運動器超音波塾【第3回:肩関節の観察法】
運動器の超音波観察法は、健側から行う
運動器の超音波観察に限らず、画像観察の基本は正常像の把握にあります。正常像での解剖学的な認識ができていれば、異常箇所は比較的容易にわかるはずです。日常的にも正常像をたくさん見て、眼を養う訓練が必要です。
また、超音波診断装置は、プローブの幅でしか見る事ができないという欠点があります。使用機器の二画面表示機能(機種によって呼称はいろいろありますが、BBモードも二画面表示機能です)を積極的に活用して、健側・患側と分けて観察すると、画像比較がしやすくなります。
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図 二画面表示機能による表示の例
上腕二頭筋長頭腱の長軸短軸画像の比較
二画面比較機能は、健側・患側、近位・遠位、外側・内側、長軸・短軸、緊張・弛緩など、さまざまな比較に活用してください。
運動器の超音波観察法は、骨などの目印となる形状から観察する
まず解剖の構造を見てみると、大結節と小結節の山の谷間に結節間溝があるのが解ります。その谷の中に上腕二頭筋長頭腱が走行しており、プローブを上腕骨に短軸走査した場合、横断面で観察されることがわかります。
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図 肩関節の解剖
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図 結節間溝と上腕二頭筋長頭腱 健常例 (短軸画像) 左 : 外側、右 : 内側
上記のプローブ走査で、実際に観察される超音波画像です。上腕骨骨頭の大結節と小結節の山を目印にプローブを垂直に当てると、大結節と小結節の間に、結節間溝が観察できます。結節間溝の中にはその間を通る、上腕二頭筋長頭腱の断面が、やや楕円形に観察する事が出来ます。また、小結節側からは肩甲下筋、結節間溝の上を覆うような形で、横靭帯が観察されます。横靭帯の上には、三角筋がひろがっています。解剖学的な位置関係が把握できたら、近位・遠位にプローブを走査して、全体像を把握します。
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図 参考画像 関節水腫と烏口下滑液包内水腫
この観察例の場合、上腕二頭筋長頭腱の周囲に、関節水腫あるいは血腫と考えられる低エコー域が観察されています。併せて、大結節や肩甲下筋の上に見える烏口下滑液包内にも、低エコー域が多く観察されています。このような例の場合、腱板断裂を伴う事が多いとされており*2、注意が必要です。
*2 超音波でわかる運動器疾患 皆川洋至 ㈱メディカルビュー社 より
また、超音波のドプラ機能も併用すると、烏口下滑液包や横靭帯周囲に本来観察されない拡張した血管による炎症の血流を見る事があります。この場合、プローブで強く圧迫してしまうと、水腫も血流反応も見えなくなる事がありますから、圧迫を緩めながらプローブ角度を微調整して観察してください。
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図 参考画像 上腕二頭筋長頭腱の肥厚
この観察例の場合、腱周囲の水腫と共に、上腕二頭筋長頭腱が腫れて正円に近い形に肥大しているのが観察されています。この事により、上腕二頭筋長頭腱は結節間溝の谷に納まりきれず、横靭帯を押し上げている状態であるのが解ります。また、肩甲下筋の上部の烏口下滑液包にもやや低エコー域が観察されています。上腕二頭筋長頭腱の肥大は腱板断裂に伴う所見として知られ、結節間溝上方を中心とした局所肥大であるとされています。*2。
*2 超音波でわかる運動器疾患 皆川洋至 ㈱メディカルビュー社 より
関節鏡所見では、一次性凍結肩と診断された患者さんの,二頭筋長頭腱周辺の滑膜炎や肩甲下筋下滑液包の閉塞,関節容量の減少が観察され、一方、関節窩下の閉塞や関節内癒着はなかった*3との論文もあり、超音波以外の診断装置でも多くのことが解ってきています。
*3 Wiley AM: Arthroscopic appearance of frozen shoulder. Arthroscopy 7: 138-43, 1991.
次に、肩甲下筋腱の観察をしてみましょう。結節間溝の観察位置から小結節を画面中心にするように描出して、患者さんの手首を持って外旋させていきます。上の動画のように、肩甲下筋が引出されるのが解ります。肩甲下筋腱は深層で小結節に付着しており、表層は横靭帯へと移行しています。内部には層状に配列された線維の模様が見え、表面には脂肪の結合織の膜(peribursal fat)が見えます。腱板の断裂の有無や、烏口下滑液包の水腫の貯留、肩甲下筋腱上縁の滑膜に注意をしながら観察をしてください。
動画 肩甲下筋腱の引出し
今回の観察法で大切な事項をまとめると、下記のようになります。
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- 肩関節の観察法の基本肢位は、座位で行う
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- 運動器の超音波観察法は触診の延長であり、触診の答え合わせを解剖学的に行う
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- 運動器の超音波観察法は、健側から行う
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- 二画面比較機能は、健側・患側、近位・遠位、外側・内側、長軸・短軸、緊張・弛緩など、さまざまな比較に活用する
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- 運動器の超音波観察法は、骨などの目印となる形状から観察する
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- 解剖学的な位置関係が把握できたら、近位・遠位あるいは外側・内側にプローブを走査して、全体像を把握する
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- プローブで強く圧迫してしまうと水腫も血流反応も見えなくなる事があり、圧迫を緩めながらプローブ角度を微調整して観察する
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- 結節間溝と上腕二頭筋長頭腱の観察は、関節水腫、長頭腱の肥厚や断裂、烏口下滑液包の水腫に注意する
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- 肩甲下筋腱の観察は、腱板の断裂の有無や、烏口下滑液包の水腫、肩甲下筋腱上縁の滑膜に注意をする
次回は、「上肢編 肩関節の観察法」の続きとして、腱板について、考えてみたいと思います。
情報提供:(株)エス・エス・ビー