menu

運動器超音波塾【第18回:前腕と手関節の観察法4】

2017/10/01
背側伸筋支帯の第2区画と腱交叉部の解剖

背側伸筋支帯の第2区画には、長橈側手根伸筋腱 ECRL: extensor carpi radialis longus、短橈側手根伸筋腱 ECRB: extensor carpi radialis brevisが、同一の腱鞘を通っています。
この場合も、手関節背側の橈骨手背のLister結節を骨性の目印として触診しながら観察すると理解しやすくなります。

図 背側伸筋支帯と第2区画

図 背側伸筋支帯と第2区画

 

長橈側手根伸筋腱(ECRL)と短橈側手根伸筋腱(ECRB)は、橈骨の外側縁を下方に進み、長母指外転筋(APL)と短母指伸筋(EPB)の筋腹と交叉してから、伸筋支帯の第2区画を通ることから、交叉部での障害(Intersection syndrome)に注意をします。

図 腱交叉部の解剖

図 腱交叉部の解剖

 

短母指伸筋(EPB)の走行を超音波で観ると、手関節の掌尺屈運動に抵抗するように緊張する様子が観察されます。人体標本を用いたバイオメカの実験で、隔壁の有無と手関節の角度との組み合わせが有意に短母指伸筋(EPB)の滑走抵抗に影響を与えていたとするものがあり、超音波での観察を裏付けしているように思います。*8
この短母指伸筋(EPB)の振る舞いについては、腱交叉部での障害の発生要因の一つとして着目しているところで、更なる研究が必要です。

*8 Keiji Kutsumi. Gliding resistance of the extensor pollicis brevis tendon and abductor pollicis longus tendon within the first dorsal compartment in fixed wrist positions( 手関節固定位での第1背側区画における短母指伸筋腱と長母指外転筋腱の滑走抵抗).博士論文.北海道大学

 

伸筋腱第2区画から腱交叉部への超音波観察法

第1区画の背側にプローブを移動させ橈側皮静脈を越えていくと、第2区画内の高輝度を示す卵円形の2本の腱(橈側:長橈側手根伸筋ECRL、尺側:短橈側手根伸筋ECRB)を観察することができます。短橈側手根伸筋(ECRB)はLister結節に接しており、目印となります。
この位置から近位方向にプローブを動かすことで、intersection(ECRB,ECRLとAPL,EPBが交叉して走行)が観察可能です。海外でのエコー所見で言われているのは、滑液鞘の浮腫、交叉部での筋膜浮腫、周囲の水腫、腱の肥厚、皮下浮腫と筋肉内の浮腫などで、皮下浮腫と筋肉内の浮腫という点は要注目でAPL,EPBの筋肥大の指摘もあります。*9*10*11
この位置には線維鞘が無いため、正式には腱炎と周囲滑膜の肥厚による滑膜炎や腱周囲炎と筋膜炎などと捉えるべきかもしれません。
いずれにしても超音波での観察の場合には反射角度の問題がありますから、観察時にはゲルの塗布量を多くして、角度を変えながら低エコー域が確かに存在するのかを判断することが重要です。また、健側と比較して筋肉の緊張状態をその形状や筋内腱の様子に着目して、掌屈背屈、回内回外、母指の外転対立と動態観察するのも大切です。

*9 Sahar Shiraj, Carl S. Winalski, Patricia Delzell, Murali Sundaram. Intersection Syndrome of the Wrist. Orthopedics. March 2013 - Volume 36 · Issue 3: 165, 225-227

*10 Giovagnorio F, Miozzi F. Ultrasound findings in intersection syndrome. J Med Ultrasonics. 2012; 39(4):217–220 doi:10.1007/s10396-012-0370-y

*11 Descatha A, Leproust H, Roure P, Ronan C, Roquelaure Y. Is the intersection syndrome is an occupational disease? Joint Bone Spine. 2008; 75(3):329–331 doi:10.1016/j.jbspin.2007.05.013

 

では、背側伸筋支帯第2区画から腱交叉部へ短軸で観察してみます。

図 背側伸筋支帯第2区画と腱交叉部の短軸画像

図 背側伸筋支帯第2区画と腱交叉部の短軸画像

 

続いて、動画です。短軸走査で背側伸筋支帯の位置から近位に腱交叉部までプローブを移動している様子です。橈側皮静脈と橈骨神経浅枝を目印に、第1区画と第2区画を両方観察できる位置から始めます。第1区画の長母指外転筋(APL),短母指伸筋(EPB)が第2区画の長橈側手根伸筋(ECRL),短橈側手根伸筋(ECRB)の上を横切っていく様子が観察できます。
この時ゲルは多めに塗布して、橈側皮静脈の圧迫にはくれぐれも注意して下さい。

腱交叉部の超音波観察法 遠位から近位へ移動走査

 

動画 腱交叉部の超音波観察法 遠位から近位へ移動走査

第1区画の長母指外転筋(APL),短母指伸筋(EPB)が第2区画の長橈側手根伸筋(ECRL),短橈側手根伸筋(ECRB)の上を横切っていく様子が観察できます。

最初に短母指伸筋(EPB)が高エコーの腱から低エコーの筋腱移行部となって横切り、次に長母指外転筋(APL)が同じように筋腱移行部になって横切っていくのが解ります。

腱交叉部の超音波観察法

図 腱交叉部の超音波観察法

 

この位置では短母指伸筋(EPB)が低エコーの筋組織に移行しているのに対して、長母指外転筋(APL)は未だ腱組織で、短橈側手根伸筋(ECRB)の上を交叉する位置位から筋組織に移行していきます。プローブの傾けを微調整しながら、内部構造にも注意をして観察する事が大切です。また、炎症所見の場合には、ドプラ機能で筋膜や腱周囲の毛細血管の拡張を観察する事もポイントです。一部の患者では交叉部に隣接する軽度の皮下浮腫も特徴であり、恐らく周囲の充血に起因するとのMRIによる報告もあります。*12

海外の文献の中には、この位置に生理食塩水を超音波ガイド下に注射して癒着を軽減したという話もあり(妊娠中の女性のケースという事で非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の候補者ではなかった)、痛みと握雪音を直ちに救済したとして、やはりここでも「癒着と剥離」がキーワードのようです。*13
この仕組みについては、さらに解剖学的な研究が必要です。

この観察も、超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、治療に対する情報や、今後の注意点も検討することができる良い例です。やはり運動器の超音波観察では、動態観察が大切であるということです。

*12 Costa CR, Morrison WB, Carrino AJ. Mri features of intersection syndrome of the forearm. AJR Am J Roentgenol 2003;181:1245–9.

*13 Thomas M. Skinner. Intersection Syndrome: . J Am Board Fam Med July 1, 2017 30:399-401

 

さて、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

背側伸筋支帯の第1区画には、長母指外転筋腱(APL)、短母指伸筋腱(EPB)が、同一の腱鞘を通っている
滑液鞘は伸筋支帯の1.5㎝程度中枢側から始まっており、線維鞘を持たない
第1区画の長母指外転筋腱(APL)、短母指伸筋腱(EPB)の間には隔壁がある場合が多く、De Quervain病では特に高率で76.5%との報告がある
隔壁の形態も完全な物から、遠位のみや近位のみの物もあり、遠位近位への移動走査が大切である
隔壁がある場合、その隔壁部分に一致した床側の骨隆起を認める特徴がある
腱の病変は短母指伸筋腱(EPB)が多く、腱鞘の病変の大半は長母指外転筋腱(APL)、短母指伸筋腱(EPB)の双方に観られる
長母指外転筋腱(APL)は2~3本の副腱が走行していることが多く1本の場合が逆に少なく、短母指伸筋腱(EPB)についても2~3本の人が10.4%、欠損が5.2%であったとの報告がある
橈骨神経浅枝と橈側皮静脈の走行は交叉しており、その位置と頻度は、橈骨茎状突起より近位で62.6%、遠位で17.1%、橈骨茎状突起の位置で14.3%、また、橈骨神経浅枝は常に橈側皮静脈より深層に位置していたとする報告がある
第1区画では腱の肥大や腱鞘の肥厚、周囲の水腫などに注意して観察する
第1区画の隔壁の実質を確認したい場合は、橈側皮静脈を目印に第2区画まで描出する角度にプローブを振る
背側伸筋支帯の第2区画には、長橈側手根伸筋腱(ECRL)、短橈側手根伸筋腱(ECRB)が、同一の腱鞘を通り、Lister結節を目印に観察する
第2区画からプローブを近位方向に移動させることで、APL,EPBがECRL,ECRBの上を横切っていく様子が観察できる
第2区画と腱交叉部の観察では、滑液鞘の浮腫、交叉部での筋膜浮腫、周囲の水腫、腱の肥厚、皮下浮腫と筋肉内の浮腫、APL,EPBの筋肥大などに注意する

 

次回も「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、伸筋支帯の区画に基づいて、考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
前のページ 次のページ
大会勉強会情報

施術の腕を磨こう!
大会・勉強会情報

※大会・勉強会情報を掲載したい方はこちら

編集部からのお知らせ

メニュー