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ビッグインタビュー:全日本柔道連盟ナショナルチーム監督  井上 康生 氏

2015/03/01

―平成24年(2012年)4月から中学校体育で男女共に武道が必修になっています。しかし柔道が一番事故が多いということですが、その主たる要因は何だと思われますか?また怪我を防ぐために現場で求められていることは何でしょうか?こうしたことを克服してぜひ柔道を多くの学生に広めていただきたいと思います。

先ほどの「指導者に求められること」という質問の答えと重なると思いますが、柔道による事故をなくしていこうという中で一番重要なのは、指導者たちがどれだけ多くのことを学んで、生徒たちにその学んだことをしっかりと伝えていけるかが一番大切なのではないかと私は思います。

日本で始まった柔道でありますが、フランスで行っている柔道教育は学ぶ点が多くあります。良い面は良いと認めて、その成功例を如何日本バージョンとして作っていけるかが、私は今後とても重要なのではないかと思っていますし、これから我々は柔道における事故をゼロにしていくためには、現場で学んだ様々なことをしっかり活かし進めていくことが大事であると思っています。また身体の構図や医学的知識等の知識力を向上させていくことが大事であると思いますし、指導する上で必要不可欠と思います。自分らはこうやってきたからという経験だけでは指導者としてやっていけないと思います。先ほどの話に戻りますが、今の環境と昔の環境は全然違う訳ですから、いち早くその時代時代の様々なことを敏感に察知して、対応するなど、その現場で何が必要かというものを考え抜いて、還元して行くことが非常に大事なのではないでしょうか。

 

―井上康生監督は、選手時代に右大胸筋断裂の怪我をされたそうですが、どの位で完治されましたか? また接骨院にかかったことはありますか?

柔道ができるようになるまでには半年くらいかかりました。試合に出たのが1年半後くらいでしたので、じっくり慎重に治して試合に臨んだというところはあります。東海大学病院で手術をしてリハビリも行いました。今も数多くの選手たちを診てもらっておりまして、元全日本柔道のチームドクターもされていた方にオペをしていただきました。 接骨院には、小さい頃に時々行っていました。また高校でもお世話になっていました。高校で肘を脱臼した時もずっと整骨院でお世話になっていました。しっかりリハビリを行ってトレーニングもみっちり行った上で現役に復帰しましたから、その後に再発はありませんでした。その方は柔道整復師で、柔道をされており、道場の先生でもありました。いろいろ技術的な指導もしていただいたり、その先生の息子さんが私の高校・大学の先輩でもありましたので、時には食事をご馳走になったり、柔道の話もしていただきました。

 

―東海大学には有賀先生という有名な指導者の方がいらっしゃいますね!

私はトレーニングに関して有賀先生にみっちり鍛えて頂いた一人であり、有賀先生のサポートなしには世界チャンピオンやオリンピックチャンピオンの栄光はなかったように思います。その様に、私は全日本監督になって、如何に様々なプロフェッショナルの力を借りながら世界と戦っていくかという課題を持ってやっております。我々は世界と戦っていく中で、究極を追い求めていかなければなりません。そのためには様々な分野で極めた方々に協力して頂き、高い知識、理想をもった集団を作り上げることが重要と考えております。いま全日本の中で、また私自身の現役の中で、科学的な様々な分野の力を借りながらアスリートを強化しております。

されど試合というのは予期せぬことが起きたり、尋常ではない世界で戦っていきますので、いわば非科学的な目に見えないものも必要になってきます。そのバランスをよく考えた上での練習をやってきましたし、今後もそれらを取り入れながら指導を行っていきたいと考えております。

 

―以前からだサイエンス誌では、2009年12月に開催された『柔道グランドスラム2009』終了後に了徳寺学園柔道部監督の山田利彦氏、コーチの金丸雄介氏、福見友子さん、小野卓志さん達を取材させていただき「輝け、柔整の希望の星たちよ!」と題した記事を掲載させていただきました。その時にある選手が言われたのは、選手引退後柔道整復師になられる人も多いが勉強しなければならないのでハードルが高いと言われたことが記憶に残っています。柔道一筋でこられた方が、学校の武道教育現場で指導にあたられたり、接骨院の先生になられ地域の青少年教育の育成に関わられ貢献されていらっしゃいます。このことについて井上康生監督はどのように思われていらっしゃいますか?

セカンドキャリアということで、いま柔道だけではなく、全スポーツに対して注目されているところだと思います。私自身も柔道一筋でやってきた中で、勿論柔道で生きてきたことがメインであり全てでしたから、他の分野でとなると自信を持っていえることや自分がどれだけ出来るというものはありません。

いろんな分野に行くにしても第二の世界に足を踏み入れるというのは、大変だと思います。例えば、会社に勤めるにしても、或いは柔道整復師の勉強をするということもそうですが、自分自身が今までの人生を歩んで来た中で〝こういう人間になって行きたい〟ということを明確にして、更にその目標に向かって全力で取り組めるかどうかが実は最も大事になってくるのではないかと思います。常に自分自身どう生きていくべきか、どういう人間になっていきたいかということを自問自答しながら生きているところがありますので、其処を深く考えていけば自ずとやるべきことが見えてくると思いますし、人夫々の立場で全力で生き抜いて、しかもそれをどのように社会に還元していくかということが非常に大事になってくるのではないかと思っておりますので、柔道整復師の方々たちは、怪我やいろんな困難と闘っている方達に体のケアをされ、また心のケアも出来る非常に大切な仕事の一つであると思っています。

繰り返しになりますが、私自身も怪我をした時に、体も心もどれだけ助けられたか、今の自分があるのも、そういう方達の支えなくしては、ここまで来れなかっただろうという思いがあります。ですからそういう道に進まれる皆さんは、柔道整復師という仕事に対して誇りと自覚というものを持っていただいた上で、仕事に専念されることが何より大事ではないかと思っております。

 

―柔道整復師もそうですが、今後国民みんなが地域貢献をやっていくことになるようですね。

そうですね。今プロの世界、プロスポーツにおいても地域密着ということが重要視されております。プロ野球やプロサッカーを始め、多くのスポーツ関係がまさしく今そういうことを大きく取り上げて活動されていますし、地域密着・地域貢献というものは、私は非常に重要なことであると考えています。最初にお話した通り、やはり誠意を持って我々は人と人との繋がりの中で生きていますので、常に周りの人たちや様々な分野でお世話になっている方達に対して感謝の気持ちを持つということは、最も大事であると思いますし、感謝の気持ちを持って次の方達に繋いでいくということで非常に良い効果が生まれてくると私は思います。いま東海大学でも地域貢献に熱心に取り組んでいるところであり、私はとても良いことだと思います。そういう活動を一人一人の人たち、或いは一つ一つの団体が広く長く続けていけるように、そしてまた良き伝統というものが受け継いでいかれるようなシステムづくりを行って、そのためには一人一人の意識が最も大事なのではないかと強く感じています。

 

―嘉納治五郎先生が目指された「精力善用」「自他共栄」を柔道整復師の方々も目標にされておりますが、この意味するところを井上康生監督のお言葉で聞かせてください。柔道の道を切り開いている井上康生監督の考え、思いをお聞かせください。

私自身が考える「精力善用」「自他共栄」というのは、先ほども話ました通り、人間夫々の役割や立場というものがあると思います。ですが、その役割・立場というものに対して「誇り・自覚」を持った上で精一杯努力をし続けていく、そのことを嘉納先生も仰られている通り、例えば柔道を通じて社会に貢献することが大事だというところ、やはり我々はその立場から会社、学校に対して、家族に対して、自分自身が如何に貢献していくか。もっと言えば日本という国、また世界の平和や発展に繋がっていくことを考えた上で一生懸命生きていくことが大事だと考えます。

また「自他共栄」というのは、やはり人と人との繋がりだと思います。これなくしては人間社会で生きていけないと思いますので、常に周りに対しての気配りや感謝の気持ち、また恩恵の気持ちを持ち続けながら生きていく、しかも自分自身が高めようとしてやっていることを皆さんが大きく支えてくれますし、その中で自分自身も成長し、周りにも良い影響を与えていけるのではないかと思っています。やはり私は柔道家である以上、常日頃この言葉を胸に持ちながら生きています。

 

―2020年に開催される東京オリンピックへの期待などお聞かせください。

私は、スポーツというのは、この世の中で非常に必要なものと思っています。またスポーツは、平和や発展に貢献できる偉大な力を持っているのではないかと考えている一人であります。スポーツにおいて、例えばサッカーであればワールドカップ、野球であればWBCがありますが、全スポーツの中で最大のイベントといえば、やはりオリンピックですし、世界中総ての人たちが注目するものです。そういう意味では、スポーツをより発展させて、そしてまたスポーツを通じて社会に大きな貢献が出来るということも、オリンピックは大きな力を持っていると思っています。そういう全世界が注目する中で2020年に東京オリンピックが開催されることの意味は非常に大きいことだと思っております。日本という国をより発展させていき、また世界で「日本ここにあり」というものを知らせていくためにも、この東京オリンピックの成功というのは非常に大事になってくると思います。

選手は勿論ですが、スポーツを通じて日本の底力を見せてもらいたい。これまでスポーツにあまり関心がなく、直接的に関係がない方達も是非ともこの東京オリンピックに向けて、国民みんなが同じ方向を見て、いろんな形で携わっていきながら、所謂オールジャパンでこの『2020年の東京オリンピック』を成功させることが凄く大事です。それが皆さんの大きな力となりこの日本というものをより活性化させ、発展させていくことになるのではないかと思っています。是非とも全国の皆さんがこの東京オリンピックに同じ目線を向けていただくことと、本当にどんなことでも良いので何かに携わっていきながら一緒に目標に向かって、成功に向けてみんなで進めていくことが出来れば非常に素晴らしいオリンピックが開催出来るのではないかと思っています。

私はこの日本の素晴らしさというもの、日本の良さというものを日本に居る中でも、また海外に2年間居た中でも感じ取ることが出来ました。心から私は日本を愛している一人でありますので、2020年の東京オリンピックは精一杯自分自身が出来ることをやり、成功に少しでも協力できるように頑張っていきたいと思います。

 

                                 

●井上康生氏プロフィール

宮崎県出身。5歳で柔道を始める。東海大卒。1999年のバーミンガム世界選手権100キロ級で優勝。2000年のシドニー五輪の柔道100キロ級で金メダル。2001年の全日本選手権大会で優勝し、23歳にして3冠王者に。2004年のアテネ五輪では日本選手団の主将を務めた。2008年6月に現役を引退。日本オリンピック委員会の2008年度スポーツ指導者海外研修員制度によって同年12月から2年間英国に滞在。全日本柔道連盟の在外特別コーチを務める。2011年1月、スコットランドでの留学を終え帰国。同年3月、綜合警備保障を退職。同年4月、東海大学体育学部武道科専任講師、同大学柔道部副監督に就任。全日本のコーチとして世界選手権に帯同。現在、全日本柔道連盟ナショナルチーム監督を務める。また2013年8月、国際柔道連盟の殿堂入りを果たした。

 

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