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『柔道整復基礎医科学シンポジウム2012』-柔整大学教育と柔整研究の在り方を考える-が開催!

2012/07/01

基調講演の前に白石氏より〝柔道整復の歴史の中で危機を迎えた時期というのは何度かあり今も危機を迎えています。大学化されてきていますが、内容が専門学校から進化したのかというと、実際に教育に携わっている先生でも疑問を感じているはずです。今、私達が気がついてこの危機を乗り越えないと恐らく私達の仕事は本当に伝統の中の歴史の中に埋もれてなくなってしまうだろうと危惧します。今回、基調講演に来て頂きました神戸大学の高岡先生は鍼灸の資格を持っていらっしゃいます。何故お呼びしたかということを聴けば直ぐ分かると思います。柔道整復が未だ成し得ていないことです。高岡先生は個人的に自分の考えで、鍼灸はこうあるべきだということをご自身が実践してきた方です。それを是非この基調講演の中で汲み取って頂いて、質疑をして頂いて、最後のシンポジウムで自由に討議して頂ければと思います〟。

 

基調講演『トランスレーショナルな研究の実践から伝統医学領域研究の革新へ』

神戸大学医学部附属病院医療情報部
神戸常磐大学ライフサイエンス研究センター・高岡 裕

【抄録】医学研究は基礎研究と臨床研究に大別され、臨床的な研究は実践的研究(Clinical Trial、臨床試験)と観察的研究に分類される。臨床研究はPOR(Patient-Oriented Research)であり、個々の患者さんを直接観察または処置を加える研究である。対して、DOR(Disease-Oriented Research)とは研究者と患者さんとの直接の接触を要しない研究、ヒトの細胞、組織、血液等を用いた研究で、基礎研究と臨床研究の間に位置する。そして、基礎研究→プロトタイプ→前臨床開発→早期の臨床開発までを、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究、Translational Research 以下、TRと略す)と言う。TRは、デスバレー(死の谷)と揶揄される基礎研究と臨床の間の断絶を埋めるべく定義されたものである。医薬品開発(創薬)や医療技術開発で、臨床までに多大な労力と時間を要するのは、このデスバレーを越えるのが大変だからである。例えば基礎研究の後期には、疾患モデル動物をクローン技術により作出して分子病態を遺伝子やタンパク質レベルで解明すると共に、動物実験で開発した治療法の有効性の確認と安全性を確認した後に、初期の臨床研究に進む。このように、西洋医学は多大な労力と時間を使い集学的に問題に取り組み、科学的な裏付けを得た上で、実際に臨床での運用へと至る。厳密に定義された方法論に基づいて、これらのプロセスは進められており、社会的コンセンサスも得られている。

このような近年の進展は、ゲノム解析を始めとする生命医学のあらゆる領域で劇的に進んだ研究技術開発の賜物である。これらの手法の恩恵は、我々伝統医学の側も受益することが可能である。伝統医学領域でも同様の科学的な検証プロセスは有用だが、創薬や技術開発とは若干異なる面に注意が必要である。なぜなら、新規治療法の開発ではなく、多くの場合は経験的に有効と信じられて用いている治療法が研究対象となるからである。これは、西洋医学とは若干異なる研究のプロセスを定義する必要性を示唆している。

本講演では、階層を超えたオミックスとしての生命医学を前提に、トランスレーショナルリサーチやクリティカル・パス・リサーチなど、基礎と臨床の両面から研究方法論について概説する。その際、筆者の研究チームが取り組んでいる色々な段階の研究の方法論と成果を例に、集学的取組みの実際を紹介したい。最後に伝統医学領域での取り組みとして、病態モデルマウスを用いて細胞分子生物学的手法で、鍼治療の有効性を解析した研究を紹介する。本講演では、伝統医学領域でのトランスレーショナルな研究の意義を紹介し、研究の今後の方向性を示したい。

 

基調講演概要:

医学研究の動向について

漢方や東洋医学で、鍼灸・柔整も含めて患者さんに合わせた治療をすると言ってきました。何故そういうことが始まったかというと、90年代の終わりにアメリカのFDAが調査をした結果、膨大な数の人間が副作用を起している中で、その5%が副作用で死に至っていた。これをなんとかしなければならないとして個別対応が始まった。それが1番の理由で、それを実現できるようになった。遺伝子は個々一人一人異なり遺伝子の中に病気の情報が既に入っている。それに基づいて薬の使い方を決めていけば、副作用がでないかもしれない。これをゲノム医療と言います。そういった研究が進んでいます。ビタミンB6の摂取量を増やすと、MTHFR遺伝子のタイプによって、大腸ガンの発症に働くこともあるし、抑制に働く事もある。つまり、遺伝子によって影響が正反対のことがある。副作用が強くて死に至る人もいれば、治る人もいるということが分かってきています。これが今の流れです。遺伝子でみる確実性というのはいろいろあります。今まで私達がやってきたことは、西洋医学でも東洋医学でも、実は経験の蓄積による科学化で、そういう意味では、現代医学といわれる人たちが行っていたことも私たちの祖先がやってきたことも実は変わりません。