menu

ビッグインタビュー:(一社)未来医療研究機構 代表理事 長谷川敏彦 氏

2016/11/18

―格差社会が拡大し、結婚しない若者も増え、人口減少する中で高齢化が進行するため、社会保障が立ち行かなくなっています。50年後を目指してどんな実験をされようとしているのでしょうか?

今までの中年・高齢の方は第1トラックがあった訳ですが、今の若い人は第1トラックに入れてもらえない人が出てきています。所謂非正規雇用で、会社で勤めあげてリタイアするというライフコースがイメージ出来なくなっていて、第1トラックにすら入らせてもらえない。場合によっては積極的にそれを選ばない人たち、いわば最初から第2トラックみたいな人が出てきています。それを如何捉えて如何いう風に対処するかというのは課題が多く、もしかするとみんながそういう様なことになっていくのかもしれません。家族の形態と働き方の形態も変わってきて、結婚しない人も出てきますし、高齢で連れ合いが亡くなって一人で死ぬ人も多数います。昔のように誰もが家族を形成し子どもを産んで育て終わってリタイアしてというコースが無くなってくるような、社会そのものの設計が変わっていくと思います。20年後か30年後に一挙にそういう問題が噴出するのではないでしょうか。今から10年、20年間は団塊の世代が高齢化していって、社会的負担がどんどん増えていく。みんな漠然と考えている不安が実体化してくる時代だと思いますが、それを超えると全然違う課題を我々は突き付けられることになります。高齢者への資源は、2040年頃までで良いが、それを支える人たちが減っていくので、効率良く使うという考え方ですが、支える・支えないというよりも全然違う社会になっていく。違う社会を目指して、いろんな機構を全部作り変えていかなければいけないと思います。その中で、働き方の問題というのは、凄く大きな問題です。

 

―「生存転換論」をいま一度ご説明ください。

実は日本の社会変化は大体50年毎の区切りで今日まで来ているのです。例えば「大化の改新」から「大宝律令」までが50年です。また「ペリー来日」から「不平等条約撤廃」までが50年です。かの有名な信長から家康、つまり桶狭間のデビューから大阪夏の陣まで54年で、この間いろいろな事件があったので随分長いと思われるのですが、実はたったの50年です。つまり3つの世代が一緒になって、これから先の50年を考えることです。例えば愛知県の場合は、リーダーシップでした。戦後すぐ愛知県知事の桑原幹根氏は愛知県で産業を起こすインフラを作りました。製鉄所を作り道路をひき、港湾を整備した。彼がビジョンを持ち強引なくらいのリーダーシップでやった結果、50年位して花咲いている訳で、大阪を抜いたのは1990年、2006年には東京を抜きました。いま日本一の製造業、バブルがはじけても何とか持っています。やはり50年後位には変われるのです。ところが、今回はこれまでと違ってモデルがない。日本がモデルですし、戦後の時は焼け跡から復興するんだと目標がハッキリして気持ちが一つになれたのですが、今は目の前の問題がハッキリしないことと未だある程度豊かなので、目指すところが非常に分かりにくい。これまでは、社会或いは人類ということで目標を与えられていたのです。今回は、人類史上かつて無い社会、全く違う社会を目指すことになるため、ある意味分かりにくく、状況が勝手にどんどん進行している訳で、新しくなっていくことに対してお手本にしていくシステムが無い。高齢社会が足を引っ張って、このまま行ったら日本は沈没することになるが一番の問題は、解決方法が分らないということです。

 

―解決方法がない中で、どのような社会にしていこうとされていらっしゃるのでしょうか?

3つの世代が一緒になって50年後の社会を変えていく努力をするしかない。最後の資源を持っている団塊の世代がそれを上手に使って、新しい国を作るという風にしなければなりません。その最後のチャンスだと思います。同時に起きてくる様々な問題を、町で同時並行に解決していくことの実験をしないと無理です。ケアの問題、労働の問題、家族の問題を夫々個別に考えたり実験するのではなく、地域や町を作っていくという形をとらなければもう無理でしょう。元々私は医者で、ケアの問題から始まって、いろいろずっと分析を続けていくと介護の問題を超えてしまった様に、特に2040年以降には全然違う問題が現われてくることに思い至りました。今後、社会や人の生き方が変わっていって、国が変わっていく構造になっていますが、更にチャレンジだと思います。つまり、今までは何所かに答えが、例えばヨーロッパに行ってこんなに素晴らしいシステムがあるから、こういうのを作りましょうといって、日本でいろいろな実験をして、上手くいったらそれを使いましょうというモデルがありました。今度は壮大な社会実験ですので、医療の目的は不老長寿はしようがないという風にシフトしなければならない。今までは命を守る、ガンや病気になっても死なせないということを中心に研究してきた訳ですが、あらゆるお金やエネルギーや時間をそっちにシフトしていく。これからは例えば耳が聞こえる、目が見えるようになる、歯で噛めるようになる、歩けるようになる等、そういった身体機能、100歳になっても障害が少なくて元気で頑張っていくには如何したら良いか。ことほど左様にそういう障害をどうしたら予防できるか、どうしたら治せるかということに研究のエネルギーを投下すべきと考えます。

 

―埋もれている人材の発掘と、その方々を繋ぐネットワークの構築がスタートでしょうか?

第1トラックの人というのは、みんなが結婚し子育てをするように、自分も結婚して子供もつくりたい、育てたいというのがあると思います。しかし、それが終わってしまった後に先述の「出家した人」等は、方向性がハッキリしていないので、みんなバラバラです。15‐50の世界であれば、ご本人も家族も社会も同一のベクトルで、労働して社会を支え、子供を産み育てるということで一致していました。又それが社会の発展であり、社会全体をお互いが支え合っていた訳ですが、それが一旦終わってしまったら、みんな方向がバラバラで、しかもその方達が3分の2も占めるという社会は危険でもあります。従ってその人たちがネットワークを構築していく必要があります。人々を結びつけられるとすれば個人個人の意志しかありません。1600年代、オランダが所謂株式会社という資本を調達する方法を考えた様に、日本はこれから志で人々の活力をまとめる「志銀行」みたいなWill Bank、つまり志を集めて、それによって人が繋がっていくということでしか、バラバラになった社会をもう一度纏めることは出来ないと思います。そういう提案をしたところ、山口県下松市の保健師さんが賛同してくれまして、還暦前後の人を集め登録して〝グループを作って活動しましょう〟と市全体の活動として、いま始められています。社会の観点から見てもっと拡げるためには、要介護・要支援ではないのに働いていない人が2000万人も居て、これを私は「空き人」と呼んでいます。この「空き人」を如何利用するかというのが社会の観点からも重要で、これまでの働き方とは違って、自分が何をしたいかということでしか働きません。つまり何度も言いますが、若い時は子どものために社会のために、体を壊しても頑張ろうという人が結構多い。ただし、50歳を過ぎたらそういう事はもう如何でも良いとなって、自分自身のために働らく〝ネクストステップ社会に如何貢献するか〟ということで、働らくようになると思いますので、そのためにも「志銀行」が必要になると思っています。

 

―柔道整復師さんがお読みになるサイトですので、柔道整復師の役割について長谷川代表はどのようにお考えになられているでしょうか?ご助言をお願いします。

いろんな能力や技術を持っている方が総力戦で高齢者を支えていくことは物凄く重要です。1つ提言したいのは、例えば15‐50みたいな世代を中心とする医療から考え方や方法が大きく変わっていくと思います。教える側の問題もあり、医学もそうです。今まで15‐50の世界を中心にやってきて、そこで成功した人間が教授になる訳ですが、これからの地域包括ケアの時代に合わない教育をしていると思いますし、柔整もそうなっている心配はあります。医療の歴史の中でこれからは予防に力を入れようという話になっている訳で、1つは社会の変化に合うように、それが職種のアイデンティテイと如何いう風に合わさるかというのは大きな課題です。外傷が中心の業界であったのが相対的には怪我をしない形の支援をしようという社会になっているので、そういうことが出来るような業界にするというのは、業界の考え方や教育に課題があります。一時的にどういうニーズが必要かということになる訳ですが、一方安全性という意味で、質と危険性という観点からは一定の教育と一定の能力という制限がかかることはしかるべきと思います。しかし、どうもマーケットの奪い合いみたいな側面があって、大変無駄な消耗戦だというようにも感じます。位置づけ直す必要があるのではないでしょうか。ただこういったことは個人が出来ることではないから大変でしょう。

 

―長谷川代表は様々な研究会を持っていらっしゃいますが、新しく作られた研究会について教えてください。

新しく「進化生態医学」という研究会を作りました。高齢者の健康のインフラは、食べる・動く・交わるという3つの課題があるということを感じ、調べてみると言っていることは皆さん同じように感じました。つまり姿勢とか筋肉とか骨等の課題は、今までいろんなグループやいろんな人がやってきても中味は非常に共通しています。アメリカであればオステオパシーやカイロプラクティックがありますし、中国に行くと鍼灸・マッサージ系の人がいます。最近ではOT・PTさんが筋膜系を言いだして、流行っています。理論は違うけれども行っていることは一緒だなと思って、それを統一的に理解することが良いと思い始めました。いろんなバックグラウンドがあって、在宅ケア、訪問看護、鍼灸の人が中心です。原則は実際に臨床をやっておられる方とお願いしています。メディアの方も2・3人いらっしゃいます。

 

●長谷川敏彦氏プロフィール

1975年、米国ヨセフ病院外科レジデント。1980年、ハーバード大学公衆衛生大学院修士。1983年、滋賀医科大学外科助手・消化器。1985年、国立がんセンター企画室長。老人保健課補佐。JICA課長。国立病院九州地方医務局。2000年、国立医療・病院管理研究室。国立保健医療科学院部長。2006年、日本医科大学医療管理学教授。(一社)未来医療研究機構代表理事、現在に至る。
(一社)未来医療研究機構  hasegawa@rifh.or.jp

 

前のページ 次のページ
大会勉強会情報

施術の腕を磨こう!
大会・勉強会情報

※大会・勉強会情報を掲載したい方はこちら

編集部からのお知らせ

メニュー