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運動器超音波塾【第20回:前腕と手関節の観察法6】

2018/02/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第二十回 「あまりの寒さに、雪華模様のカウチンセーターを着込む」の巻
―上肢編 前腕と手関節の観察法について 6―

関東地方もとうとう、結構な雪です。
地元つくば市は4年前の2014年に26㎝の積雪でしたが、今回はそれをこえるとの予測もあり、慌てて深夜に駐車場周りと車の上の雪落としを行いました。朝起きると氷点下でしたが、15㎝の積雪深で少し安心しました。静かな朝です。あまりの寒さに、雪華模様のカウチンセーターを着込んでいます。水戸では偕楽園の早咲きの紅梅に雪がかかり、風情を見せているとのことです。

雪の結晶はとてもきれいで、幼い頃雪が降って休校となると、庭の雪かきを手伝う名目で雪だるまや雪うさぎを作って、舞い降りる雪の結晶をルーペで観察したのを思い出しました。
雪の結晶は様々で、代表的な樹枝状や扇型、角柱や角板、針やつづみ型などがあり、成長する大気の気象状態(気温・水蒸気量)によって結晶の形が変わるそうです。どこまでも透明で不思議な造形のその姿をずっと見惚れていたいのに、やがて溶けて消えてしまう。花火にも似たそのはかなさも、美しさの一つなのかも知れません。

江戸時代末に、つくば市のあたりが常陸国とよばれていた頃、隣の下総国古河(現在の茨城県古河市)の藩主で土井大炊頭利位(どいおおいのかみとしつら1789~1848)というお殿様がいました。この殿様が、20年にわたり雪の結晶を観察して「雪華(せっか)」と名付け、86種の結晶スケッチを収録した『雪華図説』という書物にまとめ天保3年(1832)に刊行、天保11年(1840)には97種を収録したその続編を出しています。
利位の観察した結晶の数々は、美しい文様として広く江戸庶民に愛され、着物や工芸品の図柄などに用いられて今日に至ります。日本で最初の自然科学書として、古河歴史博物館や国立科学博物館に展示されています。ちなみにこの『雪華図説』を研究した北海道大学理学部教授の中谷宇吉郎(1900~1962)は、世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出し、雪博士として有名で、「雪は天から送られた手紙である」という名言を残しています。

雪の結晶

図 左: 雪華図説 土井利位{としつら}著 1832年(天保3)刊 国立国会図書館所蔵
図 右: 樹枝六花(じゅしろっか).2017年1月20日気象研究所(茨城県つくば市).
撮影:荒木健太郎.気象庁気象研究所HPより
http://www.mri-jma.go.jp/Dep/fo/fo3/araki/snowcrystals.html#sample

 

「雪は天から送られた手紙である」という事で、大気の気象状態を示す雪の結晶の写真を気象研究所(関東雪結晶 プロジェクト)が集めています。次の雪の日にはスマホで撮って協力したいと思っています。

つくばにある気象庁気象研究所に遊びに行った時に、砂漠地帯の多いアメリカでは雪はとても大切で、雪解け水による水資源が都市部の生命線となっていると聞いた覚えがあります。
日々の生活に支障をきたす事で「雪害」などマイナス面が先行しがちですが、豊富な水資源の根幹であったり、大気の塵を吸着して澄んだ空気にしたり、食物の保存や熟成を安定させたりと、良い事もたくさんあるわけです。
元来、日本人は雪を畏怖しながらも、その共同体の中でお互い助け合いながら上手につきあい、案外、楽しんできた側面があるようです。目先の経済活動ではマイナスでも、環境、空気や水、そして食や文化といった大きなくくりで考えていくと、それがわかります。

雪融け水は分子が小さくなるため生物が吸収しやすいとの話もあり、二日酔いには良いかもしれません。今夜はあったかい鍋をつつきながら、雪室熟成の日本酒で雪見酒でもいっちゃいますか。

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「前腕と手関節の観察法」の続きとして、伸筋支帯の第4~6区画に基づいて、考えてみたいと思います。

 

背側伸筋支帯の第4区画の解剖

背側伸筋支帯の第4区画には、固有示指伸筋腱 EIP: extensor indicis propriusと総指伸筋腱 EDC: extensor digitorum communisが、腱鞘を通っています。
この場合も、手関節背側のリスター結節(Lister's tubercle)を骨性の目印として触診しながら観察すると、画像に映し出された構成体の位置関係が理解しやすくなります。

総指伸筋EDCは上腕骨外側上顆、外側側副靭帯、橈骨輪状靭帯、前腕筋膜から起始し、伸筋支帯の第4区画を通って、各手指(第2~第5)の中節骨底に中央索が、末節骨底に側索が停止します。更に総指伸筋EDCは手指の伸展だけではなく手関節を背屈させる働きにも貢献しています。ところが小指へ向かう腱については個人差があり、環指に向かう伸筋の腱から出る1つの腱束が代行して小指の伸展には余り関与していない場合などがあります。*1

固有示指伸筋EIPは前腕骨間膜、尺骨後面、尺側手根伸筋の筋膜から起始し、示指の中節骨、末節骨の骨底に停止します。

第12回の『肘関節の観察法5』にも書いた通り、これらの伸筋群の障害を考える場合、外側上顆から触診、観察をすることが大切となります。

*1 小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:筋破格ノ統計.東京医誌17:127 −131,1903 .

図 背側伸筋支帯と第4区画

図 背側伸筋支帯と第4区画

 

ここでもう一度、上腕骨外側上顆に付着する外在筋としての伸筋群を観てみましょう。
総指伸筋EDCが表在に有り、遠位でその深層を短橈側手根伸筋ECRBが走行しています。
総指伸筋EDCは示指から小指までを伸展させる筋肉と言う意味だけではなく、肘関節の伸展にも補助的に働いています。更に手内在筋と伴に、坂道発進時のサイドブレーキのように屈筋に対する制動もかけており、この絶妙なバランスによって円滑な指の動きを実現しています。
ともすれば近視眼的に解剖をとらえがちですが、このように複合的な機能を有するのが人体のおもしろいところです。

図 上腕骨外側上顆に付着する伸筋群

図 上腕骨外側上顆に付着する伸筋群

 

上腕骨外側上顆炎で、短橈側手根伸筋ECRBと総指伸筋EDCが疼痛の引き金になるのも、これらの解剖学的構造によるわけです。*2

*2 林典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢 メジカルビュー社

 

下垂指drop fingerについて

橈骨神経が上腕の中央部で傷害されると下垂手(drop hand)になり、肘関節の屈側で傷害されると下垂指(drop finger)になります。*3

下垂指は、肘関節の屈側での橈骨神経麻痺(後骨間神経麻痺)の他、関節リウマチなどによる総指伸筋腱断裂で生じる病態として知られています。
総指伸筋腱断裂は小指、環指に多く観られ、リウマチによる滑膜炎が腱に波及、或いは骨変形を起こす事で腱が摩擦され擦り切れていくことで断裂して、MP関節から伸ばせなくなります。更に、小指側から環指、中指と断裂していくことが多いとされています。
これらの事によって、下垂指の場合、総指伸筋腱断裂か、橈骨神経麻痺(後骨間神経麻痺)かの正確な鑑別のために、超音波による正常伸筋腱の有無の観察が重要となるわけです。*4

図 下垂指と下垂手

図 下垂指と下垂手

 

手指の付け根のMP関節での伸展ができるかを確認するのが重要である理由は、PIP関節は手内在筋で伸展が可能な為です。

*3 日本整形外科学会HP 症状・病気をしらべるより
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/radial_nerve_palsy.html

*4 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

 

第4区画 総指伸筋腱と固有示指伸筋腱の超音波観察法

それでは、第4区画の総指伸筋腱EDCと固有示指伸筋腱EIPを観察していきます。
まず、手関節背側のリスター結節を触診した後、プローブを短軸に走査します。リスター結節の骨隆起の隣りに長母指伸筋腱EPLの断面形状が観察されたら、やや尺側にプローブを移動して尺骨と遠位橈尺関節を描出していきます。
遠位橈尺関節の橈骨の際までの区画(第4区画)に総指伸筋腱EDC4本と固有示指伸筋腱EIP1本の断面が描出されます。第19回の『前腕と手関節の観察法について5』でも記載した通り、長母指伸筋腱EPLは過剰腱の存在や極めてまれに第4区画や第2区画などの別区画を走行している場合もあるとの報告が有ります。*5
また、総指伸筋の3.3%に、第1指に至る過剰腱を認めたとする報告もあり、併せて注意を要します。*6

区画内だけの観察では総指伸筋腱EDCと固有示指伸筋腱EIP両者とも、楕円形の高輝度像として描出されることにより、また、位置関係には個体差がある為、各々を静止画で鑑別することは困難です。この場合、示指を屈伸して腱の画面上奥行方向の動きを観ると示指示へ向かう腱の鑑別ができます。
また、近位へプローブを移動させていくと、固有示指伸筋腱EIPは直ぐに低輝度の筋線維に囲まれた筋内腱となり、総指伸筋腱EDC深層を走行して尺骨を取り囲むように走行していきます。これに対して、総指伸筋腱EDCは固有示指伸筋腱EIPよりも長く筋外腱の状態を保ったのちに筋内腱となり、太い筋腹を形成し上腕骨外側上顆に向かっていくのが観察されます。*4
これも、超音波だからこそ簡単にできる特定法だと言えます。

*5 Kim YJ, Lee JH, Baek JH: Variant course of extensor pollicis longus tendon in the second wrist extensor compartment. Surgical & Radiologic Anatomy, 38(4):497-9,2016

*6 岡崎勝至: 日本人の母指と示指に付着する前腕伸筋(総指伸筋,長および短橈側手根伸筋,長母指伸筋,示指伸筋)の肉眼解剖学的研究.愛知医科大学医学会雑誌,30(2):81-93,2002

図 第4区画 総指伸筋腱と固有示指伸筋腱の超音波観察法 短軸走査

図 第4区画 総指伸筋腱と固有示指伸筋腱の超音波観察法 短軸走査

 

再三申し上げますが、皮下からすぐの部位を観察する場合には、音響カプラ(ゲルパッド)などを使用するか、硬めのゲルを多めに塗布してプローブを浮かせて撮る事によって距離を稼ぐことが必要です。超音波は構造的にプローブ直下に焦点を絞るのが苦手ですから、面倒がらずに必ず行ってください。シャープな画像での観察は、腱の肥厚や滑膜の増生を観察する上でも大切で、せっかくの情報を見落とさないようにする事が重要です。

続いて、長軸での観察です。短軸画像で総指伸筋腱の断面構造を画面の中心にして、プローブを90°直交させていき、橈骨に沿って滑走する腱の様子を観察します。

図 第4区画 総指伸筋腱と固有示指伸筋腱の超音波観察法 長軸走査

図 第4区画 総指伸筋腱と固有示指伸筋腱の超音波観察法 長軸走査

 

橈骨の描写ができたら、腱の走行に対して垂直にプローブを微調整していくと、腱の実質を鮮明に描出することができます。併せて、手関節の屈伸や、示指の屈伸、その他の指の屈伸を行って、動態観察をしていきます。
この場合にも、腱の滑走の様子や、腱の肥厚や腱周囲の水腫、滑膜の増生、腱の欠損などに注意をして観察していきます。

 

 
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