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日本転倒予防学会第3回学術集会が開催!

2016/11/01
ランチョンセミナー1『転倒とビタミンD~最新の知見から~』

桜美林大学老年学総合研究所所長、
大学院教授/国立研究開発法人国立長寿医療研究センター、
総長特任補佐・鈴木 隆雄 氏

中村氏抄録:
高齢者において血清25-OH-D濃度が不足すると、容易に要介護状態をもたらす可能性が大きい骨粗鬆症や骨折をはじめとする様々な筋骨格系の障害の発生リスクが高まるが、転倒に関してはBischoff-Ferrariら(2004)による5つの臨床実験をメタアナリシスした結果、ビタミンD投与群では、非投与の対照群に比べて転倒発生率が2割程度減少することが報告されている。このような血清ビタミンD濃度と転倒に関する知見は、わが国においても地域高齢者を対象とした比較的大規模な調査によっても確認されている。

Suzukiら(2008)は地域在宅高齢者2,957人を対象とした横断的な研究から、血清25-OH-D濃度に関して、女性では加齢とともに血清25-OH-D濃度は有意に低下し、平均値も男性に比し有意に低値であること、さらに20ng/mL未満の血清25-OH-D不足の割合が女性で有意に高いことなど性差が存在することを明らかにした。以上のような横断的研究をベースラインとして、同一対象者を75歳以上の高齢女性に限定し、1年間転倒発生をアウトカムとした追跡研究(Shimizu Y.et al.2015)から、血清25-OH-D濃度の三分位で、高値群(25mg/ml以上)に対する中間値群(20-24ng/ml)および低値群(19ng/ml.以下)の追跡1年間の転倒リスクを分析した。その結果、転倒発生するリスクは、25-OH-D濃度が低くなるほど有意に高くなり、転倒を2回以上発生するリスクは、低値群では高値群に対して1.75倍(95%信頼区間:1.15~268.P=0.010)と有意にリスクが高かった。また、追跡1年間の転倒発生に関する関連要因についても多重ロジスティックモデルを用いた回帰分析を行ったが、その結果、血中25-OH-D濃度は他の要因を調整しても有意で独立した転倒の予防因子(Odd's比0.98:P=0.023)であることが明らかにされた。日本内分泌学会の「ビタミンD不足・欠乏判定指針」では血清25-OH-D濃度30mg/mL未満を「不足」、20ng/mL以下を「欠乏」と定義した。

このように最近高齢期におけるビタミンDの転倒抑制作用に関心が高まることを背景として、転倒リスクの高い高齢の原発性骨粗鬆症女性患者を対象とした、活性型ビタミンD3製剤であるエルデカルシトール(ELD)投与の転倒関連身体機能に対する影響と安全性に関するランダム割付非盲検群間比較試験が実施されている。

要旨:
最も古典的なビタミンDの作用として、血清25-OH-D濃度は、所謂転倒とか骨折に非常に大きく影響することが骨代謝の1つの側面として明らかになっています。血清25-OH-D濃度が低くなると、骨折と転倒リスクが高くなることは整形外科学的にはかなり以前からよく知られていましたが、最近になって整形外科的な領域から少し離れて疫学的領域から様々な疾患との関係性の中で、最も古典的な骨粗鬆症性の骨折があって、血清25-OH-D濃度が低下すると骨折の発生率が高まることは勿論ですが、転倒リスクや自己免疫疾患のリスクが高くなる、或いは癌、中でも非常に有名なのは結腸癌の発症率が高いといった疫学的な報告が沢山なされています。ビタミンDが単に骨だけではなく、全身の臓器に関与しているのではないかということが、最近明らかになり今後おそらく認知症とビタミン、特にアルツハイマーとビタミンDについての研究が成功するのではないかと思われます。(中略)

昨年の朝日新聞が出した記事で「子供のくる病、過去の病気が再燃」と書いてあり、太陽を普通に浴びていれば、それほどナチュラルリテージを怖がる必要はないが、原因はビタミンDの不足であるが、1つは母親が日光にあたることを嫌うためにそれを子供におしつけてしまう。或いは元々出産の時に血中のD濃度が非常に少ない形で子供が出生してくる等とされており、今まで子供のくる病をあまりみたことがない病気だとして小児科の先生方が診断に苦労し現場で混乱が広がっていると言われている。こういったことで日本の国民、特に女性のビタミンについて、注意しておく必要があると思われる。国際骨粗鬆症連盟の骨粗鬆症ステートメントでは、日本と韓国は30ナノ以下の割合が最も高く、タイやマレーシアは50%と報告されている。今後は世界中で血中の濃度について30ナノ以上を保持することが望ましいとされている。日本の骨粗鬆症の予防の治療のガイドラインでは、ビタミンDを一日に大体10~20位となっているが、実際の食事摂取基準は非常に低い。アメリカの摂取は比較的高く20マイクロを提示、ポジションペーパーでも20マイクロから25マイクロが望ましいとなっている。今後もっとキチンとリスクの表示を改善して頂かないと非常に困ると思っている。一度転倒した高齢者が転倒後遺症症候群によって移動上の物を怖がる、外出を怖がる、転倒を非常に不安視することで活動能力が低下し、フレイルの状態に陥りやすい。フレイルの状態から当然要介護状態になる可能性は非常に高く、転倒を予防することがこの学会の主旨であるように、喫緊の課題になっている。 板橋区に住んでいる約4000名の方の健診を行った結果、歩行スピードが速くなればなるほど転倒しづらくなる。1秒間に10センチ歩くスピードが増加すると男性では13%転倒リスクが減り、女性でも8%の転倒リスクが減るということがいえる。少なくとも横断的データでは転倒と血清25-OH-D濃度とが関連性があることが分った。注目すべきは、前腕骨の骨折の発生頻度が非常に大きく、エルデカルシトールを利用した分では従来の活性型ビタミンD製剤の71%減少していることがジャーナルに報告されている。前腕骨の骨折の殆どの直接原因は、転倒によるもので、転倒経験のある人の骨折の転倒リスクは、2.5倍位である。即ち何故前腕骨の骨折が71%減るかについては、1つは活性型ビタミン製剤なので、骨密度が増加したことが当然考えられる。これらをみていくと今まで転倒を予防するために筋力を鍛える、歩行のスピードを上げる、バランス能力を上げるといった身体への介入が重要であり、有効性も高いが75歳を超えた女性の方々に必ずしも運動介入が適切かどうか、或いはフィジビリティがあるかについては未だ問題点が残っている。もし転倒を抑制する可能性があるような活性型ビタミンD製剤が開発されてくると、将来薬物療法で転倒を減らすことが可能になるのではないかということが十分考えられる〟等、最近の国内外の転倒とビタミンDの知見に関して評価、報告した。

座長は、医療法人愛広会新潟リハビリテーション病院院長・山本智章氏が務めた。

 

特別講演『氷上のバランスと転倒』

アルベールビルオリンピックフイギュアスケート
女子シングル銀メダリスト 伊藤みどり氏

女子選手として、世界で初の3回転アクセルや3回転ジャンプに成功。平成元(1989)年「もっとも高得点をとったフイギュアスケーター」としてギネスブックに掲載。2004年、日本人初の世界フイギュアスケート殿堂入り。引退後は、プロスケーター、フイギュアスケート解説者、指導者として活躍中の伊藤みどりさんと今学会会長の原田敦さんのトークセッションが開かれた。

伊藤みどり氏

トークの前にビデオで、フィギュアスケートの歴史を変えた伊藤みどりさんの輝かしいトリプルアクセルの場面が映し出され、ひたむきな努力と成し遂げた達成感が伝わってきた。

伊藤みどり氏伊藤:
このお話しを頂いた時には、私は転倒を何回もしているし、スケートも人生も滑っている私に出来るかなとちょっと不安でした。この会場から10分位のところにあるスケートリンクに4歳の時に家族で遊びに行きました。はじめは週に1回位行って楽しくて、小学校1年生から本格的にスケートを始めました。スケートというスポーツは転べば転ぶほど上手くなるんですが、転倒ばかりしていると怪我とかいろんなところに負担がくるので、受け身や予防していくことも子どもながらに勉強していきました。いま素晴らしいスケーターが出てきていますが、当時私が始めた頃は、優雅さと綺麗さを求めるよりはジャンプが楽しかったのでそれを伸ばしていく形でした。今日ここに銀メダルを持ってきました。男子は沢山メダリストがいましたが、女子では私と橋本聖子さんがメダルをとってから女子のメダリストが増えていきました。

原田:
最終的に成功する底力、もの凄い集中力、ご自身の強さを感じることは?

伊藤:
4年に1度、持ち時間4分に全ての力を出しきるのは日ごろの積み重ねが凄く重要でした。結果的に銀メダルですが、自分の持ち味であるトリプルアクセルをオリンピックで発揮できたという充足感で終わることが出来ました。トリプルアクセルを武器として技を入れる構成をして、メンタル面でも強くなければいけない。

原田:
転倒予防について転ばずに着地するような秘訣は?

伊藤:
バランス感覚を鍛えていないと骨折したり怪我をするので氷上だけではなく基礎トレーニングなどを取り入れながら体力アップをはかっています。中学校時代に骨折を2回したことにより運動だけに限らず食べ物や体幹トレーニングを考えながら練習しました。

 

最後に、オリンピックの歴史に初めて女子が刻んだ大技トリプルアクセルの瞬間の映像が映し出され満場の拍手をもって終了した。

 

学術賞授与式

学術賞授与式が行われ、2014年度優秀論文賞は小林吉之さん、2015年度の優秀論文賞は饗場郁子さんに金10万円と「南部美人」大吟醸、2014年度若手研究奨励賞は北地志行さん、2015年度は川村皓生さんに金5万円と「南部美人」大吟醸が授与された。

※約900名の来場者で盛況を呈した第3回学術集会は、愛情あふれる発表の数々であった。

 

 
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