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第30回日本柔道整復接骨医学会学術大会 開催

2022/01/16
特別講演

帝京大学医学部整形外科学講座教授・中川匠氏が「膝関節疾患・外傷に対する外科的治療」と題して特別講演を行った。座長は帝京平成大学教授・樽本修和氏が務めた。

私は大学時代、アメリカンフットボール部に属していまして大学5年の試合前練習でタックルを受け右膝の靭帯損傷を起こしています。かなり重症で靭帯3本、ほぼ脱臼みたいな状態で手術を受けました。こういうことで膝関節外科を目指し、今、膝関節の治療を行っています。
今日は、変形性膝関節症と、スポーツ外傷の2つの治療法をやっていきます。

 

変形性膝関節症の病態

変形性膝関節症は非常に多く、日本人の9割位で起こり、関節軟骨が加齢とともに摩耗し隙間が狭くなり徐々に曲がり進行するとO脚変形になっていきます。

変形性膝関節症の疫学調査では、加齢とともに増え、男性よりも女性が多く、60代の女性で6割、70歳だと7割、80歳で8割、患者さんは予備軍を含めて2500万人と言われています。

軟骨は、綺麗で、すべすべした血管の無い組織で白色をしています。血流が無いことから一度痛みが出てしまうと治りにくいという特徴があります。

関節内にはいろんなことが起きています。1つは炎症です。軟骨のくずが滑膜を刺激して関節に炎症を起こし、炎症が起きると膝関節に水が溜まり、炎症反応で痛みが辛くなる。軟骨はクッションのため無くなると骨に力がかかり骨がリモデリングといって固くなる反応があります。膝関節は荷重関節ですが、最近の研究で両足立ちで片方の膝に体重の1.05倍、両足であっても半分ではない。筋肉収縮と合わせると体重と同じくらいの力がかかっている。片足立ちは2.5倍。立ち上がり動作、しゃがみこむ動作も、大体2.5倍前後になります。階段を昇る時で3.16倍、降りるときは3.5倍くらいの力がかかる。また肥満になると変形性膝関節症になりやすいことが研究で明らかになっていて、BMIの上昇で35%上がります。

続いてX線は、アライメント、膝関節の向き、O脚とかX脚がないかどうか、隙間から軟骨がどれくらいすり減っているか、などが診断できます。下肢全体を観ること、患者さんの立っている姿、歩いている姿を見る、評価するというのは非常に重要で下肢全体のアライメントを明らかにします。

 

変形性膝関節症の保存療法

変形性膝関節症は、内科疾患と違い、非薬物療法が大事になります。痛みの悪循環現象があり、痛みが生じると安静にして使わなくなる、すると筋力が落ちて関節が固くなりバランスが悪くなる、その悪循環を断つことが治療の基本的な考え方です。

変形性膝関節症の国際学会のガイドラインでは、治療の基本はピラミッドのように段階的治療が推奨されています。

変形性膝関節症の保存療法

第1段階は、病気をよく知っていただく。運動療法、肥満は減量、これが基本です。運動療法は、痛み止めと同等の効果があるというエビデンスがあり、必要性があります。足上げ体操、伸びない曲がらない患者さんにストレッチ、ウオーキングを推奨しています。

第二段階は薬物療法、装具、理学療法士による介入。装具は、足底板を処方することがあります。薬は、以前より選択肢があり、特に先ほど言った炎症のある人には有効です。貼り薬もありますし、飲み薬、注射もあります。整形外科では、ヒアルロン酸は機能の向上に有効であると言われております。炎症のある場合はステロイドを打ったりしています。ただこれは一時的に痛みが良くなったからといって、それで全て良いかといったらそうではなくて、やはり運動療法を十分やる必要性があります。それでもダメな場合は手術となります。

 

変形性膝関節症に対する外科治療・最先端の人工膝関節全置換術

手術も「骨切り術」、「関節鏡手術」がありますが、一番多く行われているのは、「人工膝関節の置換手術」です。非常に患者さんに喜ばれ、成功した手術です。ただ手術は人間がやるので間違えることがある。

 

コンピューターナビゲーション

そこで最近の手術は、コンピュータナビゲーションとしてコンピュータ技術が導入され一様で正確に手術が出来ることになります。

人工膝関節は、95%の人が15年大丈夫で、70歳の人で100歳位まで平気で持つ。人工関節の満足度が8割位ですが、どちらともいえない微妙な方が2割位いて、それを減らす取組みが行われています。1つは、膝関節は、関節面が軸に対して平均値をとると少し内側に傾斜している。片足で立つと水平にならない。片足で立った時に水平になるような人は30%位で、あとは内側に向いている。実は患者さんが生まれつき持っていた関節の向きは、其々違っているが、画一的に同じやり方でやっていたので、不満の方がいるのではないか、ということが1つあります。若い時からO脚の方は特に日本人は多い。今までは全員真っ直ぐにしていましたが、実はこういう人を真っ直ぐにしてしまうと術後はよくない。

患者さんに合ったアライメントを求めていこうということです。

 

ロボット手術

ロボットを使うことで患者さんに合ったところに戻してやるという新しい取組みをやっています。

 

スポーツ膝外傷に対する外科治療

最後はスポーツ外傷の手術対象として、前十字靭帯損傷と半月板損傷について話します。

帝京大学はスポーツに力を入れ、八王子キャンパスにはスポーツ医科学センター、アスリートのケアをする素晴らしい施設があり研究も行っています。帝京大学だけでなく、日本のスポーツを強くしようということで一丸となって取り組んでいます。その他に栄養士が競技特性に合わせてバランスの良い食事を提供します。1階には診療所があり、MRIとかX線撮影をすることが出来ますので、一般の方でもスポーツで困ったことがあれば受診することができます。是非相談に来ていただきたい。

なお特筆すべきは、中に何人も入れる大型の高気圧治療室があって、復帰を早くすることが出来るので、これを使って研究を進めているところです。

 

前十字靭帯再建術

膝の前十字靭帯損傷はスポーツ選手に多い怪我で一度切れると治らない。そこで手術が必要になります。そのままにしていると怪我した当初は痛いんですけれども、1か月もするとよくなって、また出来るというようになる、しかしそれでまたスポーツをやると膝がカクンと外れたり、膝が崩れる状態になってしまって半月板とか軟骨を痛めてしまう。前十字靭帯損傷の手術は非常に進んでいて、元と同じように解剖的な再建が可能になってきています。元あった靭帯とそっくりな靭帯を作るようになってきています。殆どの前十字靭帯損傷は大腿骨側から切れるケースが多く、スポーツ選手は怪我したら直ぐ手術になるというケースが多いです。

前十字靭帯の手術は関節鏡という内視鏡を使って大腿骨側と脛骨側の骨に穴を開けて、そこにハムストリング、膝の屈筋腱から取った再建靭帯を2つ非常に小さい穴を大腿骨に2つ、脛骨側には3つ作ります。一昔前、術後のリハビリが大変でしたが、今は解剖学的に元とそっくりな靭帯を内視鏡を使った手術で行いますので傷が小さい。低侵襲で術後のリハビリが楽になりました。前十字靭帯の分野に関して手術のやり方が進歩してきています。

 

半月縫合術

半月板の手術もかなり進んできています。半月板損傷もスポーツ選手に多く、半月板が切れると引っかかったり、ロッキングでずれてしまうと非常に困ったことになります。

半月板は、重要な組織で、あっという間に軟骨が痛んでしまう。半月板は、軟骨と一緒で、半月板の真ん中の部分には血流はありません。ただ外側は3分の1の部分血流がありますので、ここは治る可能性がある。真ん中は中々治りにくいということで、以前は関節鏡を使って半月板をとってしまうような手術が行われていましたけれども、スポーツ復帰した後に水が溜まるや痛みが残ることがあり温存療法が多くやられています。

 

☆この後、質疑応答が行われたが、紙面の都合で割愛します。

 

 

 
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