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ビッグインタビュー:広島国際大学保健医療学部准教授・諌山憲司 氏

2015/04/16

東日本大震災から4年が経過した。近年頻繁に起こる大規模な自然災害。また、南海トラフ地震や首都直下地震が予測されている中、徐々に国民の防災意識も高まり、災害に強い国・コミュニティの構築を目的に、いま内閣官房を中心に国土強靭化計画が図られ、2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議でHFA(兵庫行動枠組)2の指針が出されたばかりである。

諌山憲司氏は、数々の緊急・災害現場で消防官・救急救命士として救護にあたられ、その後、医科大学大学院や京都大学大学院で医療と防災の研究に取り組み〝従来の概念・枠組みや対策のみでは想定を超える危機に対応できない〟と唱えている。徹底的に現場主義を貫く諌山氏に、国民は災害に対して如何立ち向かえば良いのか?健康医療対策等もふまえて話して頂いた。

大災害は自然現象であり、まず自助力を強めることが最も大事!
諌山 憲司

広島国際大学
保健医療学部
准教授  諌山 憲司 氏

 

 

―諌山准教授のこれまでの経緯について教えてください。

私は、約2年前までは、消防官で、19年間、消防(火災防御)・救急救助の実務にあたっていました。その間、7年ほど救助隊員で、救急救命士の資格を取って、8年ほどは救急隊員として日常の火災や救急救助の各種災害現場に出動しました。また、勤務と並行し大学院でアジアにおける災害国際協力、災害対策、コミュニティ防災などについて研究しました。つまり、災害に関しては、実務と研究の両面から取り組んできたことになります。

大学時代にアメフトをしていた関係でスポーツトレーナーやアスレチックトレーナー、理学療法にも興味があり、運動による怪我から、接骨院によく行き、柔道整復師にも興味がありました。消防という枠の中で出来ないことを勉強していく上で、もっと災害の研究を続けるか、医学の勉強を続けるか悩みましたが、医師と深いディスカッションをするには、博士の学位くらいは持っていなければと、医科大学大学院にいくことにしました。その大学院では、出血性ショック後の免疫状態の研究をしました。修了後は、以前から〝医療の分野から災害をどうにかしたい〟と思っていましたので、いよいよ本格的に取り組みたいと、京都大学大学院で研究を始めました。漸く自分がやりたいと思ってきたことに取り組めるようになりました。

 

―災害時には消防官のお仕事と救急救命士のお仕事は明確に異なるのでしょうか?また自衛隊の方との役割は異なるのでしょうか?

消防官と救急救命士の役割は違いますが、救急救命士の資格を持っていても、日によっては、消防車のポンプ隊になったりスプリンクラーや自動火災報知設備等を点検する係りに回ったりします。災害の規模にもよると思いますが、自衛隊が出動する災害というのは、例えば最近であれば、広島の土砂災害と御嶽山の噴火がありましたが、ああいう長期にわたる、大規模なエリアに及ぶ災害になります。原則として消防は、フェーズでいうと急性期に出動し救護にあたります。自衛隊は、捜索と救出にあたります。人員を投入して炊き出しをしたり、風呂を設けたりする等、そういう活動展開は、自衛隊にしか出来ません。各々の役割は違いますが、捜索に関しては、消防、警察、自衛隊の指揮命令系統が違うだけで、横並びでいく感じになります。

 

―近年、自然災害が多発し、国民はいつ起こるかもしれない自然災害に対する危機意識や防災意識はこれまで以上に高まっているように思います。諌山先生が経験された多くの緊急・災害現場から、これだけは国民皆が知っておくべき教訓など教えていただけますか?

「自分の身は自分で守る」ということです。生物、動物として子孫を守る等、自分と家族を守るということです。その上で、社会の安全ネットがあるわけですから。近代になり、社会と経済の活力が右肩上がりの時だけが、社会の手が届きやすい、届ける余裕があるというだけで、特に日本は、自分で自発的に生き残る意識に欠けています。個別の災害への教訓を論じても意味がないと思われます。自然災害は、地球の営みの中での自然現象に過ぎません。雨や雪の延長です。

 

―東日本大震災における医療支援の課題として、コーディネート不足である。急性期における救援チームの調整、亜急性期以降の保健・福祉・公衆衛生を含めた調整不足です。ネクストクライシスや更に多くの救援物資が集まることを予測するとコーディネート機能をより充実させる必要があると第17回統合医療学会シンポジウムでお話されていますが、その辺についてもお聞かせください。

元来、日本人は、コーディネートが下手です。戦争や紛争などの危機に直面していない国は、やはりそうだろうと思います。戦場で重要なことは、情報収集です。先発隊がどういう動きをするか、それに続く後方部隊や偵察部隊の動き、今であれば衛星などを活用し偵察システムを設置する等が、重要となってきます。常に、戦う前のブリーフィングや作戦のミーティングを短時間でやれるよう訓練しています。

日本の場合、水を飲めるのが当たり前、時間どおり電車が来て当たり前といった便利大国の中で生きているので、平和ボケしています。有事の際に動けと言っても中々動けないでしょう。しかも全体を把握するコマンダーになる人も養成していません。とにかく、日本という国は、コーディネート機能を充実させることが非常に難しい風土です。難しい風土であるが故に、しっかり訓練しておく必要がある訳です。いま私は、子供だけでなく大人にもサバイバルキャンプを推奨し、無理にでも社会に組み込んでいく必要があると考えています。

 

―各自治体でも本格的な防災訓練が行われているように思いますが…

訓練が、実のあるものであれば良いと思いますが、実のない訓練ならば、時間の無駄と思っています。どんな訓練を行えば良いかというのは、1つは、先程のサバイバルキャンプです。

以前、私は、イスラエルの軍の訓練施設を視察しました。何億もかかっている施設でしたが、極秘のため訓練所の写真は、全く撮ることが出来ません。その広い大きな訓練所の中に、人形が倒れています。しかも、暗くしてあって煙がたかれていて、ヘリコプターの音やフラッシュ、風や臭いもある。そこにメディカルチームが5人くらい、医師・パラメディック・ナースが入って行って、トリアージして誰から救出するかという訓練です。現場により近い訓練をしておかなければ、戦場で生きるか死ぬかという中で、助けることなど出来ません。つまり、綺麗な明るい静かな所で訓練をしていても役に立たない。それをしているのが日本の防災訓練です。

これまで私は、何かがおかしい、違うと思いながらアメリカやイスラエル、発展途上国の救急医療体制を調査しました。特に印象深いのは先述のイスラエルで、まさしく現場により近い訓練をしているのを目にして、スッキリしました。というのは、もうそろそろ実際の現場の状況とかけ離れた訓練は、意味がないということを知るべきだと感じていたからです。勿論、年一回の大がかりな避難訓練を否定するものではありません。ただ、それで「災害対策OK」というのは、違うということです。南海トラフ地震が起こった時に、甚大な被害が予測されている市町村などでは、危機感をもって、私が提案しているような「救災」、〝家族と近所でどのように対応するか〟という取り組みをコミュニティで始めたようです。これから、日本の各地域で、このような取り組みが少しずつ進んでいくのかなと思います。

 

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