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特集
本邦初、柔道整復の大学院が開設される!
―今後の展望・問題点などについて
まず第1に、教育機関としての組み立ての問題です。今回の修士課程開設では高度の医療技術者を育てる事と言う風に考えているわけですが、今後の問題としましては、いずれ近いうちに大学院博士課程をスタートさせたいと考えております。それにより、柔道整復学の新しい医療技術を開発し、学問を作り上げていくような研究者を育てていくようにしなければならないと考えておるところです。
第2に、他の医療技術系の部分との協力関係あるいはスタンスの取り方の問題です。大学の病院のような大きな施設設備をもつ専門性の高い所では、整形外科医は保存療法に興味を示す暇が無いように見えなくもありませんが、実は日本中の整形外科医の半分は開業医です。彼らは外傷については市民に身近な病院として保存的療法も担っているし、場合によってリハビリテーションや訪問医療も行っています。さらに、関連の医療技術集団として、運動療法士(PT)や作業療法士(OT)の職種もあり、彼らは開業権こそ無いが、回復期の患者のケアに特化された医療技術職種として確立され、「コメディカルの重要な一員」として社会からも認知されています。よって、柔道整復師がその学問を発展させていく過程で、これらの職種とどのように向き合って行くか、についても議論の尽きないところです。
第3に、同様の事が、柔道整復師とスポーツ選手の運動器の健康管理を担っているアスレティックトレーナー(AT)との関係についても言えます。ATと柔道整復師の間には、ある程度距離があるようにも見えますが、それはアスレティックトレーナーの患者がスポーツ選手に限られるという特殊事情による訳で、この点を除けば、柔道整復師もアスレティックトレーナーも相互に密接に関係した職種です。柔道整復師とその他の医療技術とのあるべき関係、あるいは柔道整復術と日本の健康保険制度との関係などについても、医療技術分野の全体にわたる統一的な理解については時間をかけて取り組んでいくことになると思われます。
以上の他にも、色々の問題がありうるとは思いますが、現在の段階では、柔道整復術およびその学問である柔道整復学を徹底して追求する中から何が生まれて来るか、これを大学院設置というスリットから、見定めたいと考えているところです。
(文責・編集部)
プロフィール
塩川 光一郎
1963年、九州大学理学部生物学科卒業。1968年、九州大学大学院理学研究科生物学専攻修了(理学博士)。同年、日本学術振興会奨励研究員(九州大学理学部生物学教室)。1969年、武田薬品工業株式会社生物研究所(感染病菌およびウイルス研究部)。1972年、ニューヨーク血液センター研究所(細胞生物学部門)、客員科学者(Visiting Scientist)。1974年、九州大学理学部生物学教室助手。1981年、九州大学理学部生物学教室助教授。1981年、日本動物学会賞。1989年、東京大学理学部動物学教室教授。2001年、東京大学名誉教授。2003年、帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授。2008年、帝京大学医療技術学部柔道整復学科学科長。2003年、中央民族大学(北京)客員教授。2010年、大連医科大学(大連)客員教授。
【所属学会】
日本発生生物学会 日本動物学会 日本分子生物学会 日本細胞生物学会(永久会員) 日本ポリアミン学会(評議員) 日本柔道整復接骨医学会
【専門分野】
分子発生学・細胞生物学・生理学・柔道整復学
【趣味】
福岡OBフィル会員(2nd Vn);九大フィルハーモニー会顧問。
【著書】
実践柔道整復学シリーズ(塩川・宇井・松下監修):塩川光一郎編著『生理学』2010年オーム社。同シリーズ、(塩川・宇井・松下監修):川崎一朗・塩川光一郎編著『柔道整復学総論』2012年オーム社。塩川光一郎著『生命科学を学ぶ人のための大学基礎生物学』2002年共立出版。塩川光一郎著『分子発生学』1990年東京大学出版会。塩川光一郎著『ツメガエル卵の分子生物学』UPバイオロジー・シリーズ1985年東京大学出版会。