menu

運動器超音波塾【第29回:股関節の観察法4】

2019/08/01
下前腸骨棘AIISと大腿直筋直頭起始部の短軸画像

図 下前腸骨棘AIISと大腿直筋直頭起始部の短軸画像

 

下前腸骨棘AIISと大腿直筋直頭起始部の長軸画像

図 下前腸骨棘AIISと大腿直筋直頭起始部の長軸画像

 

大腿直筋直頭起始部での下前腸骨棘AIISの裂離骨折で、損傷が急性の場合には、腱の端部に浮腫があり、しばしば腱の起始部に沿って広がっているとして、保存治療では4ヶ月を要する場合もあるとの報告があります。*9
また、剥離部位から横方向及び遠位方向に広がる広範囲な異所性骨化を伴って治癒する可能性があるとされており、注意すべき点です。

 

この観察時に併せて注意をしておきたいのが、スイスのGanz等のグループによって提唱されたFAI(Femoroacetabular impingement股関節唇損傷・関節軟骨障害)という概念です。「大腿臼蓋インピンジメント」や「股関節インピンジメント」と呼ばれるものです。大腿骨または寛骨臼の異常な形態学的特徴がFAIを引き起こすと考えられており、活動的な青年および成人における股関節痛の一般的な原因とされています。カムタイプ(Cam Type : 大腿骨頸部の突出)とピンサータイプ(Pincer Type : 臼蓋縁の突出)の2種類があり、多くの場合はその2つが複合しているコンバインドタイプ(Combined Type 或いはMixed Type)として生じるとの事で、寛骨臼の裂傷を引き起こし、関節軟骨に損傷を与えるとされています。症状としては、股関節の可動域制限、決まった姿勢での疼痛の誘発、轢音などとされています。特にカムタイプは、臼蓋の軟骨(荷重する部分の軟骨)が損傷されるので、変形性股関節症に繋がりやすいことがわかっています。若年者で発症する患者にはアスリートやダンサーが多く、痛みを我慢して競技を続けた結果、20歳代前半で既に変形性関節症の徴候が見られる場合もあるようです。*10
また、サブタイプとして股関節の過屈曲で下前腸骨棘AIISと大腿骨頸部または大転子の遠位側面との衝突による損傷も着目されています。*3

*9 Sanders TG, Zlatkin MB. Avulsion injuries of the pelvis. Semin Musculoskel Radiol 2008;12:42-53.

*10 大阪医科大学整形外科学教室HP

 

それでは、動画です。大腿直筋を下前腸骨棘AIISに向かって短軸で移動走査して観察します。

表在の中央に位置する楕円形の大腿直筋断面に着目して、下前腸骨棘AIISに向かってプローブを動かしていきます。

動画 大腿直筋を下前腸骨棘AIISに向かって短軸で移動走査での観察

画面右側の大腿直筋内には、やや縦長の反転頭となる筋内腱が観察されます。この筋内腱が中枢に向かうに従って三日月型の形状となり、外側に回り込むようにして画面左下方向に影になります。これは走行が大きく変わったことによる異方性の影で、寛骨臼上溝(supra-acetabular groove或いは、sulcus supra-acetabularis)に向かって付着していきます。この時、大腿直筋前面(画面上側)を覆う腱線維が、直頭として集約して、下前腸骨棘AIISに付着する様子も併せて観察してください。下前腸骨棘AIISが現れると、今度は骨の反射による音響陰影で、また影が観察されます。

超音波の物理的な特性を知っておくと、このように影の出方ひとつで解剖学的な意味を知ることができます。あらためて超音波の基礎的な学習の必要性を感じる観察です。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

股関節は、その複雑な軟部組織の解剖学的構造や、傷害が起こり得る場所が広範囲であることにより、しっかりと身体所見を取った上で触診による位置決めをして超音波での観察を心掛けることが大切である
上前腸骨棘(ASIS)はスタートダッシュなどによる縫工筋、下前腸骨棘(AIIS)はキック動作などで大腿直筋、坐骨結節(ischial tuberosity)は全力疾走や跳躍などでハムストリングの、それぞれ急激な収縮により損傷する
骨盤周囲の裂離骨折、合計596人の患者を対象とした14件の研究を精査した所(海外の論文)、平均患者年齢は14.3±0.6歳であり、影響を受けた部位としては、下前腸骨棘AIIS(33.2%)、坐骨結節 IT(29.7%)、上前腸骨棘ASIS(27.9%)、腸骨稜 IC(6.7%)、小転子 LT(1.8%)、恥骨結合の上縁 SCPS(1.2%)で、ほとんどの患者は保存的治療を受けた
特に15 mm以上の骨片の変位と高い機能要求を有す患者の場合には、外科的治療が考慮されるべきである
主に下前腸骨棘AIISおよび坐骨結節ITの剥離骨折の要因となるスポーツ分野は、ボールスポーツ(それぞれ70%および45%)、上前腸骨棘ASISの剥離骨折はボールスポーツおよび陸上競技(いずれも46%)、腸骨稜ICの剥離骨折は陸上競技(63%)であった。そして、小転子LTおよび恥骨結合の上縁SCPSについては、ボールスポーツによる骨折(それぞれ67%および86%)だったとの報告がある
大腿直筋(rectus femoris)の起始は、直頭(straight head或いはdirect tendon)と反転頭(reflected head或いはindirect tendon)の2頭で構成されているとされている
48体(96面)の解剖研究の結果、実に83%に3番目の頭があったとして、直頭に対して下外側方向、大転子の前面に付着し、反転頭に対しては約60°で、長さ2㎝幅4㎝、厚さが3mm程度との報告がある
超音波の利点の一つに、触診との連関があり、触診で判り辛い部位の場合、超音波で触診位置や指を入れる方向の正確性を求めながら触診に反映させることができる
下前腸骨棘AIISと大腿直筋RFの観察の肢位は仰臥位(背臥位)で、反対側の股関節と膝関節は屈曲位にしておくと骨盤が固定されることで良好な観察ができる
成長期ではしばしば下前腸骨棘AIISの骨端線離開が生じるが、直頭と反転頭に起始部が分かれている為、大きく離開することは稀である
下前腸骨棘AIISと大腿直筋直頭起始部の観察は大腿骨頭を目印として、長軸の場合は、下前腸骨棘AIISから伸びる線維の束、fibrillar pattern(線状高エコー像の層状配列)が画面上平行に描出されるように微調整する
長軸の観察の場合、起始部からやや遠位に一部暗く抜けてしまう部分が観られるのは、直頭から分かれて寛骨臼上溝へと向かう反転頭で異方性による
急性の下前腸骨棘AIISの裂離骨折では、腱の端部に浮腫があり、しばしば腱の起始部に沿って広がっているとの報告や、剥離部位から横方向及び遠位方向に広がる広範囲な異所性骨化を伴って治癒する可能性があるとの報告がある
活動的な青年および成人における股関節痛の一般的な原因とし、FAI(Femoroacetabular impingement股関節唇損傷・関節軟骨障害)という概念があり、「大腿臼蓋インピンジメント」や「股関節インピンジメント」と呼ばれる
FAIはカムタイプ(Cam Type : 大腿骨頸部の突出)とピンサータイプ(Pincer Type : 臼蓋縁の突出)の2種類があり、多くの場合はその2つが複合しているコンバインドタイプ(Combined Type 或いはMixed Type)として生じる
特にFAIのカムタイプは、臼蓋の軟骨(荷重する部分の軟骨)が損傷されるので、変形性股関節症に繋がりやすい
FAIのサブタイプとして、股関節の過屈曲で下前腸骨棘AIISと大腿骨頸部または大転子の遠位側面との衝突による損傷も着目されている
大腿直筋を下前腸骨棘AIISに向かって短軸で移動走査すると、大腿直筋内には、やや縦長の反転頭となる筋内腱が観察され、中枢に向かうに従って三日月型の形状となり、外側に回り込むようにして画面左下方向に影になり、これは走行が大きく変わったことによる異方性である
上記の観察では、大腿直筋前面(画面上側)を覆う腱線維が、直頭として集約して、下前腸骨棘AIISに付着する様子にも着目する
超音波の物理的な特性を知っておくと、影の出方ひとつでも解剖学的な意味を知ることができる

 

次回は、「下肢編 股関節の観察法について5」として、引き続き前方走査について考えてみたいと思います。

 

印刷用PDFはこちら

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
前のページ 次のページ
大会勉強会情報

施術の腕を磨こう!
大会・勉強会情報

※大会・勉強会情報を掲載したい方はこちら

編集部からのお知らせ

メニュー