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運動器超音波塾【第18回:前腕と手関節の観察法4】

2017/10/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第十八回 「夏らしくない夏、秋らしい秋」の巻
―上肢編 前腕と手関節の観察法について 4―

今年の夏は、「夏らしくない夏」であった気がします。雨降りや曇りの日が多く、猛暑日も少なかった。気象庁の発表によると、東京(東京都)でも8月の月間日照時間が少ない方からの1位の値を更新したという事で、晴れ間が平年の半分という話です。*1
また、台風3号と活発な梅雨前線による九州北部豪雨災害や、秋田県の雄物川が2度も氾濫するなど、各地で河川の氾濫や土砂災害などが発生した夏でもありました。7月に大分県で仕事があって、移動中に見た福岡県朝倉市の惨状は、地元つくば市の隣、常総市で起きた2015年9月、台風18号の影響により鬼怒川(きぬがわ)の堤防が決壊し大きな被害が出た、あの時の記憶を呼び起こしました。

*1 気象庁:報道発表資料,8月の天候,平成29年9月1日発表

日照不足の影響は、海水浴場やプールなどの夏レジャーやイベントのみならず、夏野菜や果物など農産物の流通量も減少させているようです。秋の味覚にも影響が出ているようで、食いしん坊としてはちょっと辛い。そのような中、大好物である地元の梨(茨城県は全国2位の収穫量)は、今夏の影響もないようでとても美味しい。
梨の起源には大陸渡来説と日本固有説があり、まだ結論は出ていないようです。約1800年前の弥生時代後期の登呂遺跡(静岡県)からは、既に炭化した梨の種が出土しているそうで、我々にとって長い付き合いの果実と言えそうです。
そう言えば、幼いころによく食べた、長十郎(梨の品種で最近は幸水、豊水が多い)はどこへ行ってしまったのだろうか。あの硬い果肉が妙に懐かしい。
調べてみると、収穫量のグラフから名前が無くなっているほど流通していません。酸っぱい夏ミカンが突然変異の甘夏に置き換わったように、長十郎もフェイドアウトしてしまうのでしょうか。本来は十分に甘い梨で収穫量を上げるために糖度を下げていたとか、採ってすぐ食べるととにかく美味しいのに、一週間以上経ってしまうともうダメとかの話も出てきて、これはもう、もう一度食べたい。今度の休みには、「秋らしい秋」を求めて、ドライブがてら愛車を駆って地元を探してみようかと想っているところです。結局私の場合、「秋らしい秋」は、食いしん坊の「食欲の秋」なのね。

ナシ

図 ナシ「長十郎」(9月中旬)
(ふくしま教育情報データベース福島県果樹試験場より)
http://is2.sss.fukushima-u.ac.jp/fks-db/index.html

 

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「前腕と手関節の観察法」の続きとして、少し戻りますが伸筋支帯の区画に基づいて、考えてみたいと思います。

 

手関節橈側の障害について

前回の観察では、手関節尺側の障害とその観察法として三角線維軟骨複合体(TFCC)について考えてみました。では、手関節橈側の障害はどのようなものがあるのでしょうか。
第15回で背側伸筋支帯の区画の解剖について触れましたが、手関節橈側の炎症部位を調べてみると、橈骨茎状突起部炎・De Quervain’s tenosynovitis(第1背側伸筋腱区画の狭窄性腱鞘炎 長母指外転筋腱と短母指伸筋腱)・短母指・長母指伸筋腱の狭窄性腱鞘炎・Intersection Syndromeなどが出てきます。
そこで今回は、これら手関節橈側から背側の超音波観察法について考えてみたいと思います。

手関節橈側の障害

図 手関節橈側の障害

 

背側伸筋支帯の第1区画の解剖

背側伸筋支帯の第1区画には、長母指外転筋腱 APL: abductor pollicis longus、短母指伸筋腱 EPB: extensor pollicis brevisが、同一の腱鞘を通っています。
この場合、手関節背側の橈骨茎状突起とLister結節を骨性の目印として触診しながら観察すると、画像に映し出された構成体が理解しやすくなります。
何度も言いますが、運動器の超音波観察法は触診ありきです。
手の伸筋支帯は前腕筋膜が前腕下端部で厚くなったもので、その下に前腕伸筋の腱が透明な滑液鞘(腱鞘)に包まれて通る6管を作っています。この滑液鞘は伸筋支帯の1.5㎝程度中枢側から始まっており、線維鞘を持たないとされています。*2

背側伸筋支帯と第1区画

図 背側伸筋支帯と第1区画

 

長母指外転筋腱(APL)と短母指伸筋腱(EPB)は橈骨茎状突起上にあり、双方の間に隔壁がある場合があります。
解剖での隔壁の存在の報告は24%~75%と幅があり、堀内らは52%と報告しています。*3
De Quervain病での隔壁の報告は67.5%~91.0%と高率で、城石らは76.5%と報告し、腱鞘中隔の存在がこの疾患の発生に少なからず影響しているとしています。
中隔の形態も、完全な物から、遠位のみや近位のみの物もあるとのことで、超音波で観察する場合には遠位近位に移動して観察することが大切であると、あらためて解りました。併せて、腱の病変については短母指伸筋腱(EPB)が多く、腱鞘については短母指伸筋腱(EPB)、長母指外転筋腱(APL)単独の病変に有意差はなく、大半が双方の腱鞘に病変がみられたと報告されています。
また、長母指外転筋腱(APL)は2~3本の副腱が走行していることが多く、1本の場合が逆に少ない。短母指伸筋腱(EPB)についても2~3本の人が10.4%、欠損が5.2%であったとし、解剖図だけでは解らない人間の身体の個体差が、ここでも理解されます。*4

*2 参考 : 船戸和弥のホームページ
http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/

*3 堀内行雄,高山真一郎,仲尾保志ほか : de Quervain病手術時における短母指伸筋腱識別法について.日手会誌,13:174-177,1996.

*4 城石達光,安永 博,太田佳介・他:de Quervain病における第1区画の臨床的意義.整形外科と災害整形. 2002, 51(3): 570-574.

背側伸筋支帯の第1区画の隔壁

図 背側伸筋支帯の第1区画の隔壁

*5 超音波でわかる運陶器疾患 皆川洋至 メジカルビュー社

第1区画の周囲には橈骨神経浅枝が走行しており、余計な刺激をしないようプローブワークには十分注意します。橈骨神経浅枝と橈側皮静脈の走行は交叉しており、その位置と頻度は、橈骨茎状突起より近位で62.6%、遠位で17.1%、橈骨茎状突起の位置で14.3%、また、橈骨神経浅枝は常に橈側皮静脈より深層に位置していたとする報告があります。*6
橈骨神経浅枝の位置の同定には、橈側皮静脈を目印とすると良いでしょう。

*6 向井 加奈恵,小松 恵美,浦井 珠恵ほか : 橈骨神経浅枝と橈側皮静脈の交叉の位置と頻度の解剖学的調査. 形態・機能Vol. 14 ,No1,3-11, 2015.

 

背側伸筋支帯第1区画の観察法

では、手関節背側の橈骨茎状突起とLister結節を骨性の目印として触診しながら、第1区画を短軸で観察してみましょう。
橈骨茎状突起上に長母指外転筋腱(APL)と短母指伸筋腱(EPB)が2つ並んで描出されます。長母指外転筋腱(APL) は短母指伸筋腱(EPB)と比べやや太く、楕円形の形状をしています。
前述の通り、長母指外転筋腱(APL) は副腱が多く、腱内部が分離して観えるのは異常ではありません。この時に、低エコーに観える腱鞘内隔壁の有無に注意して観察します。腱鞘内隔壁がある場合には床側に骨隆起を認める特徴があり、観察のポイントとなります。
腱の肥大や腱鞘の肥厚、周囲の水腫などに注意して観察します。併せて、ドプラ機能で炎症状態も観察します。また、観察位置を近位遠位へと移動しながら観察し、遠位のみの隔壁や近位のみの隔壁も見逃さないように注意しましょう。

背側伸筋支帯第1区画の短軸走査

図 背側伸筋支帯第1区画の短軸走査

 

背側伸筋支帯第1区画の隔壁の有無をしっかりと確認したい場合は、骨隆起の確認と伴にプローブの入射角に工夫をします。
橈側皮静脈を目印に第2区画まで描出する角度にプローブを振る(橈側から手背方向)と、隔壁に超音波ビームが当たることで反射波が得られ、描出することができます。

背側伸筋支帯第1区画の隔壁をしっかり確認したい

図 背側伸筋支帯第1区画の隔壁をしっかり確認したい

 

伸筋支帯第1区画と第2区画の間に観えるのは骨棘です。
長母指外転筋(APL)に比べ短母指伸筋(EPB)の滑走距離が大きいことから短母指伸筋(EPB)の機械的摩擦が生じやすいという報告もあり、炎症ということで関係しているかも知れません。研究の余地ありです。*7

*7 小倉 丘、橋詰博行、佐々木和浩、赤堀 治:伸筋支帯第1区画における短母指伸筋と長母指外転筋の滑走距離.日本手の外科学会雑誌14:124-127,1997.

 

続いて、伸筋支帯第1区画の長軸走査です。
短軸走査から腱の中心を支点として長軸方向にプローブを動かしていきます。

背側伸筋支帯第1区画の長軸走査

図 背側伸筋支帯第1区画の長軸走査

 

 
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