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運動器超音波塾【第9回:肘関節の観察法 2】

2016/04/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第八回 「宇宙航海時代は、超音波が主流となるのだ」の巻 
―上肢編 肘関節の観察法について 2―

地元のつくば市は、国内外の様々な分野の研究機関が300ほどある研究学園都市なのですが、その中にJAXAの筑波宇宙センターがあります。普段でも自由見学ができる施設ですが、特別公開の日があって、その日はディープな設備まで見学することができます。アポロの月面着陸やウルトラマンで育った世代としては、「宇宙」と言われるだけでわくわくしてしまい、毎年、子供を連れて自転車で向かってしまいます。そういうわけで、JAXAの「ISS・きぼうマンスリーニュース」に登録して、メールで国際宇宙ステーションでの活動状況などの最新情報を発信してもらっています。

そのような記事の中で特に驚いたのが、NASAの行っている微小重力下での超音波診断(Advanced Diagnostic Ultrasound in Microgravity: ADUM)の研究です。南極観測所や国際宇宙ステーション等の隔離された遠隔地での医療をどのように実現するかという研究で、2005年には国際宇宙ステーションと地上のジョンソン宇宙センターとを遠隔通信で結び、地上の医師と宇宙飛行士が交信しながら、無重力状態での筋骨格の解剖学的変化をモニター実験していました。その時の上腕二頭筋長頭腱の画像も、紹介されています。*1

最初に指パッチンを覚えたきっかけ Addams Family(1964米ABC-TV)

国際宇宙ステーションで肩関節を観ている宇宙飛行士と、上腕二頭筋長頭腱の超音波画像
NASAホームページより

さすがはNASAで、無重力の宇宙遊泳で肩の腱板への影響などについて、既に検討しているとの事です。宇宙飛行士の「頭からつま先まで」の身体の変化を評価するために、100 時間以上の超音波画像診断試験を行い、2011年には約20,000枚の画像やビデオデータを収集しています。更に、これらの超音波検査技術とアトラスを取りまとめ、遠隔医療の超音波診断ツールを完成させ、エベレスト等の山岳でも実験をしています。*2

人口減少に伴い、医療施設も都市部に集まる傾向があり、これからの過疎地域の医療をどのように補完するのかという、一つの答えであることは間違いありません。

最初に指パッチンを覚えたきっかけ Addams Family(1964米ABC-TV)

国際宇宙ステーションで超音波を観ている宇宙飛行士
NASAホームページより

宇宙で想定される500の医学的状況(疾患やけが)の、2/3を超音波で検査が可能という事で、宇宙航海時代は、超音波診断が主な検査になると予測されています。国際宇宙ステーションは90分で地球を一周しているそうで、ウィスキーを飲みながら地球を眺める旅がしてみたいものです。

*2 「NASA Technology Innovation Vol.15; 3, 2010; NP-2010-06-658-HQ」

 

今回の「運動器の超音波観察法」の話は、「肘関節の観察法」として、肘関節内側の解剖と超音波でのアプローチについて考えてみたいと思います。

肘関節を構成する上腕骨は、遠位部では薄く扁平した形状になっており、それぞれ内側と外側に突出した骨隆起があります。この骨隆起の事を内側では内側上顆、外側では外側上顆と呼び、それらに付着する筋群の付着部炎や靭帯損傷が臨床的に多く観られます。*3

*3 参考資料 林 典雄  運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢
メジカルビュー社

肘関節の関節包のひろがり

図 肘関節の関節包のひろがり

肘関節の内側を構成する靭帯

図 肘関節の内側を構成する靭帯

AOL 前斜走線維(anterior oblique ligament)
【起始】上腕骨内側上顆前下方
【停止】尺骨鉤状突起の内側面(鉤状結節)

POL 後斜走線維(posterior oblique ligament)
【起始】上腕骨内側下方
【停止】尺骨肘頭の内側面

TL 横走線維(transverse ligament)

肘関節の関節包は腕尺関節・腕橈関節・近位橈尺関節の3つの関節を包んでおり、近位では内側上顆・外側上顆を除いて鉤突窩・橈骨頭窩・肘頭窩の上に付着し、遠位では橈骨頚と尺骨滑車切痕の周囲に付着しています。  関節包はごく薄く、側方は内側と外側の側副靭帯、前方には斜走線維束による靭帯が補強しています。肘関節の関節包が最も緩む角度は、屈曲約80°と言われており、関節の内圧も最低となる事から、炎症や腫脹のある場合には最も楽な肢位となります。 肘関節の屈伸に柔軟に対応するために関節包は緩んでおり、動きに際して関節包が挟まれないように、前面には上腕筋が、後面には肘関節筋と肘筋が関節包に付いて引っ張っています。この事からも、骨折予後のリハビリテーションでも屈曲拘縮の予防を目的とした上腕筋へのアプローチが、重要視されてきています。*4

*4 肘関節屈曲拘縮における上腕筋組織弾性の定量的評価:ShearWave Elastographyを用いての検討 永井 教生 2013年 CiNii収録論文

肘関節の関節包を上腕筋が引き上げる

図 肘関節の関節包を上腕筋が引き上げる

 

肘関節内側の超音波観察法 基本肢位は座位

重要なポイントなので、今回も肢位について触れます。超音波での観察法の場合、最初に考慮すべき点としては、観察肢位が挙げられます。被験者はもちろん、観察者も楽な姿勢での観察が的確なプローブワークにつながり、より情報の多い画像が得られます。この場合、大切なことは、動態観察を想定しての肢位を検討すべきだという事です。 肘関節の場合、肩との連動で動態観察する事もあるため、肩甲骨が床面と接触してしまうと、内外旋運動や外転運動のような自然な肩の動きができなくなるという理由によって、肩関節の観察と同様に、基本肢位は坐位が良いと考えられます。

肘関節の前方アプローチの観察肢位は、肘伸展位で手置台などを利用して。なるべく楽な姿勢を取ってもらい行います。肘関節内側側副靭帯の前斜走線維の観察の場合、肘関節を90°程度に屈曲してもらい、内側上顆を触診してプローブを当てて支点として、鉤状突起の側壁の骨隆起を探すように扇形に動かしていきます。この時、第一指の向きに注意して前腕の回内、回外運動、手関節の掌屈、背屈による変化にも併せて注意しながら、観察します。

図 肘関節の観察法 前方アプローチの基本肢位とプローブワーク

図 肘関節の観察法 前方アプローチの基本肢位とプローブワーク

プローブは先端を持ち、薬指小指などを患者さんに触れて、プローブを支える支点をつくります。プローブの接触部分(音響レンズ)を支点にすると、安定しません。

 

 
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