治すだけではなく病気になることを予防する、あるいは慢性の病気を上手く管理してそれを悪化させない医療が重要になってきている、とする状況の中で、業界では、柔道整復の能力を十分発揮し高齢化に関連した疾患をシッカリと診て行きたいとしています。一方、昨年初めて、社会保障審議会医療保険部会に柔整療養費専門委員会が設けられ、委員会での議論の内容を見ますと、保険者側からの「施術期間に上限を設けるべき」とする意見があり、それに対し業界では「6ヶ月以上の長期施術の割合はどの県でも10%以下」として、所謂高齢化が絡む慢性的な疾患については、寧ろ両者に否定的とも取れる意見があり、大局的な議論がされていないように感じます。第2回の委員会が3月に開かれ漸く料金改定が行われることになり、今後まだ明確ではありませんが、柔整の在り方について議論・検討されていく予定です。今までの内容から在り方というより料金や制限にばかり話が集中しているように感じます。療養費検討専門委員会において、大きな視点での柔道整復の将来展望の中で、議論すべきで、そうした展望が無く、双方共に目先のことに捉われ過ぎていると感じます。武見先生が厚生労働副大臣であられた頃も柔整養成校問題に取り組んでいかれようとされておりましたが、そのことを含めて今後の専門委員会では何が議論され、改革されるべきかご意見をお聞かせください。

専門委員会における議論の詳細を私はよく知っている訳ではありません。他方で、長年私がずっと言い続けてきたことは、やはり国民の生活に最も密着したところで行われている我が国の伝統的な手技治療の一つとしてこの柔道整復というものが大きな役割を担ってきたことは事実です。それは医療費とは別に施術費としてその枠が決められていて、そして受託療養委任払いという形で実際に保険手続きも行われてきました。これは、柔道整復だけではなく鍼灸も同様で、寧ろ柔道整復よりも鍼灸のほうが近年急速に支出が増えてきています。そういう中で規模的に施術料金の中では大きな部分を占めるということで、柔道整復に対する施術料に関心がもたれるようになって、それでこうした専門委員会が発足するという経緯になっていったんだろうと思います。その中でコスト管理という観点が前面に出てきて、これまで柔道整復が果たしてきた地域医療の中での役割等、また将来に向けて特にこれから健康寿命というものを如何に増進させるかということが大きな課題になってくる中での柔道整復の果たす役割等、こういった視点から十分に議論が行き届いてきていないということなんだろうと思います。従って、過去と現在と未来というものをキチンと結びつけて我が国の国民の健康を増進し、健康回復を加速化させて、結果的に我が国の健康寿命を延ばすというところに私は柔道整復の新たな役割を確立していく必要性があると思っています。過去10年を振り返ってみますと、平均寿命が1.5歳伸びてはおりますが、自立した日常生活をおくれる期間としての健康寿命は1歳弱しか伸びておりません。という様に健康寿命と平均寿命のギャップが今拡がろうとしていて、男女共にそのギャップが10年位ある訳です。このことは、介護を必要とする高齢者が増えることを意味していますし、また医療費を余計に必要とする寝たきりの高齢者も増えていくことを意味しています。これはご本人にとっても決して幸せではない。また同時に社会的にもこうした介護や医療に関わる支出が増え、強いては若い世代に負担を増やすということになりますから、これも好ましいことではない。従って今後の大きな課題は、平均寿命と健康寿命のギャップを出来る限り埋めて、そのために健康寿命を増進させる手立てをしっかり政策的にパッケージで組み立てていくという考え方が求められるようになります。私はそういう考え方の中で、柔道整復の新しい役割を考えていったらどうかという考えを持っております。本来ならば、真正面から国民の健康と柔道整復の役割という観点でまず王道となる政策論をキチンと組み立てて、その中で具体的な政策としての施術料の在り方に対するキチンとした理解を深めてもらうような努力が必要になるのではないでしょうか。

 

 

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