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運動器超音波塾【第20回:前腕と手関節の観察法6】

2018/02/01
背側伸筋支帯の第5・6区画の解剖

背側伸筋支帯の第5区画には、固有小指伸筋EDQ: extensor digitiquintiが通過しています。
固有小指伸筋EDQは上腕骨外側上顆より起始し、小指に向かう総指伸筋腱の延長部に付着して停止します。小指のMP関節・PIP関節・DIP関節を伸展させるのが主な作用で、肘関節の伸展、手関節の背屈にも補助的に関わっています。*2

また、第5区画の固有小指伸筋EDQは尺骨直上を走行する為に、遠位橈尺関節障害に伴う骨変形や滑膜炎の影響を受けやすい部位と言われています。
そのため、遠位橈尺関節脱臼に伴い摩擦抵抗が増える事による腱断裂や、関節リュウマチによる炎症性滑膜増殖による変性断裂に注意とされています。*4

次に背側伸筋支帯の第6区画ですが、ここには尺側手根伸筋ECU: extensor carpi ulnaris が通過しています。尺側手根伸筋ECUは上腕骨外側上顆と尺骨後面より起始し、小指の中手骨底背面に停止します。
超音波で短軸走査での観察をする場合、尺側手根伸筋腱溝が骨性の目印となり比較的解りやすい構造をしています。その溝の中に、卵円形の断面形状を観察することができます。*2
手根伸筋と呼ばれるものの、手関節の尺屈に主に作用し、背屈作用はほとんどありません。*4

尺側手根伸筋ECUは前腕の回外動作に伴い尺骨の茎状突起基部の隆起を乗り越えて移動する為に、背屈・回外を繰り返す職種やスポーツでの腱鞘炎発生要因とされています。

図 背側伸筋支帯の第5・6区画

図 背側伸筋支帯の第5・6区画

 

第5・6区画 固有小指伸筋と尺側手根伸筋の超音波観察法

それでは、第5区画の固有小指伸筋EDQと第6区画の尺側手根伸筋ECUの超音波観察法について考えてみます。短軸走査での第4区画の観察位置から尺側に移動し、遠位橈尺関節と尺骨のやや楕円形の骨形状を観察すると、第4区画のすぐ隣りの尺骨斜面に固有小指伸筋EDQを観察することができます。小指の屈伸と、手関節の回内・回外動作も加えて観察をしていきます。
次に固有小指伸筋EDQを画面の中心にして、90°プローブを直交させ、長軸走査で同様に動態を観察します。尺骨の隆起の形状に影響されて滑走する様子が、観察されます。確かにここで炎症が起これば、腱への波及が容易に想像されます。

図 第5区画 固有小指伸筋腱の超音波観察法 短軸と長軸走査

図 第5区画 固有小指伸筋腱の超音波観察法 短軸と長軸走査

 

続いて、第6区画の尺側手根伸筋腱ECUを観察します。
上記の第5区画の短軸走査でも既に第6区画の尺側手根伸筋腱ECUが描出されており解りやすいと思います。そのまま手首に沿って尺側へプローブを移動していき、尺骨手根伸筋腱溝におさまった、尺側手根伸筋腱ECUを観察していきます。この部位はまれに腱脱臼を起こす場合もあり、注意が必要です。下図は私自身の尺側手根伸筋腱ECUですが、尺骨手根伸筋腱溝からはみ出しており、やや肥厚気味なのが解ります。
尺側手根伸筋腱ECUは、三角線維軟骨複合体TFCCの尺側を支持する壁の役割もしており、近接している為に、尺側手根伸筋腱ECU の腱炎や腱周囲炎とTFCC損傷を鑑別することがポイントの一つとなります。三角線維軟骨複合体TFCCの観察法については、第17回の『前腕と手関節の観察法 その3』を参照してください。

図 第6区画 尺側手根伸筋腱の超音波観察法 短軸と長軸走査

図 第6区画 尺側手根伸筋腱の超音波観察法 短軸と長軸走査

 

この観察法は、橈骨遠位端骨折に伴う尺骨茎状突起骨折の観察にも使える観察法であり、橈骨遠位端骨折の観察時には、併せてこの位置での観察を行って、骨の不連続像や小骨片の有無などに注意をしてください。

 

動画 固有示指伸筋腱EIPの動態観察(長軸走査)
手関節伸展位で示指の屈曲動作

では、動画です。
固有示指伸筋腱EIPを長軸走査で観察します。手関節伸展位で示指を屈曲させながら観察しています。
固有示指伸筋腱EIPの上に見える腱繊維は、総指伸筋腱EDCです。

固有示指伸筋腱EIPの滑走に伴って、体表までが大きく上下しているのが解ります。
尺骨に起始する伸筋群のうち最も遠位に存在する事もあり、画面左側では既に筋内腱に移行しているのが解ります。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

背側伸筋支帯の第4区画には、固有示指伸筋腱 EIPと総指伸筋腱 EDCが腱鞘を通るが、総指伸筋腱EDCの小指へ向かう腱には個人差があり、環指に向かう伸筋の腱から出る1つの腱束が代行して小指の伸展には余り関与していない場合などがある
総指伸筋EDCは示指から小指までを伸展させる筋肉と言う意味だけではなく、肘関節の伸展にも補助的に働き、更に手内在筋と伴に屈筋に対する制動もかけて指の動きを円滑にしている
下垂指の場合、総指伸筋腱断裂か、橈骨神経麻痺(後骨間神経麻痺)かの正確な鑑別のためには、超音波による正常伸筋腱の有無の観察が重要となる
リスター結節の骨隆起を目印に、隣りの長母指伸筋腱EPLの断面が観察されたら、やや尺側にプローブを移動して尺骨と遠位橈尺関節を描出すると、遠位橈尺関節の橈骨の際までの区画(第4区画)に総指伸筋腱EDC4本と固有示指伸筋腱EIP1本の断面が描出される
総指伸筋の3.3%に、第1指に至る過剰腱を認めたとする報告がある
総指伸筋腱EDCと固有示指伸筋腱EIPを鑑別する場合は、示指を動かして腱の動きを観るか、プローブを近位へ移動しながら筋内腱に移行する様子を観察すると、固有示指伸筋腱EIPはすぐに筋線維に取り囲まれることから容易に特定する事ができる
腱の肥厚や腱周囲の水腫、滑膜の増生、腱の欠損などに注意をする
背側伸筋支帯の第5区画には固有小指伸筋EDQが通過し、尺骨直上を走行する為に、遠位橈尺関節障害に伴う骨変形や滑膜炎の影響を受けやすい部位と言われ、遠位橈尺関節脱臼に伴う腱断裂や、関節リュウマチでの炎症性滑膜増殖による変性断裂に注意する
短軸走査での第4区画の観察位置から尺側に移動し、遠位橈尺関節と尺骨のやや楕円形の骨形状を観察すると、第4区画のすぐ隣りの尺骨の斜面に背側伸筋支帯の第5区画の固有小指伸筋EDQを観察することができる
背側伸筋支帯の第6区画には尺側手根伸筋ECUが通過し、手関節の尺屈に主に作用し、背屈作用はほとんどない
尺側手根伸筋ECUは前腕の回外動作に伴い尺骨の茎状突起基部の隆起を乗り越えて移動する為に、背屈・回外を繰り返す職種やスポーツでの腱鞘炎発生の要因とされている
背側伸筋支帯の第6区画では尺骨手根伸筋腱溝を目印に観察し、まれに尺側手根伸筋ECUが腱脱臼を起こす事に注意する
尺側手根伸筋腱ECUは、三角線維軟骨複合体TFCCの尺側を支持する壁の役割もしており、近接している為に、尺側手根伸筋腱ECU の腱炎や腱周囲炎とTFCC損傷を鑑別することがポイントである

 

次回は「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、中手骨に基づいて考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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