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神戸大学医学部附属病院医療情報部・高岡准教授にインタビュー

2012/10/16

―やはり高岡先生はシンポジウムの中でキーワードとして「プライマリケア」をあげられましたが、プライマリケアを行うにも日本の現在の医療制度上では、国民に認知してもらうことが難しいように感じます。高岡先生は日本の現在の医療制度をどのように思われていますか?

制度を作るには、国民の各層から声が上がらないと難しいでしょう。ここで重要なのは、われわれ業界から言うことではなく、患者団体みたいなところから声をあげてもらうことです。難病の場合は、患者会があって治療費や新薬について、患者さん達がまとまって陳情に行きます。制度にするためには、必要性について国民から言っていただくこと、もちろん伝統医療関係者が一致団結してタッグを組めなくちゃいけない。それには、存在感が必要です。だから関係者は生涯学習のような形で常に勉強して、底上げをしていく。例えば、実質的にプライマリケア相当のことが出来ていることで、地域の人から評価をしてもらう。そういった流れを作るしかないと思います。

ところで将来は、医師が歯科医師のように余る時代が来るかもしれません。未来のことは、3分の1くらいはなんとなく分るけれど、残り3分の2は分らないものです。ですから医療制度についてのコメントは、非常に難しいですね。加えて、私の場合は大きな病院(神大病院)の企画経営部門である医療情報部に配置替えになり、その結果中に入らないと分からないことが色々と理解出来たというのが正直なところです。考える前提が、以前とは全く変わりました。これを上手く伝えるのは、私一人では難しい。柔整大学や鍼灸大学出身者の中から、私のような人材が沢山輩出されて欲しい。そうすれば、みんなで上手く伝えることが出来ると思います。あえて言うなら、病院の中からみていて思うのはアメリカの制度よりも、問題はあるにせよ、日本の医療制度は普通の患者にとってみれば断然に良いということです。

 

―柔道整復の今後、あるいは将来についてさまざまな研究活動は必要だと思いますが、現在の柔道整復の状況は、患者を除くと、既に保険者の一部からは、医療内容に対する信用を失っている側面もあります。現在の状況の中で、柔道整復の能力を医学的にどう評価し示せるのか、アピールできるのか、それとも将来の研究結果を待たないと無理であり現状では示せないのか、先生のお考えをお聞かせください。

レセプトが認められずに戻ってくるのは、病院でも一緒です。要件を満たさないと、当然のことですが、支払われません。学問的にきちんと説明出来て、納得していただくように日頃から取り組んでおくことが重要かと思います。それこそ柔整大学があるのですから、説得力のある答えが出てくる状況に変わっていって欲しいと思います。基礎研究と臨床研究が連続した形でやっていくのですが、柔整だと解剖中心の人が多い印象を受けています。解剖のような形態学の研究に加えて、先日のシンポジウムでも取り組まれつつあった分子生物学や分子生理学研究なんかも取り組まれると良いでしょう。多角的な検証が可能になりますから。それが、最終的に信用に繋がると思います。ですから基礎研究も臨床研究も両方ともキチンとやっていって欲しいと私は思います。そして、誠実に良い結果を出していくということが重要です。

 

―現在でも医学分野で活躍する柔道整復師もおりますが、柔道整復学として進んでいないように感じます。つまり医学を追求することと、柔道整復を追及することには、多少、噛み合わない部分があると感じます。その橋渡し、あるいは違う部分、そのことについて先生のお考えがありましたらお聞かせください。

医学と医療の問題といえるかもしれません。柔道整復を追及する一方、医学というか柔整の科学、科学としての根拠を求めていくという姿勢は必要と思います。今は、その求める場所が形態学であったり分子医学であったりするのですが、柔整大学が出来たばっかりなので、今後基礎から臨床への学問の連続性を埋める人材が出てくるところだと思うのです。結局、時間かけて徐々に進展させていくしかないですから、柔道整復の中からそういった先生が多く出てきてほしいと期待します。そうすれば、自然に柔道整復学が学問として進展するはずです。

 

―高岡先生はこれまでナノテク関連の研究成果を特許として出願され、更にナノバイオの国際出願もされ、また酵素の抱合能をシミュレーション算出する数式の特許、自動点訳サーバの点訳精度は日本最高レベルに達しているとしてNHK全国放送の「おはよう日本」で紹介される等、数々の研究成果と国際的な学会賞に輝かれておられます。いま高岡先生が取り組まれている研究について解り易くご説明ください。

私の研究テーマは3つあります。

まず、病院での視覚障害者の情報保障の支援システムの研究開発に取り組んでいます。自動で点字に翻訳するソフトeBrailleを開発しており、これは2009年度ひょうごグッドデザインに選定されユニバーサルデザイン賞を受賞しました。加えて、2010年度のグッドデザイン賞にも選ばれました。

次は、酵素変異体の薬物代謝活性推定に向けた分子シミュレーション研究では、薬の副作用をコンピュータシュミレーションにより計算機で予測するもので、2009年の国際バイオインフォマティクス学会で優秀ポスター発表賞を受賞しました。

最後は、鍼刺激による骨格筋修復・再生機構のゲノム生理学的解析を行っており、鍼通電刺激は骨格筋幹細胞を活性化し、サルコペニア治療に有効という結果を得ています。この研究では、日本温泉気候物理医学会の2011年度優秀論文賞を受賞しました。