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社会保障審議会医療保険部会委員・樋口恵子氏にインタビュー!
―賢い政策だと思いますが、そういう風に樋口先生たちが変えようとされても日本の場合、そう簡単にはいかないのでは?
簡単にはいきません。我が国の場合、男は仕事、女は家事・育児の役割分業によって、高度経済成長をやってのけちゃった訳です。その成功体験があったために中々変わることが出来なかった。しかしここへ来て行き詰ってしまった。他国は性別分業の成功体験が無かったことと、もともと女性の社会的地位は高かったにもかかわらず個人主義ですから、家庭での金銭的支配力が無かった。お蔭で、所謂ウーマンリブが盛んでした。そのお蔭で職場での女性進出が早く進み、1980年代から90年代には殆ど完結し、日本よりも20年早く雇用平等法が成立し、職場での平等が成立していた訳です。ところが日本は成功体験があるが故に変えずにきて、これが日本型の良い特徴であるなど言い、また楽なほうを選ぶ女性も悪い。夫が仮に40万円の給料であれば、お小遣いは1割と数万渡して、自分はパートの収入を全部小遣いにするとしたらそんな良いことはありません。それこそ男性がこんなバカバカしいことはないというのもある程度無理はないと思います。性別役割分業のお蔭で、職場社会は男の単一社会です。それでは良いアイディアも生まれないし、ふと気が付いたら日本の経済は世界の経済に半周遅れてしまっていて、グローバリゼーションについていけない。それに一番早く気が付いたのがやはり競争社会にさらされる企業の経営者達です。女性の労働環境を何とか変えないとということです。意外に政治家は気が付かない。競争が激しいと言っても井の中の蛙の競争で選挙区の中でどっちが勝つかの競争、或いは議員になってしまうと議員の中で誰が目立つかの競争、コップの中の競争でしかない。そこにいくと会社の経営者たちはグローバルな、生身の競争をしている訳です。そこで、女性がこのままでは日本経済は救われないという事になって、10年前から少しずつ動きがあり、5年位前から顕著になって、私はそこに係れたことを非常にラッキーであると思っています。4年前からIBM出身の内永ゆか子さんが始めたんですが、要するに女性の登用を競い合うグループJ-winを作りました。50社位がエントリーして毎年10社ほど選んで最高賞と準大賞などを決めます。その審査委員長をこの4年務めています。ほんの10年くらいの動きですが、みんな気がついてやりだした。といっても、まだまだ少ないところで躍起になっているのですが、例えば三菱東京UFJは、日本の最大級のメガバンクです。500位ある支店の内1割は女の支店長です。最初はデパート、化粧品会社が変わり、次に大きな人材を採用する金融業界、銀行、損保、生保、証券等が大きく変わっています。今年の大賞は三菱東京で、準大賞は日産自動車に決まりましたが、エンドユーザーに女性の顔の見える業態です。
そして遂に今年の6月22日、私達が30年間言い続けてきたことを政権が、『女性の活躍促進による経済活性化行動計画』を打ち出しました。「働くなでしこ大作戦」というサブタイトルにはちょっと笑ってしまったんですが、これは総理大臣をトップに国家戦略大臣、厚生労働大臣等々の閣僚等で実現していく運びになりました。何故このようなものが出来たかというと、一つは日本経団連の研究会が「日本の経済の未来が危うい」という報告を出して、その中で女性の活用がないからだという事を指摘しています。このままいくと日本は30年後には凋落して1位中国、2位米国。しかし女性を欧米並みに、他の先進国並みに活用すると10位以内にとどまれるかもしれないというのを出されました。また経済同友会もこれに近い提言書を出しています。日本の政治は財界に弱いのでその2つが出てきたからやっと動いたのです。やはり世の中動いているんです。
(文責・編集部)
プロフィール
樋口 恵子
1932(昭和7)年東京都生まれ。東京大学文学部美学美術史学科卒業。時事通信社、学研、キャノンを経て評論活動に入る。東京家政大学名誉教授。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長。著書に『祖母力』(新水社)、『私の老い構え』(文化出版局)、『対談・家族探究』(中央法規出版)、『チャレンジ』(グラフ社)、『老い方の上手な人 下手な人』『生き上手は老い上手』(以上、海竜社)、共著に『70代三人娘、元気の秘訣』(講談社)、『家族のケア 家族へのケア』(岩波書店)、『女一生の働き方 貧乏ばあさんから働くハッピーばあさんへ』(海竜社)、など多数。