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社会保障審議会医療保険部会委員・樋口恵子氏にインタビュー!

2012/08/01

樋口恵子さんを知らない国民はいないと言っても過言ではない。これまで女性問題と高齢者問題をテーマに世界的に活躍されてきた人物である。
1982年にNPO法人「高齢社会をよくする女性の会」を発足させた樋口先生は、2000年に初めて創設された介護保険制度に大きな尽力をされた。
介護保険制度がスタートしてから12年が経った。樋口先生にとって今の介護保険制度は理想の姿に近づいたのであろうか?
また、樋口先生は社会保障審議会医療保険部会の委員も務められている。
今なお走り続ける樋口先生に日本の将来をお聞きした。

 

『超高齢化社会を上手く乗り越えるのは、国民の健康に対する意識改革と努力が一番の基本です!』

NPO法人 高齢社会をよくする女性の会 理事長
東京家政大学名誉教授  樋口 恵子 氏

―世界の中で日本が最も早く超高齢化社会を迎えることになり、それをどのように乗り越えていくべきかの模索が続いていると思われます。これから日本国民はどのようにして健康生活を維持し、長寿社会を存続させるべきでしょうか?

私は、これから大介護時代がやってくると言っているのですけれども、介護保険の介護報酬は発足時に3兆円であったものが今や8兆円に達しています。しかも医療費39兆円の内6割が高齢者の医療費です。という様にこの超高齢化社会は高齢者の医療と介護を日本の社会全体が担い切れるかどうかという境目に今立たされております。勿論いくつもの解決方法があると思いますし、正解は一つではなく複合的であり、私はこの頃総力戦と呼んでいるのですが、社会のあらゆる側面からそれぞれの総力を挙げて行かなければなりません。その幾つもの正解の内の最も基本となるものは高齢化して行く本人自身の健康度をアップすることだと思います。加齢による心身の衰えとそれに続く死、これは避けられないものです。だからこそ健康寿命を長くしていく、或いは健康とまで言えなくても自分の身の回りのことぐらいは出来る時間を長くして行くことが大事です。解答は複数あると思いますが、一番基本となる解答は、老いていく人が出来る限り健康を保つことです。これが正解の最も基本であり、しかも絶対的なものだと考えます。このことは私自身70歳から80歳になる10年間で特に強く感じてきたことです。60代で介護保険制度の創立に係った頃は、人はいつか必ず要介護になるのだから、要介護になった時の準備をしておけば良い、そのための介護保険であると思っていました。介護予防等について60代の私は少し冷淡だったと思います。予防をしたところで必ず要介護になるんだからその時期を延ばすだけと思っていたのです。ですが今になってみると時期を延ばす事がもの凄く重大な意味を持つことが分りました。つまり最後の10年間要介護になるか、最後の1年間要介護になるかで国家予算は10倍違ってくるし、本人のQOLも大きく違うのです。

生き方はある程度選べますし、死に方も一定程度は選べるとは思います。ただし、その人が長期療養をするかしないかという未来は、本当に解りません。健康を保つように努力する人とそうでない人では大きく違いが出るのは当然でしょう。今の消費税値上げ論議に至るようなプロセスの中で、健康というのは社会の目に見えないものと以前思っていましたが、実は非常に目に見える国の大切な資源です。健康であれば国の出費も減りますし個人の出費も少なくて済みます。特に女性は65歳以上の高齢者で6割を占めます。80歳に段階を上げると7割以上を占めます。つまり、高齢になってお金のかかる時期になればなるほど、女性のほうが寿命が長いため女性の比率が大きくなります。従って、多数派の女性が健康を保持する時間が長ければ、その分だけ社会が豊かになるということなんですね。そして100歳を超えますと女性対男性の比率は9対1です。そこまで対比で差があるのに、男性には日野原重明先生という素晴らしい方がいらっしゃる。でも女性には、かつてきんさんぎんさんがいらしたけれど、日野原さんのように現役で活躍されている100歳の高齢者は殆どいらっしゃらない。というのも、我が国において高齢の女性の多くは骨粗鬆症等で身体的自由が利かなくなっている人が多い。100歳老人の女性元気版を作るというのは今後の課題です。人数は圧倒的に女性が多いにもかかわらず100歳の男女健康寿命の格差、勿論寿命は女性のほうが長いし健康寿命も女性のほうが長いんですが、寿命に対して健康寿命の比率は男性のほうが大きいんです。日本の健康寿命は女性は73.62歳、男性は70.42歳です。要するに平均寿命の差は7年もあるのに、健康寿命の差は4年ぐらいしかないという事です。その理由について私流に言えば男女差別で、1911年(明治44年~45年)生まれの100歳老人のデータでは、女性は嫁に行くだけで教育程度も低く、学歴も男性に比べて低く、かがんだ姿勢でする労働ばかりで、昔の高齢女性は腰が曲がっているのが当たり前という時代でした。

近年、私が力説をしているのは日本のおばあさんは貧乏であり、貧乏ばあさんから脱出をしなければいけないと。先日、7月5~6日に中国で開かれた国連ESCAP国際会議に招聘され、シンポジウムでそういう話をしてきました。従って結論として、女性は社会に進出することもなく、自分自身の年金も少ない。因みに所得と健康との関係は非常に明確です。特に女性は就労の機会が乏しく貧乏になりやすい。その上、社会的活動をするチャンスが少ない。それらが要因として大きいでしょう。現在においても、また今後もそういう傾向が多分にありますし、女性は一家の健康の守り手であるという事が重要視され、子供に十分な栄養を与え、夫の健康管理を気遣いながら自らの健康に注意をはらうような教育は殆どされてこなかった。主婦、母親、自身のことは二の次、三の次でした。女性は家族の健康のために尽くすことは知っていても、自らの健康を守るチャンスに恵まれなかった訳です。

今から14年前、大塚の癌研で乳癌の手術をしましたが、その頃一緒に入院をしていた若奥さん達にお母さんと言って慕われている近郊の旧家の優しい奥さんがいました。その方は認知症の徘徊等で大変な夫の親を抱えていらして、胸にしこりがある事がわかっていたけれど、介護を替わってくれる人がいなく手遅れになってから病院に行かれ、丁度、介護保険成立の年に亡くなられました。私はその時にどんなことをしてでも介護保険を作らなければと思いました。変な話ですが、こういった事が二度と起こらないように神様のお引き合わせだと思いました。

 

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