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一般社団法人日本転倒予防学会第10回学術集会 開催

2023/12/01
パネルディスカッション1
“転ばれる”ことへの怖れを乗り越えて転倒予防を創造する
1.チームの心理的安全性と転倒予防

滋賀医科大学医学部付属病院精神看護専門看護師
光岡由紀子氏

患者さんが転んだと聞いて、患者さんの心配をする人もいれば自分の心配をする人もいる。つまり“転ばれる”ということへの恐怖とは、人それぞれに異なる精神力動といえる。精神力動は自分の言動に影響を及ぼす心の動きのことを指すが、近年、このような精神力動にチームの心理的安全性が影響していると明らかになった。

チームの心理的安全性は「対人関係においてリスクのある行動をとっても、このチームなら馬鹿にされたり罰せられたりしないと信じられる状態」とされる。心理的安全性が高いと、目的達成のためにメンバー同士が健全で活発な意見交換ができる。このようなチームでは、患者が転倒した場合、誰の責任かではなく何故転倒したかが論点となり、患者のQOL改善のための最善を考えた倫理的な行動に繋がる。

チームの心理的安全性を高めるために、例えば、時期尚早な提案をしたメンバーに対し「あなたは患者さんの話をよく聞いていますね。ただ、昨日のリハビリの評価では・・・」というように、言わなければならないことを「人」と「タスク」に分けて伝えることで、建設的な意見交換ができる。転倒予防は患者QOLを支援するプロセスであり、患者にとってのベストが見つからない場合は多くのベターを出し合って検討を重ねることが大切だ。

 

2.ある病棟での身体拘束最小化の取り組み ~怖れを乗り越えた先に見えたもの~

東京都立松沢病院
山口球氏

精神科専門病院である当院の行動制限最小化の取り組みとして、1901年に5代目院長がそれまで使用していた手枷、足枷、拘束衣などの使用を禁じた。その後、2012年に着任した院長が「身体拘束最小化を目指す」という方針を示し、改革が再スタートした。2012年以降の取り組みにより、1日の平均身体拘束者数は、2011年以前の130人から2019年には20.5人に減少した。

以前は、転倒予防のために車いすベルトなどを使用し、一律に拘束時間があり個別性はない状態だった。その後病院方針の転換により身体拘束を減らすこととなったが、スタッフは「絶対無理」「自分のシフトの時に重大な事故が起きたらどうしよう」と動揺し、転倒させる恐怖から監視を強めた。身体拘束を最小限にする取り組みは患者の尊厳を守るだけでなく、職員の安心・安全を守るものでもあるとスタッフに理解してもらうことが重要だった。そこで「事故はどこにいても起こりうる」と考えて、カンファレンスで検討し、だれか一人に責任を負わせないという意識改革を行った。事故防止を目標にしないことが非常に重要であり、「事故が起きても責められない」という安心がケアの創意工夫とルールに縛られすぎない柔軟なケアに繋がり、心の拘束廃止にもなったと考える。

 

3.「防ぎきれない転倒」に挑戦する組織づくり ~転倒予防アセスメントと介入フローの導入で根拠に基づいた転倒予防をする~

メディカル・ケア・サービス株式会社
コーポレートコミュニケーション室室長・認知症戦略部部長
杉本浩司氏

高齢者が転倒すると、歩くことへの自信喪失や外出不安から廃用症候群に陥りやすく、QOLの維持に大きく影響するため、転倒を起こさないことが重要となる。高齢者は体内の水分量が成人と比べて少なく、脱水によってイライラ・ウトウト・落ち着かない・夜間覚醒・夜間せん妄などの症状が出やすい。そのため食事の量や質の低下により、高齢者は低栄養になりがちである。

当社入居者調査により、入院原因の多くが転倒骨折や肺炎であり、低栄養に起因することが多いと分かった。約7割の入居者にプロテインを中心とした栄養補助を行ったところ、平均BMIは18か月で19.5から22.3に上昇し、転倒骨折入院日数は59.9%減少。転倒しなくなったわけではないが、転倒しても骨折しない身体づくりができてきたといえる。 さらに転倒自体を減らすための取り組みを開始した。転倒のリスク要因を可視化し、転倒予防アセスメントシートを開発したことでハイリスク者の早期発見・早期介入を可能にした。ハイリスク者にはその状態にあった個別の運動プログラムを提案し、実施している。さらに献立連携により摂取エネルギー量のデータ取得を行い、摂取量に反映させることで栄養改善し、転倒予防対策を立てることができるようになった。

 

各パネリストの講演後、パネリスト全員が登壇し、会場との意見交換・質疑応答が行われた。

 

 

上記の他、本学術集会では市民公開セミナー、特別講演、特別企画3セッション、教育講演2セッション、パネルディスカッション2セッション、ランチョンセミナー3セッション、スポンサードセミナー2セッション、一般口演8セッション、ポスター発表12セッションが行われ、非常に充実した内容であった。

 

 

 
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