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ビッグインタビュー 【新・柔整考④】 業界内外の声をお聞きする!

2023/11/01

―八王子スポーツ整形外科の小林尚史先生にインタビューさせていただいたところ、〝結局整形外科医が出来ることは壊れたところを手術で治す、注射をするといったことに加え治療の組み立てや、セラピストが行っている治療を管理することで、それは重要なことと考えています〟と話され、また昨年の柔道整復接骨医学会の特別講演で小林先生は、〝90%くらいは、何も壊れていないけど痛くて病院に来ている人です。それをどうするかを考えたほうが世の中のためになる〟等、述べられていました。安田会長はリハビリ等についてどのようなお考えでしょうか?

やはり、リハビリも本当にリハビリが必要な人と心のリハビリが必要な人が居る訳です。小林先生が述べられていることは、実は心のリハビリのほうが多いということです。本当は、病院に来なくても良いのですが、医者に話を聞いてほしいとして患者さんは来院されます。その時に対応をキチンとやってあげなければなりません。しかし、整形外科の先生の中には、正しく理解して対応される医師もおられますが、もう受診する必要がないという医師もおられます。受診の必要がないと言われた人たちが接骨院に来て診て欲しいとなるのです。やはり、それは柔道整復師のもう一つの大事な仕事になります。

大きな病院の待合室で、〝今日は、あの人来ていないけど病気なのかしら?〟という話をよく聞きますよね(笑)。あれと同じで、本来はもう来る必要は無いけれども、主治医と会って話を聞いてもらうこと自体が治療になっているのです。また大きな病院で3時間待って診療は3分と言いますが、なぜ3時間も待っているのかというと、その先生とお話をしてホッとする、つまり心の治療を希望しているのです。従って本当のリハビリを行っている人というのはそんなに居ません。そういう事もあるので、私は整形外科の先生と一緒に仕事を行う事が一番良いのではないかと思っています。ただ整形外科の上層部の人は難しいのです。昔、おふれみたいなものが出ましたが、何故そんなものを出すのか理解に苦しみます。そういう考えのご老人が段々と減ってきますし、若い人が出てくれば、今のような話はもう過去の話になるのではないかと私は思っています。対立は解消すべきです。もっとうまく柔道整復師を教育指導されて利用してくださるのが良いと思います。

 

―また、やはり昨年の接骨医学会で帝京大学医学部の整形外科学講座教授の中川匠氏が、運動療法は痛み止めと同等の効果があると話されました。安田会長のご意見を聞かせてください。

まさに、その通りです。先述しましたけれども、心の病気なので、薬を使ってもよくならない。ストレスをなくすような施術や、運動療法を行えば殆ど良くなります。従って、本来は両方でやらなければいけませんが、整形外科の先生のなかには柔道整復師は自分たちの敵であると、患者さんを取ってしまうと感じている方もおられます。ちょっと行き過ぎではないかと思います。半数以上がそういう治療をすれば治るのです。当学会の会員がそれに気が付いて、学会に今どんどん投稿されています。

 

―ロボット手術についても教えてください。

ロボット手術の始まりは内視鏡下外科手術です。内視鏡下外科手術とは、経皮的に腹部や胸部に直径10㎜の小さな穴を数か所開けて、この穴から内視鏡(腹腔鏡、胸腔鏡など)を挿入し、腔内の様子をテレビ画面で観察しながら手術器具を操作する手術です。

具体的には、胆嚢摘出術は1882年にLangenbuchが開腹手術による胆嚢摘出術を世界で初めて行いましたが、1987年にMouretが腹腔鏡下胆嚢摘出術を世界で最初に施行しました。1990年帝京大学溝口病院外科の山川達郎教授が本邦で最初の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行いました。内視鏡下外科手術は、開腹手術と比較して手術創(傷口)が小さいこと、手術後の痛みが少ないこと、術後の回復が早いこと、入院期間が短いことなど優れた点が多い低侵襲手術ですが、デメリットもあります。腔内は三次元ですが、挿入された手術器具の操作は二次元映像のモニターを見ながら長時間立ちっぱなしで行うこと、術者の手の動きとモニターの動きが逆になることなど、術者にはかなりストレスになります。また、腹腔鏡の操作は手術助手が行いますが、手術時間が長時間になると手振れや疲労が手術助手のストレスになります。

この内視鏡下手術のデメリットを克服するために開発されたのが手術支援ロボットです。術者は航空機の操縦室(コクピット)のような操作ボックスに座り、三次元画像を見ながらロボットのアームを遠隔で操作する手術です。手術支援ロボットは、情報通信機器を用いることで術者が遠隔地にいる患者に対してリアルタイムに手術操作を行う事が可能となります(日本外科学会遠隔手術実施推進委員会編 遠隔手術ガイドライン、2022年6月22日公開)。このガイドラインでは、遠隔手術を、①遠隔手術指導(責任者:現地医師)、②遠隔手術支援(責任者:現地医師)、③完全遠隔手術(責任者:遠隔医師)の3種類に分類しています。  2001年9月に手術支援ロボットを用いた世界初の遠隔手術として、ニューヨーク(アメリカ)にいる術者がストラスブルグ(フランス)にいる68歳女性患者との間で、電話回線を使用した腹腔鏡下胆嚢摘出術がMarescauxによりOeration Lindberghとして行われ成功しました(Marescaux, Nature 413:379-380,2001)。

ちなみにMarescauxが行った臨床試験の2日後に9.11世界同時多発テロ事件が起こったので、臨床応用としての大陸間での遠隔手術は以降おこなわれていません(家入里志:生体医工学.49:673,2011)。しかしながら、遠隔支援ロボット手術実証実験として、東京―静岡、福岡―ソウル、福岡-バンコックなどが実施され、実用化を目指して研究が進んでいます。この技術が実用化されれば、Space surgeryとしては大変大きな意義があります。宇宙進出のベースキャンプを月面に構築し人類が月面で定住することになれば、緊急手術が必要な事態になったときに安心して遠隔手術を受けることができます。5G技術により高品質映像伝送技術の発達により遠隔手術がますます実用化されることが望まれます。現在、アメリカ、ロシア、日本、インド、中国も月面探査に興味を示し、月面にベースキャンプ構築することを目指しています。

 

―最後に今年の接骨医学会のご案内等お願いします。

今年の第32回日本柔道整復接骨医学会学術大会のメインテーマは、「臨床と学術の融合 ~Head,Neck & Trunk ver.~」で、12月2日・3日に名城大学天白キャンパスで開催予定です。中でも昭和大学の豊根知明氏が「首下がり、腰曲がり、そして難治性の痛み:そのメカニズムと治療」と題し、リアル・オンデマンドで特別講演を行います。また公益社団法人全国柔道整復学校協会と共同開催で「柔道整復師養成教育の到達目標と国家試験出題基準」と題したシンポジウム、これもリアル・オンデマンドで開催予定です。しかも今回は、参加する学生は全員無料です。柔道整復師の専門学校及び大学の生徒さんも無料にして、出来るだけこうした有意義な学会に参加して頂きたいというのが一番のトピックスです。

 

 

 

●安田秀喜氏 プロフィール

昭和49年、金沢大学医学部卒業。同年、医師免許取得。昭和57年4月、医学博士取得。昭和49年4月、東京女子医科大学消化器外科医療練士入局。昭和56年8月、帝京大学医学部第1外科助手。昭和57年10月、帝京大学医学部第1外科講師。平成3年9月、帝京大学医学部第1外科助教授。平成16年7月、帝京大学医学部市原病院外科(現:帝京大学ちば総合医療センター)教授。平成20年4月、帝京大学ちば総合医療センター外科化学療法センター長(兼任)。平成23年1月、帝京大学ちば総合医療センター副院長(兼任)。平成25年4月、帝京平成大学地域医療学部学部長・地域医療学部柔道整復学科学科長・教授。平成29年4月、帝京平成大学健康医療スポーツ学部学部長・健康医療スポーツ学部柔道整復学科学科長・教授(地域医療学部から学部名変更)。令和4年4月、帝京平成大学健康医療スポーツ学部柔道整復学科(千葉キャンパス)学科長・教授(現在に至る)。令和5年4月、帝京大学医療技術学部柔道整復学科(宇都宮キャンパス)学科長・教授(現在に至る)。

所属している学会:
日本外科学会、日本肝胆膵外科学会、日本柔道整復接骨医学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会、日本超音波医学会、日本腹部救急医学会、日本臨床外科学会、日本膵臓学会、日本胆道学会
社会活動:
平成17年6月、社会保険診療報酬支払基金:千葉県社会保険診療報酬請求審査委員会委員(令和4年5月まで)。平成22年11月、日本医師会認定産業医(第100164号:現在に至る)。平成23年4月、公益財団法人中山がん研究所理事(令和2年3月まで)。
 
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