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本邦初、柔道整復の大学院が開設される!
―では、その修士課程の教育・研究によって、具体的にどのような知識・能力を持つ人材を養成したら良いと考えておられるのでしょうか、その辺のところを教えてください。
これまでの教育、すなわち学部レベルの教育を振り返ってみると、そこではやはり、いきなり「正しいのはこれだ」という方式で知識を与え、技術を習得させることが多かったといわざるを得ません。それは、どうしても学生を国家試験にパスするレベルにまで押し上げる、そのレベルを達成させることを半ば至上命令のように念頭に置いて教育する、ということになってしまうからです。
ところが、大学院の教育では、「正しいのはこれだ」と教えるのみならず、同時に、「なぜ、そうなのか」にも重点を置いて教育し、学部の卒業者よりも一段上の技術・学問レベルの柔道整復師を世の中に輩出して行きます。それぞれの教科書的な事実がどのような経緯で発見されたか、にまで踏み込んで知識を与える必要があり、そのために、特定の研究テーマで実体験としての研究指導を行いながら、ゼミ(セミナー)を継続して英文の原著論文を読み解き、必要に応じてはグループを組ませて情報の検索・整理などの調査も行わせます。
次に、施術の技術レベルですが、これには施術の技術的な技の意味の堀下げを、実体験の中で教育し直すようにします。「習い覚えた通りに、患者に施術する」のではなく「なぜそうするのがよいか」、さらに、「だから、この患者にはこれが良い」というふうに、医療技術理論と共に個々の患者の生活の特徴を十分考慮に入れた上で、その生活の質(QOL:Quality of Life)を考えながら、患者の特性に合致した(ある意味、オーダーメイドの)施術を行うような、十分な可塑性をもった、柔らかい思考ができるように訓練された柔道整復師を育てる必要があります。また、実際の治療においても、知識面、技術面で治療効果の評価についても、これまでの学部教育に加えて一つ新しい観点としてEBM(evidence-based Medicine)の考え方を学生に指導する必要も感じられるところです。上にも触れましたが、従来の柔道整復の治療方法は、他の伝統医療と同様に、柔道整復師個人の経験と勘に負うところも多かった。しかし医学の分野においては既に、"根拠にもとづいた医療"という考え方でEBMの概念が普及し、臨床の場で客観的に実証された効果に基づいて治療方法が選択されるようになってきています。ですから、それに見合ったような大学院教育を展開する必要があります。そのような教育の中から、倫理問題についても深く考える姿勢を持った柔道整復師を世に輩出し、高齢化社会においても、国民から信頼される柔道整復術を社会に多く根付かせる事が可能となります。当然、修士論文のテーマを与えて、2年間を通年で論文調査、実験、結果の検討会議などを繰り返し、得られた結果を正しく評価・判断して論文として出版する能力、あるいは、そのような他人の論文を批判・吟味する能力、あるいはこれらの情報を自分の治療法に効果的に取り入れる能力などを磨くよう要求します。こうして、定量的な評価のできる学生を育てていきます。
―帝京大学の研究科・専攻等の名称、学位の名称、および定員などについて教えてください。
今回は、既に設立され研究教育活動を展開している帝京大学の大学院医療技術学研究科(英文名:Graduate School of Medical Technology)の中に新たに専攻増設を行いました。その名称は、柔道整復学専攻(英文名:Course of Judo Therapy)であり、ここでは柔道整復学の分野における高度の専門的知識・診療能力をもつ柔道整復師を養成する事から、学位の名称は修士(柔道整復学)(英文名:Master of Judo Therapy)となります。
定員は少し抑えて、6名としておりますが、すでに去る3月10日に入学試験も修了し、丁度6名が大学院1期生として合格しました。これらは、今のところ、ほぼすべてが学部からの進学者と言う状態です。実際、この大学院を開設してみてつくづく思いましたが、柔道整復学科の場合、学部学生の大学院志向のエネルギーにはなかなかのものがあり、頼もしい限りです。ちなみに、今回の柔道整復学専攻の開設がまだ確定していない2011年の夏休み開けには、同じ柔道整復学科の一人の学生が、兼坦の私のバイオサイエンスの大学院の研究室を受験してパスした、と言うような事もあります。
―貴大学院の学問的な意味での特色についても、お願いします。文部科学省としても、一旦柔道整復学専攻設置を認めると、今後は他の大学でも大学院作りが続いて起こる可能性がありますので、開設に際してお考えになった教育・研究の中味に付いても、この機会にやや詳しく教えてください。
柔道整復学は日本独特のものであるので、大学院柔道整復学専攻の型見本は世界にも日本にもまだありません。そのような状況下では、大学院柔道整復学専攻として大学院教育を行う場合、そもそもその中に、柔道整復学に特異的な学問的な研究・教育の領域というものがありうるのかどうかが問題となります。これは、学生にどのようなテーマを与えて研究・教育を行うかという問題でもある訳です。そこで、大学院教育の中で柔道整復学に特化した柔道整復学固有の教育・研究テーマというものは存在するのか、いいかえると柔道整復学を学問としてみた場合に魅力的で大学院教育の雰囲気を醸し出すことのできるような研究・教育テーマはあるのかという問題について、考えつく事を以下に述べてみましょう。
実は、正直なところ、この質問を自問自答しなければならないところが、そもそも柔道整復学を冠した大学院が、今に至るまで全国に1つも無かった事の理由と言えるでしょう。しかし、本気になって、すなわち実際の柔道整復術を正面に据えて、この問題を考え始めるという事にすれば、柔道整復学といえそうな学問的領域もあながち思い浮かばないわけではありません。現在の学部の柔道整復学のカリキュラムを参考にした場合、大学院レベルの柔道整復学分野の研究・教育テーマとして、大まかにマクロの学問分野、およびミクロの学問分野があると思います。それは、臨床柔道整復学的研究分野、および分子細胞組織学的柔道整復学の分野の2つです。