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第30回日本柔道整復接骨医学会学術大会 開催

2022/01/16

第30回日本柔道整復接骨医学会学術大会が2021年11月13日(土)・14日(日)の2日間、帝京平成大学・池袋キャンパスで開催され、ハイブリット形式で行われた。

 

大会会長講演

帝京平成大学学長で大会会長の冲永寛子氏が「柔道整復学における大学のミッション」と題して大会会長講演を行い一般公開された。座長は帝京平成大学教授で日本柔道整復接骨医学会・会長の安田秀喜氏が務めた。

このようにハイブリッド形式で大会を開催できたことに感謝申し上げます。本大会のテーマが、「臨床と学術の融合」という大変大きなテーマです。今日は私が学長として柔道整復学におけるミッションをどのようにとらえているか。大学として、どのように社会に貢献しようとしているかを中心に、臨床と学術の融合を大学の立場からお話したいと思います。私はこの学会の大会長を引き受けるのが2度目であり、前回の2014年では、『「みる」(視・観・診・看) を探る』というテーマで、私も内科医の立場からお話をさせていただきました。本日は『臨床と学術の融合』という大きなテーマで開催されていることにこの学会の皆様の強い志を感じています。私と柔道整復学との関わりについて、少しお話してから本題に入りたいと思います。私と柔道整復学の関わり自体が柔道整復の在り方と趨勢を経験したということでもあります。まず2001年から帝京短期大学学長になったことをきっかけに、帝京の中でも最も歴史のある帝京医学技術専門学校に関わらせていただくことになりました。帝京医学技術専門学校は、1968年に設立され、設立当時は帝京柔道整復専門学校という名前で、当初から柔道整復師の養成をしており伝統ある専門学校でした。私として有難かったのは、柔道整復師養成課程を持つ様々な学校、つまり専門学校、短期大学、そして4年制の大学、加えて専門学校には夜間部、二部も含めて運営することを経験することが出来ました。養成施設の形態のバリエーションがあり、それぞれの対応を行っていくうえで、私としては柔道整復師を社会に輩出していくことを深く考えさせられる面が多くありました。池袋のような都会のど真ん中に柔道整復学科があるという一方で、千葉県市原市や宇都宮といった地方、地域で密着した教育と学生募集、その地域で魅力ある学部として、どうやって学生募集をしていくかと考えさせられたことは私の経験となっています。このような経験を活かして本日お話をさせていただきます。

2015年に厚労省から発表されたデータでは、柔道整復師の学校数が1998年に14校でしたが、5,6年で増えてきます。専門学校と大学を併せますと、2015年には109校になっています。定員数も上昇しており最初は1,050名ですが、8797名となっています。先述のように私が帝京医学技術専門学校に関わり始めたのが2001年でしたので、それから専門学校が増えていくという状況の中、本学の学長になったのは2007年ですので、まさに学校数が増えていくど真ん中にいました。すなわち、老舗の専門学校としての苦悩もありましたし、一方で新設する大学側としては、学生の志願者が増えていく中で千葉・池袋・宇都宮に次々と柔道整復学科を設置し、大学として柔道整復学士の人材養成というのはどうしていくのかということを常に考えてきたというのが私と柔道整復学との関わりの歴史であるということです。厚労省のデータでは、2011年くらいから学校数もだんだん頭打ちになってきます。その理由としては、学校数が増え、定員数が増えたけれども、定員を充足できない学校が増えてきたということで、この辺から厳しい状況になってきました。もう1つ、国家試験の合格者数・合格率は、課題の1つです。定員が増加しているのと同時に合格者数は増えていますが、合格率に着目してみると、1998年の学校数が14校の時には、合格率は85%を保っていました。合格者は増えているけれども、合格率は徐々に下がってきて2015年には、65.7%となり、昨年の合格率は66%。大体65~66%位で推移しています。学生数が増えて、合格者も増えている一方で、残念ながら不合格者も増えています。つまりなりたいと思って入学したけれども、なれない学生たちも増えているということになります。しかも大学の置かれている状況は、非常に厳しいものがあります。これは柔道整復学に限ったことではありません。日本は少子化で、人口減少の中で特に18歳人口の減少が大きく、2018年の18歳人口118万人を100%とした時に、2030年の18歳人口が88.8%まで落ち込み、実に13.2万人減少します。特に2020年から2024年までの落ち込みが非常に厳しいと言われており、その後少し回復したとしても、トレンドとしては減少ということで、最終的には2030年に88.8%となります。この少子化が進む中で、大学のミッション、使命は何なのでしょうか?ということで、いよいよ本題に入っていきたいと思います。

大学のミッションは、教育・社会貢献・研究の3つに大きく分けられます。この3つを掲げることによって、其々の教育機関としての質の向上が図られ、教員がレベルアップし、学生もレベルアップし、社会に素晴らしい人材を送り出すことが出来ます。先ず、「教育」に関してですが、柔道整復学科のカリキュラムマップに示しているのは、1年生から4年生までどのように学生が学修していくかを示したものです。教育機関において柔道整復学を如何位置づけ、学生たちに如何支援して、教員たちも自分たちが何所の位置で教えているのかを自覚することによって効果的に学修を進めることが可能になります。本学においては、パソコン演習、英語などを教養科目として1年生の間に学修します。やはり社会人として将来医療人になる上において、十分な素養となる科目群です。専門基礎科目では、医療人としての基礎知識を身につけます。つまり柔道整復学においては基礎的な医療科目を主に1,2年生で、解剖学・生理学・公衆衛生、一般臨床学、整形外科学等を学びます。2年生以降で学修するのが専門科目であり、柔道整復学の理論、演習、実習などで、この専門科目のボリュームが最も大きいです。また本学では更に学びたければアスレチックトレーナー、保健体育の教員資格が取得できるような環境を整えています。本学においては「社会人、そして専門的職業人として求められる汎用的知識と問題解決能力を有し、医療関連分野の基礎知識や専門的職業人としての自覚と責任感を身につけ、柔道整復師に必要な知識と技能、職業倫理を身につけ、地域社会に貢献する次世代を担うリーダーとしての資質を身につける。」ということを目指しており、1年生から4年生まで、学修を積み重ねることによって、このような力が卒業した時に身についているということを保証するものです。少子化の中、大学は、受験生に魅力ある大学であることをアピールしていくことが大変重要な問題であり、私は常にそういった観点から大学の将来ビジョンを先生方と相談しながら進めております。

また都会のど真ん中にある池袋キャンパスと比べた時に千葉キャンパスの柔道整復学科をどのような魅力をもって運営していくかということは、大きな課題でした。千葉キャンパスの魅力は何なのかということを先生達と検討した結果、都会とは比べ物にならない広い敷地において、「帝京平成スポーツアカデミー」というものを設立しようと考えました。地元の方々が通えるスポーツクラブのような施設を本学の先生方や学生たちで運営し、いま地元の方々800名位が会員として登録をされている状況です。千葉キャンパスのもう1つの魅力として運動部の設立をすすめることになり部活にも力を入れております。陸上トラック等を整備したサッカーグラウンド、柔道場を作りました。昨年、本学の女子サッカー部は全国優勝をしました。このように元々あった千葉キャンパスをどのように魅力的にしていくのかを考えた結果、スポーツであり運動部の部活動であるということになりました。人材養成、国家試験合格、そしてその後の医療人として社会で活躍できるようにということを考えながら進めてきた結果、柔道整復師の合格者数は全国1位、はり灸も全国1位の合格者数となっております。まだまだこれで満足せずにこれからもこの取り組みは続けていきたいと考えております。以上、大学のミッションの1つである教育という観点でお話させて頂きました。

大学のミッションの2つ目である「社会貢献」についてお話します。 社会貢献にはいろいろあると思いますが、どこの大学でも行っているのが、公開講座です。地元の皆さんを招いて、本学であれば、健康をテーマに、先ほどお話した「帝京平成スポーツアカデミー」では、地元の皆さんが参加できるようなアカデミーも社会貢献の一つと思います。そして2020東京オリンピック・パラリンピックにも柔道整復師の先生達が大変多く協力をされています。また接骨院も、地域で利用していただいておりますので、接骨院自体も社会貢献になっていると思います。また本学では、振込詐欺の様々なPR活動に地元で学習ボランティアとして参加しています。社会貢献をすると何が良いかというと、地域から信頼される、そして地域から愛される大学になれるということです。学生と教員だけで中で閉じてしまっていては、地域から愛され、地域から信頼される大学になることは出来ません。外に出ていろんな学生の学びの場を提供し、そして地元の方にも大学に入ってきてもらう、そういったことによって地域から信頼される大学になることが出来ます。更に本学ではリカレント教育を始めました。「リカレント教育」とは、一旦社会人として社会で働いていた人達に対し、ブラッシュアップやステップアップのために学修をすることで、更に社会で求められ活躍できるような教育のことです。柔道整復学においては、教育・研究・社会貢献を融合したものとして専科教員認定講習会を本学で実施することになり、今年度の4月からスタートしました。募集人員は前期・後期ともに30名です。コロナ禍ということもあり、オンライン授業と組み合わせながら実施することになりました。コロナ禍になりまして、オンライン授業というのは格段に進み、殆どの教員がこのオンラインを使いこなすことが出来るようになり、ITCのリテラシーが格段に向上したと思います。4月にスタートしたばかりのこの専科教員講習会は柔道整復学がおかれる大学の社会貢献として、本学の優れた教員たちと続けていこうと考えております。本学を修了された方は、全国の専門学校や大学で教える時に実際に役立つことを学修できるように効率化を工夫して参りたいと考えています。 大学のミッション3つ目の「研究」についてお話します。研究の場としての大学、教育機関の使命は、教育と同時に研究によって社会に発信することであるということを第一義としたいと思います。それに伴い、教員というのは、教育者であり、研究者である。この2つの顔を持つことが必要です。教員によって教育者よりの方もいたり、研究者よりの方がいたりして構わないと思います。ただし、両方の面を持ってほしいと思います。また大学のミッションとしては大学に所属する研究者を支援する環境を整えることです。科研費を申請するアドバイス等は教育機関として責任をもって行うべきです。そして本学の教員には、科研費だけではなく、いろいろな民間の資金を活用すること、外部資金を出来るだけ獲得しようということで奨励しています。そして私が教員に期待したいのは、研究マインドを持つということです。まず未知の事象に対して探求する気持ちを常に持つことが大事です。次に、論理的思考で、物事の原因、結果を論理的に考えられるか、これが研究の土台であると考えます。そして医学の世界はご存知の通り日進月歩であり、医療者としての日々の向上心を持つ。この3つが研究マインドであると私自身は考えています。教員には個人研究であれ、共同研究であれ、いろんな場で研究を進めていってほしいと期待しています。本学の学生さんも卒業研究として少しでも研究マインドを持つという意味でカリキュラムに卒業研究が含まれています。

次は大学にとって1つの柱である研究に関して、違った視点から話したいと思います。この第30回日本柔道整復接骨医学会の座長と演者の方々の男女比を抄録集の氏名から抽出しました(共著者は省略)。柔道整復接骨医学会の場合209人のうち女性は33人、つまり全座長・全演者16%が女性で、私の予想よりも高く、ぜひ頑張ってほしいと期待しています。柔道整復接骨医学会との比較として、10月に開催された日本アスレチックトレーナー学会では、少し女性が多く28%でした。柔道整復学会も今後女子学生が増えていますし、女性の先生方も増えていますので、本日この学会にご参加している方々、或いは学生の方々、共に今後女性の活躍というのも大事であると思います。医師のほうも女性が増えており、いま女性の入学者が40%位、全体でも30%位で増えてきております。これはどの業界でもこういったトレンドというのは、続いていくと考えております。しかしながら一方で、日本の男女格差というのは、世界から観るとまだまだです。ジェンダーギャップ指数は、男女の格差がどれ位あるかを調べたものですが、日本は160カ国中、なんと120番目であり、ちなみに1位はアイスランドです。先日の衆議院選挙では日本の国会議員の女性の比率が10%を切ってしまいました。日本の女性研究者の比率は、2008年の13.0%から2018年16.2%まで徐々に増え、実数も11万人から15万人位まで増えていますが、残念ながら世界的レベルまでにはまだ低い。韓国が18.5%、アイスランドでは44%ですので、世界最低水準であると言えます。女性研究者の6割が大学に所属しており、やはり大学が率先して女性研究者を育てていくという取り組みを拡げていくことが重要です。日本はご存知のとおり、超少子化、超高齢社会に突入していますので、働き方改革などを通じて女性を中心にダイバーシテイ人材で活躍しながら働き続けるような社会づくりが必須となると考えています。ここまで柔道整復学における大学のミッションということで、教育・社会貢献・研究、この3つの観点からお話をして参りました。

最後に教員の人格、つまり大学教員とはという私の見解をお話します。先ほどの自己紹介でお伝えしたように、私は元々医師でありながら、いろいろな流れで大学の方針を決める立場になったのが35歳位で、学長という立場でやらせていただいてから既に10年以上という中で、自分が思い描く教員に必要な人格というのは次の3要素ではないかと思っております。まず一つめの要素が医療者としての技術、知識、これはいわずもがな先生方が常日ごろから修練、鍛錬していらっしゃる分野であると思います。しかも医療に関する技術と知識は日進月歩ですので日々自分自身も勉強し続け、最新の技術・知識もアップデートしていく必要があります。特に教育機関で教える立場としては、間違ったことを学生に教える訳にはいきませんので、学生が社会に柔道整復師として正しい対応が出来るようにということを常に心がけていかなければなりません。二つめの要素は研究者としての論理的思考と探求心です。さきほども研究のところで述べましたが、強い志、意志、ビジョンなどを持って論理的に考えるということです。これら二つは個人によって強弱があり、特に柔道整復のように手技を伴う職種、または医師でいうと手術をする外科では技術にとても長けている人がいます。一方で大学では研究に力を注いでいる教員、外部の研究機関などと協力して研究を進める人がいます。これら二つの要素の要素を兼ね備えており、実は教員として一番大事なのは、全人格的素養であり、最終的には人として共感とか信頼とかを持って学生を導いていける、それには人間観、歴史観、哲学のバックグラウンドも必要ではないかと私自身は考えています。全人格的素養といわれるものは、先の2つすなわち最新の知識・技術と倫理的思考・探求心を磨くようにしながらも、全人格的素養というものも同時に磨いていくことによって、医療者、教育者・研究者としての理想の形が整っていくと考えております。これを高い次元で兼ね備えて、しかも教育の場や研究の場、社会貢献の場で実践で発揮できることが重要だと思います。考えているだけではなく実践で発揮できるということが非常に大事になってくると考えます。

本日は「柔道整復学における大学のミッション」と題しまして教育機関の使命を再認識する機会をいただいたことに改めて感謝申し上げます。今後も魅力ある学問として柔道整復学を社会に発信していきたいと考えております。ご清聴ありがとうございました。

 

 

 
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