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運動器超音波塾【第26回:股関節の観察法1】

2019/02/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第二十六回 「ひよこだってかわいいぞ」の巻
―下肢編 股関節の観察法について 1 ―

新しい年を迎え今年は元号も変わるということで、今朝の通勤途中の裏道で見かけた野兎も、猛スピードでどこかへ疾走していきました。何かと周囲は、慌しく動いているようで、今年もあっという間の一年ということになりそうです。
我が家は子供たちや家内が正月早々に風邪をひいて順番に寝込み、とうとう私以外は全員が寝込むという状況に陥っています。インフルエンザの予防接種は冬休みで戻ってきた長男以外全員で受けており、医師の診断もインフルエンザではないとの事でしたが、我が家は非常事態宣言発令中です。そんなわけで、久々にペティナイフを握って、玉ねぎやほうれん草を刻んでいます。

鳥ガラでスープを作ろうかと想っていた時に、そう言えばニワトリは卵をはじめとして唐揚げや焼き鳥、フライドチキンなど、ほぼ毎日食しているのにもかかわらず、その姿を普段あまり観る機会が無くなってきた事に気づきました。ニワトリは鶏と書き、le coq sportif (ルコックスポルティフ)のジャージを着ていたこともあったので、農業国フランスの国鳥ということは知っていました。子供のころ、近所に孵卵場(ふらんじょう : 卵をヒナに孵化(ふか)させる所)があって、小学校からの行き帰りの途中でのぞくと、ひよこが溢れかえるほどいて、鳴き声がこだましていたのを想い出します。また、その頃に夜店のひよこを買ってもらって、あっという間に鶏冠(とさか)が生えてきたと想っていると、いつの間にかいなくなって、なぜか鳥料理が続く。どうやらその頃から、鶏に限らず、食用となる動物には入れ込まないようにする安全装置が、どこか自分の中にはあったようです。

袋田の滝がある北茨城の奥久慈は、「奥久慈しゃも」という地鶏で有名です。全国の地鶏がブロイラー(出荷サイクルを早めるためにアメリカで開発された外国種)との掛け合わせが多いのに対して、「奥久慈しゃも」は、江戸時代にシャム(現在のタイ)から輸入されたニワトリの品種で、気性が荒く、群れで飼うのは難しいそうですが、ぎゅうぎゅう詰めの状態で飼育されて、短期的に大量生産されるブロイラーとは大きく異なり、放し飼いで健康的且つ大切に育てられるということで、味が全く違う。深い。とにかく美味しい。

袋田の滝と奥久慈しゃも 

図 袋田の滝と奥久慈しゃも
観光いばらきより https://www.ibarakiguide.jp/

 

日本三名瀑の袋田の滝も氷瀑が観られ、5~6割ほどが凍結したとの一報が届いています。1年で一番寒いのは1月中旬から2月上旬との統計があり、まだまだ寒い日が続きそうです。

七十二候の鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)は、本来鶏は冬には卵を産まず、春が近づくと卵を産む事から来ているそうです。朝を告げる鶏は神聖な対象として弥生時代に渡来し、古墳時代には埴輪も作られ、最古級の古墳からも出土*しています。卵を取り、その後卵を産まなくなった鶏を食べる習慣が日常的に行われ、飛鳥時代に肉食禁止令が発令されてからも、ひっそりと卵と採卵終了後の鶏を食べる習慣は続いたとされています。やがて鶏は闘鶏にも使われてその結果で吉凶を占っていたようですが、江戸時代辺りからは庶民も水炊きなどにして食用が進み、今日まで品種改良が続けられてきました。そのような訳で、家禽(かきん)として古来より身近にいた鶏は、伊藤若冲はじめ数多の日本人画家も題材として取り上げ、愛でてきたわけです。我々も、そういった命を頂く事への感謝の気持ちを忘れず、鶏を愛でられれば良いなと思います。

どうやらこんなことをボーっと想っているのも、さっきから関節が少し疼き始めたのも、とうとう私に順番が回ってきたせいなのかもしれません。おっと、気を付けないと指を切りそうだ。

* 賀来孝代 2002「埴輪の鳥」『日本考古学』第14号 日本考古学協会 pp.37-52

 

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「股関節の観察法1」として、前方走査について考えてみたいと思います。股関節の観察法は難しく感じられる方も多いようなので、道草を食いながら丁寧に話を進めていこうと思います。

 

運動器超音波の最初の一歩は

運動器の超音波観察の有用性を調べるため、委託研究の技術協力で最初に行ったのは、大学病院での先天性股関節脱臼の症例観察と大学内のスポーツクリニックでの外傷の症例観察でした。先天性股関節脱臼は関節包の過度の弛緩性により大腿骨頭を臼蓋に維持できない状態を指し、寛骨臼、大腿骨頭、股関節周囲軟部組織の状態から1969 年Dunn により分類がなされました。*1
やがて超音波の分類であるGraf 法が1980 年Graf によって、腸骨に沿った直線と腸骨下端と骨性臼蓋嘴(きゅうがいし: 臼蓋外上縁)を結ぶ直線のなす角(α角:骨性臼蓋角)を基準にした先天性股関節脱臼の分類として報告されました。*2*3
後に、側方から股関節を長軸走査するGraf法と前方から短軸走査する鈴木法が、小児股関節の領域で使用されるようになったわけです。

これらの疾患は、当初は先天性股関節脱臼(congenital dislocation of the hip : CDH)と呼ばれていましたが、関節弛緩と臼蓋形成不全に加えて、出生後に適切でない環境や肢位(腸腰筋やハムストリングスが緊張する股関節、膝関節伸展位)におかれると後天的に脱臼を起こすという説が支配的となり、現在では亜脱臼や脱臼をきたす可能性を有する臼蓋形成不全も含めて、発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip : DDH)と呼ばれつつあります。この時の先生からは、日本での症例数が多かったのは、遺伝的な側面と、日本古来よりの着物文化によって、乳幼児が股関節を自由に動かしづらい伸展状態で農作業中などにおんぶひもで背負われ、或いはかごに置かれていた事も影響しているのだろうというお話を伺いました。

また、乳幼児の股関節でのX線CTやMRI検査の場合、お薬を使って眠らせる必要があるのに対して、超音波は継続する画像から1画像良い画像が得られれば良く、やんちゃに暴れている子でも簡単に撮影でき、X線像では確認できない軟骨構造体が明瞭に描出できること、被爆の心配がなく繰り返し観察できるなど、非常に有用であると述べられていたのを想い出しました。

この、乳幼児股関節の観察が運動器超音波の最初の潮流であったように思います。やがて超音波の画質も格段の進歩を遂げ、X線画像を中心とした骨学から軟部組織へと拡がり、動態観察や血流による炎症の観察、エラストグラフィーによる硬さの評価へと繋がって来ました。まだまだ運動器の知りたいことは、たくさんあります。

*1 Dunn PM. Congenital dislocation of the hip (CDH): necropsy studies at birth. Proc R Soc Med 1969; 62:1035-1037.

*2 Graf R. Classification of hip joint dysplasia by means of sonography. Archives of orthopaedic and traumatic surgery 1984; 102:248-255.

*3 Graf R. The diagnosis of congenital hip-joint dislocation by the ultrasonic Combound treatment. Archives of orthopaedic and traumatic surgery 1980; 97:117-133.

 

股関節前方の解剖

股関節を構成する骨は、腸骨、恥骨、坐骨からなる寛骨と大腿骨ということになります。 ヒトの下肢は、魚類の腹鰭(はらびれ)にその起源を見ることができます。魚類では腹鰭付着部の腹側に骨盤肢帯が存在し、その骨盤肢帯が大きくなり、恥骨・坐骨・腸骨の3 骨が形成され、後に下肢への荷重刺激の増加とともに腸骨が仙骨と結合したと考えられています。この腸骨は、四足動物では仙椎から寛骨臼まで続く細長い形状を示すのに対して、ヒトでは扇状に拡がった形状を示しています。ヒトは二足歩行へと変化したことで、股関節の中間位が変化し上肢が非荷重となりました。そのため、股関節にかかる荷重の方向が大きく変化するとともに、荷重量が著しく増加し、結果として骨盤の形状が幅広く荷重を受け止められる形状へと変化したと考えられています。*4

骨盤の解剖

図 骨盤の解剖

 

寛骨は、腸骨、恥骨、坐骨からなり、仙骨で脊柱と連結して骨盤を構成しています。

寛骨の成長過程での変化を見てみると、腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨は思春期まではY字軟骨により結合しており、成人になると癒合、骨化して1つの寛骨となります。左右の寛骨は前方では線維軟骨による恥骨結合、後方では仙骨と連結しており、寛骨臼の直下と僅か内方には大きな閉鎖孔があって、閉鎖膜によっておおわれています。成長過程の超音波観察では、これらの変化に注意が必要です。

寛骨の成長過程での変化

図 寛骨の成長過程での変化

 

大腿骨頭は球状をしており、お椀状の窪みの寛骨臼とで球関節を構成しています。更に言えば、球関節の中で関節窩が深く運動の制限されたものを臼状関節(きゅうじょう)と言い、股関節はこれに該当します。大腿骨頭の関節面は、球体のほぼ2/3を占め、約4/5が寛骨臼に収まります。*5
この場合着目すべき点として、骨頭の前方、外側は臼蓋があまり覆っていない為、その方向には構造的に不安定であるということです。

*4 高橋尚明. 股関節の動きを比較解剖学的視点から考える. 理学療法学 第38巻第8号2011; 607-610.

*5 船戸和弥 Rauber-Kopsch解剖学
 http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/Rauber-Kopsch/1-30.html

股関節の解剖 寛骨臼への収まりと大腿骨頭靱帯

図 股関節の解剖 寛骨臼への収まりと大腿骨頭靱帯

 

ヒトの股関節は、二足歩行となり片脚立位の姿勢をとるなど、四足動物にはあまり見られない動作を行うことから高い安定性と可動性を両立する機能を有しています。その為に、関節唇や関節包、関節周囲を覆う靭帯によって強固な補強がされています。

股関節の靭帯は、寛骨臼内で大腿骨頭への血液供給を行なう動脈がその中に走行する(閉鎖動脈の寛骨臼枝が通り、小児では大腿骨頭の栄養血管として作用し、成人になると血管は退化し閉鎖する)大腿骨頭靭帯、上部と下部にY字型に広がり350kgに耐える人体最強の靭帯*6である腸骨大腿靭帯、その腸骨大腿靭帯と癒合しながら関節包を補強している恥骨大腿靭帯、後方で股関節内旋や股関節屈曲位での内転の制限要素となる坐骨大腿靱帯があります。

腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯は足関節の前距腓靭帯などと同様に関節包内靭帯で、中立位において捻れた状態に走行しているため、股関節伸展位において緊張(伸張)し、屈曲位において弛緩します。したがって股関節は最大伸展位において最も安定することで、ヒトが二足歩行や片脚立位の姿勢がとれることに大きく寄与し、股関節周囲の筋力を補助する作用も備えていると考えられるわけです。*4逆に考えれば、腸骨大腿靭帯が不動により拘縮を生じれば、股関節伸展制限となるわけです。

*6 Kaiser G (1958) Die angeborene Hüftluxation. Fischer, Jena, S 7

股関節周囲の靭帯の中立位での捻じれと伸張肢位

図 股関節周囲の靭帯の中立位での捻じれと伸張肢位

 

股関節前方の筋としては、寛骨内にある腸腰筋、上前腸骨棘(ASIS)の下方から始まる縫工筋、下前腸骨棘(AIIS)からと臼蓋上縁から始まる大腿直筋、恥骨櫛(ちこつしつ)およびこれより外方にある恥骨枝の寛骨臼部の面からとその他に恥骨筋膜から起る恥骨筋などが挙げられます。

大腿直筋の臼蓋上縁からの起始腱については、下前腸骨棘からの起始腱の深層に位置し、外側に回転しねじれて筋内腱となるとの報告*8に対して、下前腸骨棘からの起始腱が広がりながら表層の起始腱膜となり徐々に内側にねじれて筋内腱を形成していたとの報告もあり、筋内腱の構造に過去の報告と相違を認め、個体差や人種間差の存在が示唆されたとされています。*9
人体における「ねじれの構造」は、様々な部位で観察することができ、機能解剖を考える上でたいへん重要であると考えています。

*7 日高惠喜,青木光広,他.股関節周囲靭帯の伸張肢位を検討する 拘縮に対する効果的な治療手順を求めて, 日本理学療法学術大会 2012(0), 48101237-48101237, 2013

*8 Hasselman CT et al. An explanation for various rectus femoris strain injuries using previously undescribed muscle architecture. Am J Sports Med 1995;23:493-9.

*9 江玉睦明, 影山幾男, 熊木克治. 大腿直筋の筋・腱膜構造の特徴 -肉はなれ発生部位との関連について- 厚生連医誌, 第21巻, 1号 2012, 34-37

 

股関節の運動方向をみてみると、屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋の6方向の組合せでできています。

股関節の運動方向

図 股関節の運動方向

 

この6つの方向の組合せによって、下肢を下肢帯に対して自由に動かし、それによって膝の屈曲軸を様々な方向に移動させるという働きをしています。また、下肢を固定した場合には上半身を胴から動かし、併せて股関節より上方にある体部の重さを支えています。 股関節の負担は歩行時には、体重の3~4.5倍の負荷がかかり、階段を登る時には、体重の6.2~8.7倍の負荷がかかると言われています。*10*11

 

階段と歩行時の股関節の負担

図 階段と歩行時の股関節の負担

 

股関節の負担を軽減するために股関節は靭帯や筋肉で覆われていますが、年齢を重ねると筋力が衰えてくるので、負担が大きくなって軟骨が摩耗することにより変形性股関節症に至るとされています。

 

論文を漁っていくと、内蔵の荷重センサおよび遠隔計測装置を備えた股関節インプラントを使用して、同じように、つまずいた時(stumbling)の股関節接触力(負荷)を計測しているものがありました。これによると、驚くべきことに体重の9倍の負荷と報告されています。*12
筋力の衰えにより足が上がらなくなってつまずく事があると、階段を登る時以上の負荷が股関節にかかるわけです。論文中でも、日常的な状況での偶発的なつまずきは、特に股関節置換術や関節症の患者では避けるべきであるとしています。つまりは、つまずかないように足が上げる筋力を維持することが大切ということになるわけです。股関節の屈曲という事で、大腿直筋、腸腰筋、縫工筋、補助としての長内転筋、薄筋、足関節背屈の動作筋である前脛骨筋、長拇趾伸筋、長趾伸筋などの筋力を保つことが、先ずは「転ばぬ先の杖」ということになりそうです。

*10 Bergmann G, Deuretzbacher G, Heller M, Graichen F, Rohlmann A, et al. (2001) Hip contact forces and gait patterns from routine activities. Journal of Biomechanics 34: 859–871.

*11 Bergmann G, Graichen F, Rohlmann A (1995) Is staircase walking a risk for the fixation of hip implants? Journal of Biomechanics 28: 535–553.

*12 Bergmann G, Graichen F, Rohlmann A (2004) Hip joint contact forces during stumbling. Langenbeck’s Archives of Surgery/Deutsche Gesellschaft für Chirurgie 389: 53–59.

 

 
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