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社会保障審議会医療保険部会委員・樋口恵子氏にインタビュー!

2012/08/01

―いま財政難だという事は国民に浸透しています。その中で長寿社会をちゃんと今のままの形で持続できるようにするためにはどうしたらよいとお考えですか。

健康を保持して出来るだけ医療費を使わないようにすることが一番重要です。介護保険が出来て以来、様々な事が分かってきました。要介護者の男女別要因というのが明らかになり、男性は6割位が血管性の疾患、女性もそれが1位ですが、上位の骨粗鬆症と関節炎等の骨関係を合わせると寧ろ1位の血管性の疾患より高いくらいです。男性は血管、女性は骨に因るということが非常にはっきりしましたので、健康対策も男性は主にメタボ対策、女性は主に骨・筋肉対策です。医学が進歩したお蔭で原因が解明されてきたのですから、やはり何らかの鍛え方が必要ですし、私はサプリメントにしても効くのであれば良いと思います。さきほども女性の泣き所である骨、圧迫骨折を2ヶ所して身長が5センチ縮んだ83歳の女性に会ったばかりです。転倒防止の訓練や知識が必要だと思います。骨格、筋肉を鍛え、維持するというための方法論がもっともっといっぱい出来て欲しいと思います。

 

―現在、接骨院の先生達というのは介護保険で機能訓練指導員をやれるようになっていまして、老健施設等で機能訓練指導員として働いています。福祉専門職の方にはリハビリ的な事を行うのは難しいと思います。こういった専門的な接骨院の先生達がもっと活躍していただけるようになると元気な高齢者が増えると思いますが。

これから国の健康政策も医療費節減のためと言い切ってしまうと少し気の毒な部分もありますが、介護予防、病気予防に力を入れていきますから柔道整復師の方達が介護の施設等で機能訓練指導を行っていただくことは、とても良いことではないでしょうか。そういう医療従事者の方々の協力はとても心強いと思います。

 

―貧しい者こそ、病気になります。病気になっても医療が受けられない社会になりつつあるのではないかと危機感を募らせております。健康保険非加入者の増加や生活保護受給者の問題も気になります。樋口恵子先生の福祉・医療に対する基本的な考え方についてお聞かせください。

この質問は一部あたっていないように思います。生活保護の方は医療補助に恵まれていますから。生活保護を受ける以前の方が大変な問題なのです。というのは、生活保護受給者の6割は高齢者で、やはり女の人が貧乏だから女性の比率が大きい。ただし大きいけれど女性の数はもっともっと多いから、必ずしも女性の生活保護率が高い訳では決してありません。年金月額3・4万円で暮らしている女性が多く、医療にもかかれない、保険料も支払えない、証明書を発行してもらって初めて病院にいけるといったことで、それは本当に大きな問題です。つまり、医療というのは人権の問題ですから医療に関してだけは別の制度を作ったほうが良いのではないかと思います。あえて言えば、私達が何でこんなに介護保険の問題に一生懸命になったのかというと、当時は家族という名の介護者の内、第1位が嫁でした。嫁であろうと娘であろうと妻であろうと、とにかく9割が女性でした。私達が家族調査を行った時に一番胸を痛めたのは、自分も病気を抱えていて、例えば白内障が進んでこのままだと失明しそうだけれども、その頃はまだ日帰り手術がなく一泊しなければならなかった。その一泊の時間がどうしてもとれない。介護保険がないから誰かに来てもらう制度もなかった。〝私はこのまま失明しなければならないんでしょうか〟というアンケート結果が上がってくる。介護に追われて、自分自身の病気の受診が出来ないというのが一番大きな問題でした。経済問題がなくてもそういうことがある。金があっても医者にかかれないのは女性でしたし、今、金がないからかかれないのも女性が多いということで、それは続いているのです。介護や子育て、家事などで正規の職を持てなかった。勤めてもパートといった形でしか働くことが出来なかった。そういった理由により女性は年をとっても貧乏な訳です。〝女の貧乏が世代を超える〟ということで循環しているのです。

 

―日本の医療制度は、世界から高く評価されております。日本の医療制度について樋口先生のお考えをお聞かせ下さい。

国民皆保険であり、世界で稀に見るアクセスの自由さを持つ日本の医療制度を誇りといたしております。こんな国は他にありません。介護とか保育サービスとなると先進国の中にはもっとすぐれた国がありますが、医療に関しては日本は中負担・高福祉だと思います。こんなにアクセスがよくて、医療サービスに貧富の差もない。患者が金持ちか貧乏かによって手術に手加減を加えるような医者は一人もおりません。医療は日本の誇りだと思います。私は出来るだけこの制度を守りたいと思っていますし、混合診療を導入するとそれこそ格差を生むことになります。歯科が混合診療ですが、歯は身体のごく一部分です。やはり私は今の医療保険制度の在り方を日本の誇りとして、何としてでも守っていきたい。オバマ大統領がどんなに頑張ってもやっと6割という状況です。私は日本にいる幸せを国民全体が感じて享受して欲しいと思っています。しかしながら、医療費がもうじき国民の税収に迫る勢いで、税収が40数兆円で、現在の医療費は39兆円になっています。1年間の国民の税収に迫る医療費をこのまま放置して良いとは思えません。ですから、どこかで節約していくことも考えるべきでしょう。今、私達のNPOは高齢者の終末期の胃ろうなど、口から食べられなくなった時の延命的治療に疑問を抱いて勉強会を行っています。いろいろな問題がある中で、大事なことは医療費窓口負担が安く済んでいるのは誰のお蔭でもなく、他の誰かが負担しているんだという事を考えなければいけません。天から降ってきている訳ではないのです。これを言うと医療提供者側は怒るけれど、やはり私は自制すべきだと思いますし、趣味で病院に行ってはいけません。