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インタビュー:東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科・中澤正孝 氏

2015/05/01

いま柔道整復学の構築は、どうなっているのだろうか?2008年に日本柔道整復師会から「柔道整復構築プロジェクト報告集」が刊行され、その後富山大学大学院医学薬学研究部に『柔道整復学講座』を開設、着々と進行中である。 また、柔道整復大学も明治国際医療大学を皮切りに現在14大学が開学した。柔道整復学士も輩出され、接骨医学会では毎年約200題もの学会発表が行われている。

東京有明医療大学柔道整復学科で講師を務められ、医学博士の中澤正孝氏に研究への情熱と今の教育現場についてお聞きした。

 

道は必ず開けると信じて、柔道整復学を柔道整復師の目線で追及していく必要があります!
中澤正孝氏

東京有明医療大学
保健医療学部柔道整復学科
講師・医学博士 
中澤 正孝 氏

 

 

―中澤先生のこれ迄の経緯を教えてください。

私は20代半ばで結婚したその翌年度、花田学園に入学しました。小学4年生の時に鉄棒から落ちてグニャッと曲がった手首を接骨院の先生に治してもらったことが強く印象に残っていましたし、何よりも義父が接骨院の先生だったんです。ですからすんなりとこの世界に入りました。

花田学園を卒業して、そのまま教員になりました。花田学園には整形外科クリニックと接骨院が併設されておりますので、そこで臨床経験を少しずつ積みながら、教員助手として知識を蓄えていき、3年後に専科教員の免許を取得しました。

その後、平成16年に東京医科歯科大学の臨床解剖学分野(秋田恵一教授)で勉強させて頂くようになりました。その時の研究テーマは「大胸筋の筋線維構築の肉眼解剖学的解析」でした。初めて発表したのは明治国際医療大学で開催された接骨医学会の時でした。

平成21年には渋谷の花田学園から有明に籍を移し現在に至ります。博士号を取得するまでに10年かかりましたが、この期間は今の私にとって何物にも代え難い、貴重な経験となりました。教員として在籍しながら研究する機会を与えて頂いた櫻井康司先生(花田学園理事長)には心から感謝しています。

 

―研究の面白さとは、どういったところにあるのでしょうか?

大胸筋は扇型をしているのですが、その扇の要(かなめ)にあたる部分が大胸筋では筋束が捻じれて見えます。1つひとつの筋束は真っ直ぐですが、筋束の集合体として眺めると捻じれているから不思議です。筋のかたちから考えうる筋の作用に思いを馳せているとすぐに時間がたってしまいます。ある筋を極めてくれば、他の筋はどうなっているんだろうと、次々に興味が湧いてきます。文献を紐解きつつ興味を持って観察していると、「疑問」に変わっていきます。その疑問は新しい研究テーマとなります。適当な気持ちで観察していたら、疑問は湧いて来ないのです。

花田学園の非常勤講師に坂井泰先生(文京学院大学)がいらっしゃいますが、坂井先生曰く「研究はエンドレスだよ」と。一つ分かると新たな疑問が出てくる、また一つやれば出てくる、研究に終わりはないんです。研究していると辛いことも多々ありますが、嬉しいことも同じくらいあります。今後もずっと研究を続けていくつもりです。

研究の醍醐味というのは論文を書くことなんです。既知のことと未知のことを紹介しながら、肝心な研究結果を読者に読んでもらえるように工夫を凝らす。読んでいて飽きさせないように、かつ、理路整然と進行する物語風の研究背景を作成する。その時間が凄く楽しいのです。

 

―大学が多く出来ましたが、専門学校との明確な違いについて教えてください。東京有明医療大学では、どういったことに力を入れていらっしゃいますか?

専門学校教育は修業年数や取得単位数が大学教育と比較して短いですね。専門学校は短期集中型で、大学は熟成型と言えるかもしれません。その違いを実技の授業を例にとって考えてみると分り易いように思います。専門学校では、先生方が「こうやれば治る」と、熟練の経験則に基づいて教えてくれます。しかし修業年数が短くコマ数がタイトなため、一つの外傷の実技が終われば次の外傷に話を進めなければならず、その外傷の治療法に学生が疑問を挟む時間的余裕はないというのが実際のところだと思います。

一方で、有明(大学)では実技で「こうやれば治る」と同じように教えます。しかしその後、『私はこんなやり方だが、君たちにも整復方法を考案してほしい』と学生に質問を投げかけます。そしてグループ別に発表させて、先生からの臨床経験と理論に裏打ちされた質問の応酬に耐える新しい方法が提案されることがあり、学生のアイデアに感心することも多いです。

大学教育では柔整の実技コマ数が多い他に、解剖や生理学などの基礎医学実習が多いことも挙げられると思います。そこで、彼らは疑問や課題を解決するために、実験機材を利用できるようになります。心電図をとりながら心機能について学ばせたり、ウシガエルの坐骨神経を取り出して神経伝導速度を求めさせたりして私も生理学実習を補助していますが、学生は面白がって熱心にやります。やはり実験機材を使うというのはアカデミックな雰囲気を味わえる良い点です。

そして4年次になると、その集大成として卒業研究を行います。そこで「自分が感じた疑問を自分で解決する」ことを実行します。すべての疑問に対応できるわけではありませんが、抱いた疑問を解決する理論的思考とその実践方法をしっかりと身につけさせたい。問題提起とその解決能力の獲得、これを目指すよう課せられたのが大学教育であり、そこに有明の教員一同力を注いでいます。

 

―大学では疑問解決能力を付けることが目標の一つなんですね。では、専門学校はそういった面をカバーできるんでしょうか?

渋谷の専門学校では持ち上がりの担任制を採用しています。入学してきた学生を迎え入れ、国家試験を受けさせて送り出すまでの3年間、一人の教員が担当します。一方、有明では学年担当制というシステムで、複数の先生が同じ学年を受け持ちます。ですから大学における教員と学生のつながりは専門学校と比べるとはるかに薄くなってしまいます。専門学校では、ひとり一人の学生に目が届きやすいので、元気のない学生を見つけても声をかけることができます。2年生あたりになれば信頼関係もキチッと築けているので、学生を叱っても後腐れのないことが多いですし、3年生になれば学生の個性に合わせた国家試験対策が可能です。

一方、有明では、あまり話したことのない学生がゼミ生になることもあります。卒業研究を通してお互いの理解は深まりますが、やはり過ごした時間の長さでは専門学校生にはかないません。大学で卒業研究を行っていると、実験が計画通りに進まなかったり、よい参考文献が見つからなかったりします。でも、ひとり一人が異なる研究テーマを持っているため、同じゼミ生に聞いても参考になるアドバイスをもらえないことが多い。基本的に卒業研究は教員と学生1:1の関係です。だから学生は、自分の疑問は自分で解決するものとしてとらえている恐れがあります。

しかし、専門学校生だったらすぐわれわれに聞いてきます。彼らとの世間話の合間に「そういえば・・・ってどういうことですか?」という感じでよく質問を受けていました。彼らは卒業後もいろいろと聞いてきます。教員と学生の距離が近い担任制は、人に聞いて疑問を解決する力を自然と身につけることに、かつ、医療人に欠かせないコミュニケーション能力を高めることに役立っていると言えるでしょう。

 

―教育者として心掛けていることがあれば教えてください。

私が学生に講義をする時に最も気をつけているのは、「わかりやすく伝えること」です。例えば臨床経験に長けていても、その実技の伝え方が上手でないと学生の手は止まってしまうでしょう。いくら豊富な知識があっても、その講義次第で学生の頭には何も残っていないということがあり得ます。

京都大学iPS細胞研究所所長の山中教授がNHK番組の対談の中で「研究成果が50%、伝える力が50%」と仰っていました。つまりiPS細胞の発見とその発見を正しくわかり易く人に伝えることの重要性あるいは困難さは同等だと。山中教授の講演を一度だけ拝聴したことがありますが、観客をひきつける話術には勉強させられました。以前から、どういう風に伝えたら学生の心に響いて、スンナリ理解され易いのかというところにこだわっていろいろ試行錯誤しましたが、山中教授の話をお聞きして、自分もそうありたいと強く思っております。

また、研究者としての師匠である秋田恵一先生からは、論文に載せる解剖の略図はだれがみても理解できるように書かなければいけないと教えて頂きました。これは解剖学者でないその他の領域の研究者がみてもという風にとらえていますが、わかりやすく伝えることの難しさは研究的観点からも同じであると思います。接骨医学会で口頭発表を聞いていると、何の研究をしたのかさっぱりわからないうちに発表が終わってしまうことがまれにあります。これは聞く人のことを考慮せず、自分の言いたいことを羅列するだけの発表者にみられます。こういった人は聞く人の目線に欠けているように思われます。子供目線、お客様目線、あるいは上から目線なんて言葉がありますが、私は教育者として学生目線という言葉を大事にして講義するよう心がけています。伝わる、つまり理解してもらえなければ講義は無駄になってしまうと思いますから。

 

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