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本邦初、柔道整復の大学院が開設される!
2012年4月、いよいよ帝京大学(大学院医療技術学研究科)と姉妹校である帝京平成大学(大学院健康科学研究科)の2校に柔道整復の大学院が開設されることになった。
悲願であった柔整4年制大学が2004年に明治鍼灸大学(2008年に明治国際医療大学に名称変更)に柔道整復科として誕生、その後次々と開学され、2008年には帝京大学も総合大学としてははじめて柔道整復学科を開設したことは周知の通りである。そういった柔道整復師の高等教育体制の構築が進む中、大学院の開設を待ち望む声は大きかった。柔道整復師に学問がないと言われだしてから、日本柔道整復師会(萩原 正会長)が「学の構築プロジェクト」を立ち上げ完成させるまでに費やした年数は約4年、現在富山大学大学院にも柔道整復学寄付講座が置かれ、間もなく研究成果が報告されると言われているところである。多くの研究データが集積され、体系化されていくことになる。
そのトップランナーである帝京大学の塩川教授に今後の流れと展望を解説していただいた。
細胞の気持がわかる柔道整復師を世の中に送り出したいというプリンシプルは、一貫しています!
帝京大学医療技術学部柔道整復学科 学科長・教授
同理工学部バイオサイエンス学科 教授(兼坦)
塩川 光一郎 氏
―大学院開設おめでとうございます。大学院(柔道整復学専攻)設置の趣旨(理念)と目的についてお聞かせください。
本大学院の理念というのは、柔道整復接骨医学の分野における高度な専門的知識・能力をもち医療技術の世界に於ける原因結果論に基づく分析的な思考能力を磨いた高度の専門職業人の養成を行うと共に、我が国の伝統医学に基づく固有の柔道整復学の確立とその医療技術及び理論の質の向上に寄与し、社会に貢献する人材を輩出することです。
これからはかつてない高齢化社会に突入し、高齢者の転倒による骨折などのケガも増加すると思われますし、学童や生徒が病気の時に学校の保健室に駆け込むように、柔道整復師の接骨院は運動器の外傷患者が駆け込む「町の中の」保健室(この“保健室”と言う例えは私どものところの宮坂卓治准教授の表現なんですが)としてその存在価値は高まっていくことになります。では、その養成機関から輩出される学部卒業の柔道整復師の医療技術者としての社会からの評価はどのようなものかと問われれば、非常に残念な事ですが必ずしも今のままで十分とはいえない状況にあると思います。
現在、柔道整復師の会合があるたびに、彼ら自身の口から語られる問題の一つとして、昨今の柔道整復師の質の低下があることは否めません。患者が骨折やアキレス腱の断裂で接骨院を訪れた時に、自信を持って治療に当たる柔道整復師が次第に減少し、整形外科医に患者を任せる柔道整復師が多くなっているということを耳にします。この様に骨折や脱臼を自信を持って療治できない柔道整復師の増加があるという事は、養成学校の実力の低下や国家試験の免許を取得してからの実技訓練の場の弱体化というよりは、学生の勉強意欲の低下あるいは少子化の世の中だから生ずる難しい事情を反映したものと思いますが、どちらにしてもこのままではいけません。
このような状況から、柔道整復学の分野においても学部レベルに留まらずより高度な教育を、例えば「大学院柔道整復学専攻」のようなしかるべきかたちの教育機関で更なる教育を行って行かなければならないと考えます。
―2004年に念願の大学ができて、2012年には修士課程だけとはいえ、とうとう最終目標である大学院の開設が認められることになった訳ですが、改めて大学院の必要性についてお聞かせください。
柔道整復において学問をしっかりと展開しなければ、ただの技術で終わってしまうことになります。その技術も、これまではずっと口承で伝えられ、秘伝として代々受け継がれてきた面もあったとされております。しかし、大学院が出来たことにより、少し流れが変わると思います。これまで職人芸に近い所もある専門技術とされてきたものを学問的に研究し、科学的な検証を行い、広く治療に活用できるように役立てていく必要があります。つまり、「術」から「学」へという流れ・変化をまき起こす事が必要ですが、そのためには「どうしても大学院が必要」となるわけです。
またよく言われるところの研究者"養成か"高度の専門的職業人"養成かについてですが、これは、大学院教育を行うに当たって「研究者養成」と「高度の専門的職業人養成」の2つに分けて考えてみた場合、当面、いずれに重点を置くかという問題であります。そもそも、柔道整復師の知識・技術水準はこれは国家資格であるので、当然のことながら国家事業として全国で高く評価され、世間から信頼されて治療をまかされるようであらねばならないと考えます。このような観点からすると、当面重要なのは、市民の間に入って、信頼できる治療を与える事のできる、高度の専門的知識と技術を持った柔道整復師の養成が第一のねらいと言えるでしょう。よって、将来の課題として「研究者養成」も当然重要ですが、今回の大学院開設の当面の目的は「高度の専門的職業人」の養成にあるとし、そのためまず修士課程の開設を目指したわけです。
この柔道整復師の大学院教育は、国家試験免許取得済みのものに限って行う事になっておりまして、この点にもこの大学院の特徴があります。例えば、臨床柔道整復学実習についていえば、学部教育では学生は患者の外傷に対してあくまでも見学するだけであり実際に治療に関与することは許されません。ところが、柔道整復学の大学院では、学生は既に柔道整復師であるので教員である柔道整復師とともに患者の患部に実際に触りながら(施術を行いながら)教育を受けて行くことが可能です。ですから、柔道整復師の大学院教育の持つ技術的な面での教育効果のインパクトは他の大学院のそれよりもかなり高いものがある訳です。従って、その分、柔道整復学における大学院教育の持つ意味は大きいと言えるでしょう。柔道整復師の為の大学院の開設は、日本の柔道整復師自身の将来と、彼らに依存する外傷患者の効果的な救済の両方の為に、通常の大学院教育の場の開設より遥かに効率的な教育環境の設定になると思われます。