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運動器超音波塾【第26回:股関節の観察法1】

2019/02/01
股関節前方の超音波観察法

それでは、股関節前方の超音波観察法です。まず全体像を把握するために、前方からの観察をしていきます。

この観察の肢位は仰臥位(背臥位)で、股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角によって骨頭が下がり筋肉が緩んでしまうため、股関節中間位(屈曲0度)で観察します。また、骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。この時に、正常ではベッドと腰椎との間に手の平一つ分の腰椎前弯が存在し、腸腰筋拘縮がある場合には腸腰筋に骨盤や腰椎が牽引される事で腰椎前弯の程度が増大するとの話があり、観察前に注意しておきたいポイントです。*13
超音波による観察の場合、観察肢位やこのような下準備をすることがとても大切で、安定した再現性のある画像にするためにも心掛けておきたいところです。

股関節前方の観察肢位

図 股関節前方の観察肢位

 

股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角の為、骨頭が下がり筋肉が緩んでしまいます。骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。

股関節前方の観察では、大腿骨頭の位置を触診で確認して大腿骨頭と大腿動静脈を観察後、大腿動脈に沿って上り腸恥隆起に合わせてプローブを置きます。この時、拍動する大腿動脈を目印として位置関係を確認します。*14
大腿骨頭は、下肢を内外旋するなど動かすと回転する様子を観察することができます。超音波画像診断装置の2画面機能などを利用して幅広く観察すると、全体が把握しやすくなります。

*13 林 典雄 運動療法のための運動器超音波機能解剖 文光堂

*14 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

 

股関節前面の超音波観察法(短軸) 骨頭から腸恥隆起

図 股関節前面の超音波観察法(短軸) 骨頭から腸恥隆起

 

正常な鼡径リンパ節は、高エコーの髄質を低エコー域と薄い皮膜が取り囲んでいる様子が観察されます。併せて、リンパ節の腫脹にも注意が必要です。*14

股関節屈曲拘縮の主要因は、腸腰筋の拘縮であるとされています。また、腸腰筋の拘縮は腰椎の代償的前弯を引き起こし、しばしば腰痛の原因となるとされています。*15
つまり、各徒手検査による拘縮の評価と併せ、超音波による腸腰筋の硬さを観察することは、たいへん重要であると考えられるわけです。

*15 林典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 メジカルビュー社

 

では、動画です。大腿骨頭位置で、腸腰筋をプローブで圧迫した様子を短軸走査で観察してみます。

動画 腸腰筋をプローブで圧迫した動態観察

腸腰筋の位置をプローブで圧迫しながら超音波観察をしてみると、正常な場合、大腿神経が腸腰筋の傾斜に沿って滑って動くのを観ることができます。ところがこのケースの場合、神経周囲の脂肪がより高エコーで、滑走する様子が鈍く、どうやら周囲に滑走を妨げる要素、何らかの絞扼や癒着がある事が予想される訳です。先にも書いたように腸腰筋は股関節屈曲拘縮の原因となり腰痛を引き起こす最重要組織のひとつで、大腿神経支配の腸腰筋と恥骨筋の観察は股関節の超音波観察法の重要なポイントです。

手関節の手根管内の正中神経もそうですが、正常な場合の神経は屈伸運動などの動作によって位置を自由に変えます。超音波では、ある位置で、そのような神経の「遊び」の動態が観察されます。ところが、症状を持ち徒手検査などで拘縮を疑われるケースでは、この「遊び」があまり観察されず、絞扼や癒着と思われる画像をしばしば観察することになります。この点については、まだまだ症例の観察数と生理学的な裏付けも必要で、観察の指標と病態の進行の構造的変化が明らかにされれば、早期の治療につながる指標となるかもしれません。超音波による動態観察の必要性は、このようなところでも感じることができます。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

ヒトは二足歩行へと変化したことで、股関節の中間位が変化し上肢が非荷重となり、股関節にかかる荷重の方向が大きく変化するとともに荷重量が著しく増加し、結果として骨盤の形状が幅広く荷重を受け止められる形状へと変化したと考えられている
寛骨の成長過程での変化を見てみると、腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨は思春期まではY字軟骨により結合しており、成人になると癒合、骨化して1つの寛骨となるため、観察時には注意する
骨頭の前方、外側は臼蓋があまり覆っていない為、その方向には構造的に不安定である
腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯は関節包内靭帯で、中立位において捻れた状態に走行しているため、股関節伸展位において緊張(伸張)し、屈曲位において弛緩する
腸骨大腿靭帯が不動により拘縮を生じれば、股関節伸展制限となる
股関節の運動方向は、屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋の6方向の組合せでできている
股関節の負担は歩行時には、体重の3~4.5倍の負荷がかかり、階段を上る時には、体重の6.2~8.7倍の負荷がかかると言われている
年齢を重ねると筋力が衰えて股関節への負担が大きくなり、軟骨が摩耗することで、変形性股関節症に至るとされている
股関節前方の超音波観察法は仰臥位(背臥位)で、股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角によって骨頭が下がり筋肉が緩んでしまうため、股関節中間位(屈曲0度)で観察する
骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出ることによって、理解しやすくなる
この時に、正常ではベッドと腰椎との間に手の平一つ分の腰椎前弯が存在し、腸腰筋拘縮がある場合には腸腰筋に骨盤や腰椎が牽引される事で腰椎前弯の程度が増大するとの話がある
大腿骨頭の位置を触診で確認して大腿骨頭と大腿動静脈を目印として、大腿動脈を沿って上って腸恥隆起に沿ってプローブを置いて観察する
この位置で下肢を内外旋してみると、骨頭が回転する様子を観察することができる
正常な鼡径リンパ節は、高エコーの髄質を低エコー域と薄い皮膜が取り囲んでいる様子が観察される
股関節屈曲拘縮の主要因は腸腰筋の拘縮であるとされ、腸腰筋の拘縮は腰椎の代償的前弯を引き起こし、しばしば腰痛の原因となるとされている
腸腰筋の位置をプローブで押しながら観察してみると、正常な場合、大腿神経が腸腰筋を滑って動くのを観ることができる
症状を持ち徒手検査などで拘縮を疑われるケースでは、神経の「遊び」があまり観察されず、絞扼や癒着と思われる画像をしばしば観察するが、この点は更なる生理学的な解明が必要。

 

次回は、「下肢編 股関節の観察法について2」として、引き続き前方走査について考えてみたいと思います。

 

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情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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