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日本転倒予防学会第3回学術集会が開催!

2016/11/01

2016年10月1日(土)・2日(日)の両日、ウインクあいち(愛知県産業労働センター)で日本転倒予防学会・第3回学術集会が開催された。主催は、日本転倒予防学会。後援は、厚生労働省、公益財団法人運動器の10年・日本協会、公益社団法人日本理学療法士協会、一般社団法人日本作業療法士協会、公益社団法人愛知県医師会、公益社団法人愛知県看護協会、公益社団法人愛知県理学療法士会、一般社団法人愛知県作業療法士会。

基調講演:『フレイルと転倒』

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター理事長・鳥羽 研二氏

鳥羽氏講演要旨:
フレイルは老年医学の最も大事な概念のひとつで、高齢者の中核症状である。 フレイルは以前「虚弱」と訳されてきたが、可逆性が高いことから、動揺性のニュアンスをもつフレイルという呼び方に日本老年医学会で決定された。これから増えていくのは75歳以上の人口だけではなく、特に85歳以上が増加し、この方達は主にフレイルといったことが問題になるということが最近話題になっている。転倒率は様々なデータがあるが、我々のデータでは、65歳以上が2割に対し、70歳、80歳以上で2倍位になる。80歳以上になるとフレイルの頻度が35%で、転倒の頻度とフレイルの頻度は非常に似ており、フレイルの転倒の頻度は、2倍位になると言われている。これから急増する80歳以上の方は非常に転倒が多く、またフレイルが非常に多いことは間違いない。従ってこれらの共通性や関連性は、これからどうしても避けては通れない課題であり、生活機能障害に関連していることが重要である。

フレイルの診断基準は、・歩行速度低下(<1m/秒)・握力低下(<26㎏;男性、<18㎏;女性)・易疲労感(自己申告)・活力低下・体重減少(年間>4~5㎏)

この5項目で3項目以上がフレイル、1~2項目該当でフレイル予備軍(Prefrailty)と診断される。従って、このフレイルの定義では、特に80歳以上が重要であり、今後の日本の人口構成にピッタリ符合する。また、・牛乳の紙パックがあけにくい・青信号が最初からでないと渡れない気がする・疲れやすく、元気のでないことがある・食が細くなった、やせてきた・沈み込むことがある・寝付きが悪い、夜目覚める・物忘れが気になる・しまい忘れが増えた・外出することが少なくなった・友人との交流が減った。このようなことで、比較的日常分かりやすい表現で、フレイルのことを気づいて頂くと、確かにそういう人は沢山いそうだと分かる。元々筋肉・栄養、或いは運動機能といった多くの学問的なものが同時期に関わらなければいけない領域がフレイルであり、転倒予防とも相当共通性があると考えられるが、我々の領域でみると所謂多くのお年寄りに医療だけではなく、看護、介護の助けもいるということで老年症候群と非常に似ており、共通点や違いは何かということが非常に興味のあるところである。フレイルは、主に加齢による疾患によって増えてくるストレスに対する脆弱性であり、ADLといったもの、寝たきりと関係のある生活機能などと密接に関わっている。即ちこのような症状等に着目した学問が超高齢社会では必要であり、その重要性が最近叫ばれている。私は、フレイルといったものの理解の仕方は生活機能障害とその臨床表現性で捉えていったら如何かと提案する。フレイルとロコモとどこが違うのか。ロコモティブシンドロームは、筋肉減少や骨粗鬆症や酸欠症状等で肝臓の自動性能力が下がる疾患で必ずしも同じではないが、運動器系のフレイル、フィジカルフレイリティと相当多くの面を共有していると考えている。フレイルは身体的なもの(Physical Frailty)と精神的なもの(Cognitive Frailty , Mental Frailty)および社会的なもの(Social Frailty)に分かれる。

大事なことはフレイルは、健康な状態と要介護状態の中間にあり、様々な寝たきりの人でもフレイルの状態であれば、2割位の人が元々のフレイルではない状態に脱出することが出来るため、予防が可能な領域であることが重要で、転倒もこの範疇であれば同じことの中に入ってくると思われる。もう1つの主題である転倒原因を探り転倒しやすい人を早期に発見するについては、外的要因である家の中の照明を明るくするや片付けるということが重要であり、多くのお金を都市のバリアフリーにかけるということは非常に無駄だということを、10年前から言っている。(中略)

ナース直観研究を開始した。1.ナースが視覚的に転倒因子を多角的に捉えて短時間で評価をしているのではないか。2.今日にも明日にも転倒するハイリスク者を察知しているのではないか。といった仮説である。看護師に転倒のケアプランを作ってもらって、3年間毎日その転倒を記録した療養型病床と認知症病床で、転倒の原因の相関について報告書類を出している。やはり看護職は転倒の察知とケアプランで少なくとも医者よりはるかに優秀で進んでいるのではないかと言える。見た目だけの直観で分ってしまうのであれば何も要らないんじゃないかというような意見もあるが、その直観力といったものをより科学的に分析して、何を見ているかといったことを、今後みていきたい。フレイルは様々な表現があり、認知機能低下や姿勢の変化、廃用障害、転倒不安、視力低下などで転倒の原因とフレイルは共有している。そして各々のフレイルの表現系といったものが例えば廃用障害、視力障害も同じであり、気憶障害の一番の特徴は、膝が悪い人の2倍で、視力障害の人は家の中を片付けていないという皮肉な結果もある。従ってフレイルの方は、転倒の危険因子を一部共有しており、それによってフレイルの方は転倒が起きやすくなっているのではないか〟等、簡潔に述べた。

座長は、学校法人日本体育大学日体大総合研究所所長で日本体育大学特別招聘教授・日本転倒予防学会理事長の武藤芳照氏が務めた。

 

パネルディスカッション1
『多職種で取り組む転倒予防チームはこう作る!』

パネリストは、公益財団法人身体教育医学研究所所長、東京医科大学公衆衛生学分野・岡田真平氏、株式会社LCウェルネス・見野孝子氏、医療法人愛広会介護付有料老人ホーム愛広苑壱番館・笠井明美氏、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター医療安全推進部医療安全管理者・看護師長・安藤悦子氏、国立病院機構東名古屋病院リハビリテーション部長・第1神経内科医長・響場郁子氏の5名で、座長は、饗場 郁子氏と浜松医科大学医学部看護学科教授、日本転倒予防学会副理事長・鈴木みずえ氏の2名が務めた。

「地域づくりをめざした転倒予防活動(長野県東御市の活動)」

岡田真平氏岡田真平氏:
東御市は、平成16年に2つの町村が合併してできた市です。人口3万人、高齢化率は29%です。実際に私自身が地域にお世話になって間もなく20年になり、健康増進の取組みを行ってきました。当地における転倒予防活動の端緒は、保健・医療・福祉が一体化したモデル施設「ケアポートみまき」(1995年開所)を核とした取り組みで、施設介護、在宅支援全般、一般・訪問診療からリハビリテーション、介護予防、健康増進まで、地域のニーズに幅広く対応できる施設・人員・連携体制を構築してきました。施設に来られる方は限られており、地域に出向いていかなければ中々接点を持てない方が地域には沢山いらっしゃいます。通称、地域巡回型といって、私どもは行政と一緒になって出前型で活動して取り組んで参りました。私どもの地域では特に運動介入を中心としつつ、連続的にみて夫々の立場の皆さんと連携を取っています。今2025年に向けて中学校区単位の地域包括ケアをいろんな地域で取り組みを進めていると思いますが、この地域包括ケアシステムの中に地域ケア会議もあり、医師会、介護保険事業所、薬剤師さん、社協さん等、包括支援センターも含めて課題や動向を共有し、運営、関係づくりを行っています。一方、互助的な活動を地域、集落単位で介護予防等を行う時代になっておりますが、こういった地域住民の繋がりが今後益々必要になり、実際に国から提唱されています。ハードは一つの切っ掛けであり、気持ちを一つにして、いろんな関係性をしっかり作っていくことが大事であると思います。本日は転倒・介護予防という視点でしたので、高齢者の取組みが中心でしたが、やはり子どもたちの健康づくりという視点、子供を支える環境に地域の高齢者の皆さんに関わって頂くことも進めています。対象が高齢者だけではなく地域の多世代をみていく必要があると思っています。様々な活動が転倒予防にも繋がってくると試行錯誤しながら続けております。

 

「転倒・骨折事故ゼロ、ここまでできる介護の力」

見野孝子氏見野孝子氏:
介護保険がスタートする以前に10年ほど在宅ケアのパイオニアとして地域の中で終末期の方を含めた重度の方の在宅ケアをやっていました。私どものデイサービスでは、日常生活での動作が最大の運動と考え、「生活リハビリ」に重点をおいています。看護師が訪問し、家での動き、住環境などをチェックした上で、機能訓練を実施しています。元々在宅ケアサービスを始めた7名でNPO的な発想で事業を展開しています。2014年に、繋ぐ・繋がる・繋げるという機能をもたせるための地域の拠点として「げんきっこクラブ」をオープンしました。その評価として「2014年健康寿命を伸ばそう」という厚労省のアワードで老健局長優良賞を受賞することが出来ました。平均介護度は2.7で、認知症の施設は12人、一般の機能訓練型施設は15人、介護度の高い人が多い。そういう方をどうやって守るかよりも楽しんでもらうということでいろんなプログラムを組んでいます。この人たちの生きる意欲をどう増加させるかが、とても大きいと思います。私どもの介護事業の中では転倒も骨折も事故もゼロですが、家に戻ればやはり非常に骨折率が高い。地域の活動隊として、朝市でのお買いもの訓練など地域の子供たちとお年寄りの交流体験を行っており、ありとあらゆることをしていきたい〟等、力強く報告した。

 

「介護老人保健施設における多職種協働の転倒予防」
~リスクマネジメントによる二次予防の有効性~

笠井明美氏笠井明美氏:
転倒予防には、転倒事故そのものを対象とする狭義の予防と、転倒およびそれによる骨折や活動性低下などのすべてを対象に含めて考える「転倒をめぐる諸問題」の予防があります。さらに高齢者の「転倒をめぐる諸問題」の予防には、原因を取り除くことで易転倒状態の発生を防ぐ一次予防と、慢性的な易転倒状態にある対象者が骨折や活動性低下などを来たす前に介入する二次予防が挙げられます。今回の発表では、転倒の二次予防についての取組みにおいて介護老人保健施設、以下老健で転倒による骨折を減らし、事故を未然に防ぐという大きな目標のもと、易転倒状態にある対象者を抽出して介入するという二次予防の取組みを継続した結果、4年後には年間の転倒による骨折者がゼロを実現しましたので、その経過を分析し報告します。取り組みの舞台となったのは、開設7年目の老健です。有床総数は、計100床で、その入床者を対象としました。報告書イコール始末書というイメージが強く、心理的抵抗があるため、報告書そのものについて検討と見直しを行うことが出来ました。今回の分析から示唆されることは、①各職員の自主的な取り組みの尊重②システムマネジメントを担当する組織のリーダーシップの両方がシステムマネジメントに必要であるという点です。また今回の取組みにおいて、他職種に対する気配り・目配り・心配りを忘れずに対策に取り組むことで、より円滑な話し合いが実現し、多職種から成るチームの連携が確立するという大きな収穫がありました。共通の目標に向かって多職種が意見の交換と修正を絶えず行い、相互理解を深め協力していくことこそが多職種連携の確立につながると痛感しました。また全体を通して、スタッフのエンパワメントをいかに活用していくか、これも多職種で取り組むチーム編成には欠かせない点である、等報告。失敗談も伝え真摯な発表を行った。

 

「長寿医療研究センターの転倒・転落ワーキンググループにおける多職種連携」

安藤悦子氏安藤悦子氏:
当センターは、高齢者に設定した国立高度医療専門センターであり、認知症疾患医療センターにも指定されています。平成16年8月に医師、理学療法士、看護師の職種で構成する転倒・転落ワーキンググループ(以下WG)を発足させました。
アセスメントシートは、認知機能をADLの2つの視点により評価をしています。点数化することはなく、比較的大きな2つの視点での一定評価になります。このアセスメントシートで評価をした結果から標準的防止対策が提示されますので、リスク評価後すみやかに標準タイプを実施することが可能です。歩行に関してバランステストを活用しています。基調講演にありますように看護師の直観というものが重要ですので、看護師の直観を入れながら、評価を行っており、データ化すると改善に有効であり、患者さんのベッドサイドの片付け等が問題として判明しました。ワーキングレターを毎月発行し、転倒の中の23.1%の方々はセンサーが作動せず4分の1に不具合があったことが分かり、その改善を行うことで転倒防止の予知がありそうだと分かりました。転倒転落が減少しつつあり、大腿骨の骨折は特に減少しています。当センターとしては、大腿骨骨折はQOLに非常に大きく影響するため、これを特に減少させようと目標を持っています。長期的推移でみると転倒の発生に関し、増えたり減ったりを繰り返すが、転倒転落など治療を要するような障害の防止は高齢者のQOLのために非常に重要であると思います〟等、報告。

 

「東名古屋病院の転倒予防チーム(チーム1010-4)の取り組み」
~多職種で、楽しく、多面的な介入を!~

響場郁子氏響場郁子氏:
東名古屋病院では、進行性核上性麻痺をはじめ転倒頻度の高い神経疾患患者が多く、転倒は日常の問題でした。そこで2001年に『患者の転倒頻度のデータを出す』『どんな患者が、どのように転んでいるのか調べる』ことを目的に、医師と看護師で研究を始めました。研究を進める中で、転倒の背景にある様々な要因に対し介入していくために多職種で取り組む必要性がわかり、徐々に職種が増え、現在では医師(神経内科・整形外科・歯科口腔外科)・看護師・理学療法士・作業療法士・薬剤師・管理栄養士から成る大きなチームとなっています。転倒の状況調査をするところから始めたのがチームのスタートです。一例一例検討する中で見えてきたものは、私たちが一生懸命対策しても転倒はゼロにはならないということで、最近では患者さんご家族にもチームに入って頂いて、対策に参加して頂く取り組みをしています。具体的には、転倒をする時に患者さんにその時何をしようとしていたの?と聞いて、或いは予防対策を立てる時には患者さんにも入って頂いて、患者さんの気持ちをくんだ対策を立てることが大事です。これは患者さんの命を救うための転倒予防対策だと思います。患者さん向けの転倒予防マニュアルを作りました。転倒に参加した群は、参加しなかった群に比べて転倒が低かったということで、多職種連携による介入での効果があるということが分かりました。最近では患者さんにも楽しく取り組んでもらいたいということで転倒予防川柳の募集と掲示を行い、日めくりのカレンダーも作りました。またネットでメッセージを伝えるようにしています。転倒の発生率を、昔に比べて半分くらいまでに減らせるようになってきています。楽しくやろうをモットーに隙間時間の利用や直球ではなく変化球で伝える。多職種で多面的に楽しくやっています〟等、明るく報告した。

※ディスカッションは紙面の都合で省略。

 

 
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