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神戸大学医学部附属病院医療情報部・高岡准教授にインタビュー

2012/10/16

―医学研究費の中の申請枠に「鍼灸」「柔整」のキーワードは存在せず、鍼灸大学が出来てから約30年経った今も申請枠は無い。鍼灸や柔道整復師等の大学を卒業した人たちからも国立大学医学部の教授や厚労省のキャリア官僚になる人が毎年一人ぐらい出ないと何も変わらないのではないかと言われましたが、どのような意味で大事なのかご説明ください。

これは、科学研究費補助金(科研費)のことです。基礎科学、人文社会学も含めて全学問領域に対して交付される、研究費のことです。残念なことですが、「鍼灸」や「柔整」は分科・細目のキーワードに入っていません。唯一、内科系臨床医学・内科学一般(含心身医学)のキーワードの中に東洋医学があります。

ここで一例を挙げてみたいと思います。昭和41年に管理栄養士養成課程として徳島大学医学部栄養学科が出来ました。現在では科研費で栄養学関連の選択肢はちゃんとあります。私は大学院修士課程で徳島大学大学院栄養学研究科を修了したので知っているのですが、卒業生から厚生官僚になられた方々がおられますし、基礎医学研究者として高名な先生も多数輩出しています。医学部医学科の教授はもちろん、栄養学関連の大学の先生になっておられる方が多いのです。これらが、例えば鍼灸の場合と違うところです。そして、分科・細目に無い。このことは、学問としての存在意義が国から認められているとは言い難い事を意味しています。柔整の今後はどうでしょうか?鍼灸よりも先に認めさせるという気持ちで取り組んで欲しいと思います。

 

―医療に限らず、ヒエラルキーが厳然と存在すると思います。講演で高岡先生は〝序列というのは残念ながら日本国にはあります。世の中それで動いています。鍼灸の専門学校3年分の学習内容は医学部1年分にすぎず、鍼灸大学の4年分は医学部の2~3年分くらいでしょう。医師は生涯学習のような取り組み方で学習を継続する環境になっています〟と話されていらっしゃいますが、やはり柔整は近年大学ができるまで専門学校3年間の勉強でした。もし医師に追いつこうとすれば、どういった勉強が大事でしょうか?

医師に追いつくという意味によるでしょうが、教育の大学化は一つの答えです。医療現場では、看護師養成課程が基本的に大学になりました。薬剤師は6年制になり、修業年限が医学科と同じになりました。本院でも、看護師さんは大学院に入って学位を取ろうとしていますし、こういうことに個人というよりも業界として取り組んでいるような印象を受けます。看護師さん達は、全体の方針を決めたら一致団結するのがすごいと思います。鍼灸と比較すると柔整業界は統率がとれていますよね?だったら、医師に追いつくのではなく、柔整という新しいカテゴリーを作って存在感をだしたらどうでしょう?

私の危惧は、鍼灸とか柔整の大学に来る学生さんの学力です。現状では、これらの大学の多くは全入(受験すれば必ず合格する)に近い状態になっているのではないでしょうか?医学部に進学する学生さんは学力が高いです。そういう現実があるので、入ってから相当頑張らないと簡単に追いつけるとは思えません。18歳の段階で知識に差がついているのですから、戦略的に取り組まないと短期間で追いつくことなんて不可能に近いと思いませんか?知識だけでは決まりませんが、知識がないと何ともならないのは明らかです。

優秀な人が伝統医学の世界に入ってくるようなシステムが必要ですし、柔整の養成学校を全部大学にしたほうが良いかもしれません。あくまで私見ですが、せめて医療技術短大の3年制に衣替えをしなければ、と思います。看護師養成は今そうなっています。その上、生涯教育のシステムもあり、これらによって業界全体が上げ潮になっているように見えます。私は柔整業界のことをよく知っている訳ではありませんが、恐らくやろうとしている方や考えている方がおられることでしょう。そういった皆さんが、今後何かされていくことが、一番期待できるところなのかなと思います。

 

―また高岡先生は〝1番重要なのは正確な情報です。何事をやるにおいても、正確な情報を必ず手に入れることを忘れないようにしてください。情報を持っていること、知識を持っていること、両方を使いこなせることが力を持つことになるということを知っておいてください〟とのことでしたが、もう少し詳しくご説明ください。 

結局、正確に知っていないと本当のところは分らない。なんとなく思っていた常識が間違っていたということがよくあります。例えば新聞記事なども、本当かどうかを疑ってかかります。新聞取材を受けて記事になったことがありますが、言ったことと違うニュアンスで載ってしまうことだってありました。記事には文字数制限があるし悪気はないでしょうから、仕方がないとは思いますが…。これも、知識であり、判断材料を形成します。正しい判断は、成功を導くものです。

 

―高岡先生は鍼灸に較べて、最近大学が出来た柔道整復に可能性があると思われると言われました。しかしながら鍼灸のほうが世界的にも研究が進み、EBMがしっかり確立されてきているため可能性が大であると思っている人が圧倒的多数です。もう少し、柔道整復の可能性について、鍼灸と比較してどんな可能性があるのかについて教えてください。

鍼灸大学の功罪というと語弊があるかもしれませんが、柔整は鍼灸で上手くいかなかった部分を知ることで事前に失敗を回避できるので、それで私はこれで良かったのではないですかと申し上げました。柔整に限らず鍼灸もそうですが、社会の仕組みに通じている人がちゃんと業界団体の中に居るはずです。ところで例の裁判の後に、割に簡単に専門学校が認可されるようになってしまって、えらいことになっていますよね。現状は有資格者の粗製乱造といったら言い過ぎかもしれませんが、この結果鍼灸と柔整が衰退するのではないかと、私は危惧しています。

これは、大学が大量に出来たために大学生のレベルが下がって、勉強が出来ない学生が多いことを肌で感じて思っていることと同様です。私立大学の4割が定員割れ常態化していますが、2018年からは更に大学生の数が減ります。10年間で5万人減ると言われています。一部の学校を除いて、全入に近い状態になっている鍼灸と柔整の大学が2018年以降も優秀な学生を引きつけるものを示せるか、が生き残りのポイントになるでしょう。今は小康状態ですが、鍼灸や柔整の未来の可能性以前にそれらの大学の生き残りが出来るかどうかというしゃれにもならない事態が現実化するかもしれないのです。我々は、このことに留意すべきです。

それから、鍼灸の研究が進んでいるといっても、まだまだ一部分に過ぎません。これからの努力で、柔整は簡単に追いつけると思います。私は先日のシンポジウムに参加させていただいて、柔整の先生方の基礎研究への真摯な取り組みを拝見して、そう確信しました。それはこれまで柔整大学が存在しなかったゆえに、医学部に行って指導を受けてきちんと取り組んできたからでしょう。