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酒田塾・酒田達臣先生と小粥博樹整形外科医とのビッグセッション

2013/10/16
「診察技術」を向上させていくためには、「医学書から知識を得ていくこと」も大切かと思いますが、その辺りはどのようにお考えですか?

小粥:
間違いなく大切です。体の成り立ち、構造、生理学、解剖学等、当然あったほうが診断に役立ちますし、あとは特徴的な検査方法というのは、先人がいろいろ開発してきている訳で、一番有名なのはバビンスキー検査ですね。それも教科書に出ています。つまりそういった知識があれば異常な兆候に対しても別にMRIをやらなくても診断がつく場合もあります。一方、学問、知識としてだけ知っていても、ちゃんと実践しなければ意味がないし、経験だけ積んでも勉強しなければその経験が活かされない。両方がある程度平行して上がっていくと良いと思います。

酒田:
そうですね、医学書から知識を得ることも、患者さんに触れる経験を積んでいくことも、どちらも大切で、もう一つ挙げれば、〝まだ遭遇したことのない疾患も想定できる力を付けること〟、これは僕たちのような施術者にとってはとても重要になってくると思います。既にものすごい量の医学知識を持っている医師と違って、我々には医学知識、知っている疾患名自体が少ない。だから、〝この症状から考えると、病態生理学的にはこのカテゴリーの疾患があり得るのではないか、例えば、何か腫瘍性の病変があるのではないか、何か感染症を起こしているのではないか〟、そういった推理をして、自分で医学書を調べて、疾患を見つけ出す、そういう科学的論理的推理能力を磨いていくことが、実はとても大事だと思っています。

例えば、肩関節周辺の痛み、というケースを想像してみてください。考えられるものは、五十肩、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎、肩鎖関節脱臼、頸椎症性神経根症、胸郭出口症候群、その他にも、結核性関節炎、偽痛風、慢性関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、心筋梗塞、肝臓胆嚢疾患などなど、挙げればきりがないでしょう。

しかしこういうケースがありました。76歳女性患者さんの例です。

15年前から整形外科で五十肩と言われて治療を受け続けているというその人は、いつも体を斜めにして、右肩を後ろに引いていました。ポンと右肩を軽くたたかれるだけで、うずくまるくらいのものすごい痛みが走るというのです。この人の原因疾患は何だと思いますか?

私は身体所見の結果、肩関節の運動痛のないその人の痛みの原因は、肩にできた神経鞘腫だとロックオンしました。この方のロックオンに至るのに、部位ごとの疾患をまとめた教科書的な知識や、疾患のスクリーニングの技術はあまり役に立ちません。「肩関節疾患」という項目をいくら調べても、「神経鞘腫」は決して記載されていないのです。

問診視診触診といった、ほんとにベタなことが必要なんです。服を脱がせて、実際に目で見て小さなふくらみを確認して、触ってみて激痛の誘発をみること、それでしか正確な診断には行きつけない。

これには、①科学的論理的思考、②俯瞰的観察意識、③共鳴感覚、この3つと、医療の基本、すなわち①問診、②視診、③触診、④運動学的検査、⑤神経学的検査といったプライマリーな診察の基本が、大変重要になってきます。

これらをフル活用しながら患者さんを経験していかないと、ただ患者さんの数だけ経験しているだけでは、診察技術は向上しないのであって、ここでも自らのスペシャリティだけにこだわらない、プライマリケア意識というもの、この「意識」をいかにしっかりと持ち続けるか、ということがとても重要だと思います。

 

多くの質問が残されていたが、休憩に入り、後半は小粥ドクターによる、70歳女性の頸の痛み(1か月前くらいから頸の痛み、ちょっと歩きにくいという設定)を想定し、モデルを使って実技講習が行われた。

〝背骨の一般的診察ということで、まず診察室に入ってきてもらいます。そして腰かけるまでの歩き方を見ます。例えば問診表を見てこの人は頸部痛という場合、歩行障害すなわち歩き方が非常に大事なので、この場合イスに腰かけるまででは短いので診察室の中を歩いてもらいます。緊張して歩くといけないので普通に歩いてもらう。もし頸に脊髄症があれば、左右の足の間隔が広くなる。パーキンソンの人は症状が進行してくると顔がこわばるので分ることがあります。歩行は、中枢神経から末梢神経、そして筋肉まで総てが統合されて働くことによりなめらかな動きを作りだすので、歩いてもらうだけでも非常に多くの兆候がわかります。次に診察台に座ってもらいます。頸に劇的な異常、筋骨格系の異常がないかを診るために動かしてもらいます。神経根障害がある人は強く押すと凄く痛くなって恨まれてしまいますし、基本的には押すと陽性率が高くなるので押さないほうが良い。ジャクソンよりもスパーリングで頸を傾けたほうが神経根痛は強く出やすい。患者さんに自分で頸を傾けてもらうだけにして、痛いかどうかを聞いて、痛みがあるとなればスパーリングは陽性と記録する。ヘルニアの時は下を向いても上を向いても痛い時がありますし、髄膜炎という頚椎の炎症性疾患であれば全ての動きは阻害されます。70歳で高齢者になるとリウマチ性多発筋痛症というのもあって、これは歩行障害はあまり出ないが、たまに出る。リウマチ性多発筋痛症は甲状腺疾患と同じく結構高齢者に多く、体幹性の痛みが出やすいのでそれを念頭に置いて診る。また基本的には血液検査で陽性に出ることが多く、体温が上がっていることも多い。だから来た患者さん殆どに体温を計ってもらうのが良い。〟その他実際に整形外科の診察室で行われているいろいろな検査法を実演、実技指導を行った。

 

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