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本邦初、柔道整復の大学院が開設される!

2012/03/16

―これで、大学院柔道整復学専攻の教育はスタートしますが、この機会に学問としての柔道整復学の居場所、あるいは柔道整復学固有の学問体系の確立の見通しなどについて、お聞かせください。

柔道整復学科という名前を冠した4年制の大学レベルの教育が始まって、かれこれ10年近くになりますね。この10年間のことを考えますと、これはあくまでも柔道整復師養成機関として「柔道整復学科」という名前の学科が機能したということであって、そこには早く「学」といえるレベルになりたい、あるいはしたい、という願いが込められているとしても、その事だけで「学」が成り立つわけではありません。現行の「柔道整復学科」の場合、確かに「学」という字は使っていますが、殆どの大学で、柔道整復師を育てる為の柔道整復術の習得とその習得に必要な種々の知識を教える事で手が一杯になり、そこに真にlogosあるいは「学」といえるものがあるのか、という風に問われると、はたと考え込んでしまうのが実情です。柔道整復術が医療技術の一領域として既に確立されている事は大方の認めるところではあっても、「それが一つの学問体系になっているといえるか」ということになると、なかなかはっきりとは答えられません。ですから、正直なところ「柔道整復術の学としての固有の学問大系」は「まだ無い」というのが残念ながら大方の意見として、本当のところである、といわざるを得ない状況です。

医療技術といわれるものの中で、例えば大学院博士課程の中にもその確固たる居場所を持つものとして、看護学を考えてみましょう。これは医学を補佐し補強する医療技術として始まりながら、学問としての看護学を目指して粘り強い努力がなされたから、現在では固有の学問大系をもつサイエンスとして確立されています。ですから、柔道整復学も努力して看護学のような道を辿ることができれば、柔道整復学固有の学問大系の樹立も夢ではなくなると思われるのです。ご承知のように、柔道整復師は手術を行わない非観血的療法によって外傷治療を行う以外には方法が無いわけですから、その柔道整復師の独特の治療の領域において、外傷がどのようにすればよく回復し、その回復のプロセスがどのようなものであるかを突き詰めていくと、それはそれで、一つの新しい研究分野ができあがるのではないかと期待されるのです。

以上から、運動器の外傷の「非観血的療法」という独特の技術論での捉え方、及び、我々の身体の各部分に本来内在している「自然治癒力」という名の自然の法則の最大限の引き出しという姿勢がポイントで、この2つのコードワードで囲まれる部分に、おそらくは柔道整復師の取り扱うべき独自の学問研究体系の最も根源的な拠り所があるということになると考えられます。 。

 

―柔道整復学とは何であるかという究極の問題を先送りするのはある程度仕方ないにしても、現状や現実に対する認識、教育における取り組みは待ったなしのように思いますが、そのあたりをお聞かせください。

我々が患者様と向き合った場合に、相手にしているのは、目の前にある傷を負った組織であり、骨であり、筋肉であり、腱であり、細胞であって、破壊されたそれらをどうやって理屈にかなったやり方で治すか、その一点に興味・関心が集中するわけです。柔道整復学では、その際にこれまで蓄積して来た技術に対して、あまり学問的な裏づけが無いままで来ているので、大学院ではその学問的な裏づけの基になるものを探そうとしている訳ですね。ですから、非観血的療法で、どう施術すると、どういうメカニズムが働いて、どのような経過で患部が元のように治るのか、という現象を理論的に詰めていく、それが大学院の仕事だと考えられます。

それを繰り返している中から、サイエンスの方法論を身につけた大学院卒業生が日本中に増えて来て、日本全体として、柔道整復術のレベルが上がっていくと言う事がまず必要なわけですね。ここに来て、私は実はその大学院での研究を特に「柔道整復学として、それらしいもの」に限って行う、あるいはそれにこだわる必要は、実はあまり無いものと考えております。その周辺の問題であっても、要はscientificな考え方を柔道整復学の分野の学生に与えて、思考の形態が理学や医学や薬学の世界のそれに近づくと、それが次なる柔道整復学の起爆力になると言う考え方をしておるのです。

その大学院で経験し見いだした新しい発見はもちろん積極的に、どんどん学会に発表させるようにします。その大学院での研究結果はあらゆる可能な学会に発表します。つまり、ここでも柔道整復学の学会(例えば、日本で唯一のその本来の学会である日本柔道整復接骨医学会)に限る必要はないと考えておるのです。すなわち、柔道整復学が安定的な形でその方向性を見いだすまでの当分の間は、演題は分子生物学会にも出しますし、発生生物学会や遺伝子学会にも出しますし、生理学会にも動物学会にも出しますし、解剖学会や整形外科学会にも、出せる内容のものは出して行くべきだと思います。学問というのは本来そういうものだ、ある限られた領域内に閉じ込められるものでもないのだ、という事を若い柔道整復師の卵たちに経験させる事が、「今は一番」大事だと考えております。

大学院教育をスタートしたからと言って、また、教育は待ったなしだからといって、別に慌てる必要も無いし、急ぐ必要も無い。また、その大学院の成果を現実の町の中での施術に急いでフィードバックする必要はありませんし、また今すぐは望んでもなかなかできません。しかし、時間をかければ、大学院教育の成果は必ず浸透していきます。真理の発見が次々になされれば、それが専門誌に掲載され、一定の時間のなかで、次第に町の開業の柔道整復師にまで浸透し、最後は世界中に伝わるのです。ですから、大学院の高等教育は待ったなしで始めていくわけですが、ゆっくりと余裕を持って、将来を担う柔道整復師の指導的な立場に立てそうな若者を増やし続けるだけだ、と言う考え方をしておるわけです。

 

―博士前期課程(修士課程)の開設のみを行われたわけですが、これはやはり、段階を踏んでということなのでしょうか。

はい、その通りです。柔道整復術を医学領域(あるいは、コメディカルもしくはパラメディカルの領域)の中の1つの重要な医療技術として定着させ、他の医療分野、特に整形外科・外科領域の医師と共同態勢で患者を治して行くことができるようにするには、最終的には、やはり博士課程までの教育が必要です。しかし、日本には柔道整復学の大学院教育機関が全く無く、従って、その適正な運営のためにはどのようなことが必要かについても、そのすべてが予想できる状況でもありません。柔道整復学の大学院運営のノウハウが今のところ全く無い状況ですから、順序を踏んで大学院の前期課程である修士課程の教育を構築していく訳です。