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運動器超音波塾【第11回:肘関節の観察法 4】

2016/08/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第十一回 2016年度から学校健診において運動器検診が必須化」の巻
―上肢編 肘関節の観察法について 4―

野球の離断性骨軟骨炎に代表される上腕骨小頭障害は超音波画像診断装置による検診が各地で行われるようになり、超音波の、特に事前の準備を必要としない簡便性、移動が容易、場所を選ばない、被爆がなく安全性が高い等の長所が、高く評価されてきています。前にも触れましたが、今まで運動器分野は、体力検査は行っているものの運動器検診については十分行われてきたとは言えないのが現状でした。一部、脊柱側弯症や胸郭の検診が行われていただけでした。 平成26 (2014)年4月30日に文部科学省から「学校保健安全法の一部改正」により「運動器等に関する検査を必須項目に追加」となり、平成28年(2016)年4月1日より実施となりました。とうとう2016年度から学校健診において運動器検診が必須化された*1というわけで、とても期待しております。成長期の子供たちを運動器障害から守る、大いなる前進です。さまざまなスポーツ分野で子供たちが守られるよう、指導者や保護者へのスポーツ障害に対する啓蒙も進んでいく事を願ってやみません。更には、痛みの有無に関係なく、超音波による成長軟骨と靭帯や腱の付着部の検査へと繋がっていく事を願っています。そうすれば、今回も触れていますが、無症状期のOCDの内的素因に関しても膨大なデータから明らかになるはずです。運動器分野の新しい扉が、また一つ開かれました。

「図 運動器(脊柱・胸郭,四肢,骨・関節)についての保健調査票

図 運動器(脊柱・胸郭,四肢,骨・関節)についての保健調査票

*1 公益財団法人 運動器の10年・日本協会(The Bone and Joint Decade Japan)
公式ホームページより http://www.bjd-jp.org/index.html

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「肘関節の観察法」として、上腕骨小頭障害を中心に、肘関節の解剖と超音波での前方アプローチと屈曲位でのアプローチについて考えてみたいと思います。

 

上腕骨小頭の解剖学的構造

上腕骨小頭は上腕骨の長軸にやや縦長の半球状の構造をしており、離断性骨軟骨炎の好発部位は上腕骨軸に対して約45°前傾している頂点を中心に生じるとされています。

図 上腕骨小頭の解剖学的構造

図 上腕骨小頭の解剖学的構造

離断性骨軟骨炎の好発部位は上腕骨小頭遠位前方で、上腕骨軸に対して約45°前傾している頂点を中心に生じる特徴がある。したがって、伸展障害をきたしやすい小頭障害では、伸展位では橈骨頭に隠れてしまう場合が少なくない。*2

*2 参考資料 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

 

成長帯(骨が成長する場所)が開在している若年者の離断性骨軟骨炎では、内上顆の裂離(運動器超音波塾 第九回参照の事)を合併しており、肘関節内側にゆるみがあると上腕骨小頭の外側縁により大きな圧迫力が加わり、離断性骨軟骨炎が発症しやすくなると考えられています。この時、離断性骨軟骨炎の初期病変は軟骨の扁平化(透亮型)で、扁平部は新生骨によって修復されていきます。 しかしこの間に投球を続け繰り返しの外力が加わると、不安定な骨軟骨片が形成され偽関節(分離型)となってしまいます。*3

*3 野球肘の自然経過:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎:高原政利 (山形大 医 整形外科)、荻野利彦 (山形大 医 整形外科)、村成幸 (山形大 医 整形外科):日本肘関節学会雑誌 巻:12 号:1 ページ:S5:2005

 

離断性骨軟骨炎(OCD)の主な症状と発症する過程

離断性骨軟骨炎(OCD)の特徴としては、

  • 10代前半のオーバーヘッドアスリート(投球動作をするような運動選手)に好発
  • 上腕骨小頭が外側に出る
  • 関節痛、クリック感、ロッキング、伸展制限があるが、基本的には無症状
  • 内側側副靭帯の損傷がある為、見過ごすケースが多い

などが挙げられており、超音波検査が強力なツールであると言われています。更に、その発症する過程として、

  • 投球動作は6つのフェーズに分けられ、ボールをリリースする直前のコッキング後期が最も肘に負担がかかる
  • 肘に外反力が生じ、そのうちの54%という、内側側副靭帯の破断強度に近い力学的負荷がかかっている
  • 一方、外側では内側側副靭帯を損傷することよって力が入らなくなり、上腕骨小頭前方への応力がより増大して炎症が起き、離断性骨軟骨炎を発症すると考えられる
  • つまり、内側側副靭帯を損傷すると離断性骨軟骨炎を発症するリスクが非常に高まる

という話があります。*4

*4 第44回北海道学術大会 札幌大会特別講演 「野球肘の診断と治療」
北海道大学大学院医学研究科 機能再生医学講座整形外科学分野 岩崎倫政教授

野球肘の考え方として、内側型や外側型、後方型というタイプ分けがありますが、この話でもわかるように、それぞれは合併症であり、障害の進行過程であるという事です。投球時にボールへ与えるエネルギーの半分は上肢と肩から出力されますが、残りの半分は下肢の筋群と体幹の回旋から力が生み出され、肩甲骨を介して上肢へと伝えられます。この力の伝達過程で、安全装置であり仲介役として働く肩甲骨がうまく機能しなくなると、下肢と体幹で生み出された大きな力が効率よくボールに伝わらなくなります。さらには肩や肘に無理なストレスをかけてしまい、障害を起こします。大切なのは、肘関節の問題だけではなく、各部位の連携が取れた正しい投球フォームの習得や疲労回復のストレッチ、休息であり、そして何よりも早期発見と治療という事で、やはり「超音波による動態解剖学的な検査の出番」という事ではないでしょうか。

図 肘部管と尺骨神経

図 野球肘の進行過程としてまず観ておきたい
内側側副靭帯の観察法の復習

内側側副靭帯(AOL前斜走線維)と屈筋回内勤群の付着部、内側上顆骨端線離解、内側上顆裂離(内側上顆下端剥離骨折)、内側上顆下端の分節化などに注意する。

 

野球のピッチングフォームで、最も矯正すべきであると指摘されるのが「肘下がりの投球」です。肘が下がった状態で投げると、下半身が使われずに手投げになってしまうという事がよく言われます。では、肘が下がった投球動作がなぜ悪いのか、その場合の肘関節への作用について考えてみます。

  • 肘が下がると肩の外旋がしづらい状態になる
  • 上腕骨近位の骨頭の関節面(軟骨面)も小頭と同様に45°の範囲に限られており、拳上の肢位より肘が下がるにつれて、外旋方向に使える関節面が少なくなる
  • それによって脱臼しないように動きを制限する働きが生じる
  • そのため腕がしなる時(最大外旋位)に肩の外旋がすぐに限界になり、肩の外旋を制御する場所に負担がかかる
  • 更に肩が外旋できない分を肘の外反が補うようにするため、肘に負担がかかってくる
図 肘部管と尺骨神経

図 肩関節の外転角度による外旋制限

*5 上肢挙上時の臼蓋上腕関節での接触域の推移-OpenMRIを用いた健常人での解析-:
建道寿教など: 肩 関節,2004;28巻. 第3号427431

図 外反力による上腕骨小頭への圧迫力と剪断力の加わり方

図 外反力による上腕骨小頭への圧迫力と剪断力の加わり方

肘が下がる事によって肩関節の外旋がしづらくなり、その結果、肘関節での外反で補おうとするために肘にも負担がかかってくる、という事になります。

 

 
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