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スペシャルインタビュー:
(一財)保険療養費審査等受託機構 副理事長 伊藤義徳氏

2018/06/01

昨年7月に設立された一般財団法人保険療養費審査等受託機構。
財団の副理事長に就任された伊藤義徳氏は、かつて日鐵住金溶接工業健保の常務理事を務めていた方であり、被保険者への健康事業の取組みで大きな効果を上げ、ひいては国民の健康に大きく貢献した方である。その伊藤氏が何故財団の副理事長を務めるに至ったのか?健康保険組合の真の役割、本来の役割とは何であるのか?そしてまた柔道整復師の社会的存在の意義とは何かについて話して頂いた。

伊藤 義徳 氏

(一財)
保険療養費審査等受託機構
伊藤 義徳 氏

 

 

当財団の本質的な役割は、柔整療養費の一定の信用を担保することにあります!

―昨年7月に発足された貴財団設立の趣旨と理念等をお聞かせください。

当財団の趣旨説明によると〝私達は徒手整復術の育成が健康長寿の未来社会の持続可能に不可欠であると確信し、施術力を持つ柔道整復師らの生活環境をより良いものにすることが必要であると考え、それを達成する為には保険療養費を運用されている保険者のご理解とご協力を得ることが大切です。私達は一人でも多くの施術力のある柔道整復師らの育成を通して国家使命である医療福祉政策を担う保険者と共通の認識をもつ柔道整復師によって、あるべき医療福祉政策を実現するために本財団を設立しました〟とあります。

またその理念においては、〝専門家としての見識を持ち、人の痛みを自らの痛みとして寄り添う医業従事者の為の組織であり、柔道整復施術の充実と保険療養費の適正化は共通の理解によって結ばれるものである。私達は、柔道整復等保険療養費の充実と適正化は、被保険者・保険者・柔道整復師等の施術者との間に保険療養費制度の社会的意義に関する相互理解を深める対話の場を設け三者の相互理解・共通認識を形成することによって達成できるものと考えます。

私達はできるだけ多くの保険者から柔道整復保険療養費に関わる調査・審査資料の整理及び支払業務を受託し、そこに出てきた真の問題点を共通のテーマとし、それを生産的に解決することが大切です。その前提として私達は受託業務を通して施術の臨床規律を厳格に捉え、個々の柔道整復師に施術力と倫理観に強い関心を持って頂く事を働きかけることに努め、そのことによって保険者と共通の価値観が形成され、柔道整復業務自体が保険医療を補完し、長寿・健康社会に貢献できる社会的医療機関として認知されるものと考えています〟という考え方に、私は共感したということなんですね。つまり、前述の趣旨説明にありますように、柔道整復の施術、臨床現場の技術を上げるということが1番の目的です。

財団の名称に「療養費審査」という名前がついたがために、レセプトの点検業務を主としているように思われますが、本当はそうではなく柔道整復師の質を上げていこうということが主たる目的です。勉強会を実施して、資格認定をして、全体のレベルを上げていく。従って、世の中で糾弾されるような人は排除したい。私はそういう風に理解して、副理事長の役をお引き受けしました。柔道整復師の資質とレベルの向上が一番の設立の目的であると思っています。本物の柔道整復師を育成し、本物の柔道整復師が生き残っている業界であれば自ずと療養費の適正化もはかれるだろうという考えです。

そこで、「本物の柔道整復師というのは何か?」でありますが、勿論職業倫理と臨床現場における治療技術をしっかり有し、また社会人としても道徳や倫理感をキッチリ持ち得ている柔道整復師、あとは文章能力、カルテから始まって文章作成能力がしっかりしているの3点をもって、本物の柔道整復師の育成をすることが大事という考えです。裏を返せば、この考えに合わない柔道整復師の方はこの業界から退場してもらいたいということをハッキリ申し上げています。

当財団の狙いは、質を上げていこうという中で、その中に審査ということも入ってくる訳で、それでこそプロだとして、プロの申請書を審査しようと。従って支払基金の機能の一部も入ってきます。例えば、保険者さんは、患者さんに照会を出していますが、そうではなく当財団は施術者である柔道整復師に照会を出しています。

やはり、施術をした柔道整復師による施術の証明書が必要ですので。ということで結果的に業界では煙たがられています。患者さんではなく柔道整復師のほうに根掘り葉掘り質問状を出しておりますし、分け隔てなく調査書を出しておりますので、他の業界団体からも〝なんでこんなに面倒なことを、この忙しいのに手間暇をかけるのだ〟というご意見も頂いています。

 

―健保組合さんからの評判は如何でしょうか?

分かる健保組合さんからはご理解を頂いております。
やればやる程、結果が出ますから、相当経営にプラスをもたらしていると思います。

 

―伊藤副理事長は、日鐵住金溶接工業健保の常務理事をされていらっしゃった方ですが、健康保険組合の使命とあり方について教えてください。

健康保険組合というのは元々自主、自立で保険者機能の発揮ということが健康保険組合に課せられた大きな課題であると思います。保険料率を組合運営の実情に応じて自主的、民主的に決められるということ。そして又、組合の保健運営など財政の事情に応じて所謂付加給付というか、例えば高額療養費で大きな病気にかかっても2万円以上は自己負担ありませんということもやれるのが健康保険組合です。

あとは疾病動向、疾病の状態を見て事業主と共同して保健事業を行える訳です。私共の時はウォーキング等をやって、何キロ歩いたら賞品をもらえるといったこともやりました。しかし近年、健保の7割弱が赤字です。従って、卵が先か鶏が先かです。私は老人拠出金の時にもたまたま中身を見たら、老人一人あたりの医療費を下げれば拠出金が下がるということで、ドーンと下げました。進んでいる健保は、健康第一ということで保健事業に取り組んでいるところも結構あると思います。しかしそれ以外は、圧縮財政ということで、みんな後手後手に回っているのではないでしょうか。やはり本来の在り方に戻ることが大事だと思います。

 

―以前にもインタビューさせて頂きましたが、その頃とそれ以後の伊藤副理事長の活動内容等、簡単に教えていただけますか?

結果的に吸収されるような格好になってしまい、新日鐵健保に最後はお世話になっておりました。結論から言わせて頂くと、大き過ぎるとなかなか出来ることも出来ないということで、丸投げをしてしまう事業が多いと感じました。やはり規模の問題はあります。

以前にお話した通り、やはり「健康互助会」であり、そのための「みんなの健保」であるべきだと思います。従って、草の根運動に近いものであっても良いのではないかと。規模については、私自身は3千人が限界であると思っています。その位の規模であれば被保険者に関して殆どのことが分かりますので、対策や取り組みを実行していくことが可能です。

つまり〝何が問題なのか?〟徹底して現状分析をやりました。例えば、柔整師さんに限っていうと、私が健保に在職していた12、3年間に〝柔整師さんにどういう人がどういう形でかかっているか?〟と。私どもの健保では多くても1月当り、レセプト1500枚位だったと思いますが、それを4時間くらいで全部目を通しまして、それを精査して、これは何かあるという人について、私は人事出身でしたので、各部署の人事に直ぐ連絡をして〝何か起きている?〟というようなことで情報を取りながら〝何をしたらよいか〟という打つべき手が早く分ったということだと思います。しかも私の着任当初は指定組合でしたから、お金が無いので、どうしようかと対策を講じます。

しかしながら大きい健保組合はみんな外注に頼んでしまいます。結局業者を上手く使うだけが能力みたいになり、私はそれは間違っていると思っていました。規模の問題でもあるのでしょうが。ただし規模の問題は逃げ道でもある訳です。私が狙ったのは、「みんなの健保」「健康互助会」ですから、何時来ても何でも見せますよと。また在任中はいろんな機会をとらえて、情報をとり事業に反映する、例えばレセプトの点検の勉強会等とか、とにかく多くの機会をつくり情報をとっておりました。

 

―いま、理由なく健保から返戻があり、柔道整復師の方の説明に、聞く耳を全く持っていただけないとお聞きしました。それについて伊藤副理事長はどのように思われますか?

それは、おかしい。
私達が担当していた当時はどんなことがあっても先方と了解をとった上で、初めて戻すというかたちでやっていました。それは、礼儀に反しますね。

 

―今の健保組合のスタンスについて、伊藤副理事長は、どのように思われていらっしゃいますか?

やはり柔整がある意味ターゲットになっていると言えると思います。
しかし、もっと医科にも酷い話はあります。レセプトの点検の講習会に行くと、レセプト審査の裏話もいっぱい出て来る訳です。私どもの健保は最後はやはりレセプト点検業者に頼んでいたけれども、頼みっぱなしだけではダメなんです。その先生の講義を聴くと、こういう視点で見たら面白いというヒントがいくらでもあります。それを業者に〝この視点で見てよ〟と伝えると、点検業者もそこを注視してやるんです。

裏話で「疑い病」というのがありますが、例えば、インフルエンザの疑いだとか、癌の疑いだとかで検査をやれますのでお金がとれる訳です。審査委員と医療機関の間でやり取りをしてレセプトに「疑い病名」が付くと、「その検査は有効である」と。そう記されていなければ、この病気とこの検査は整合性がないということになりますからね。ある意味、検査というのも真面目にやっているように見えるけれども、一部の病院等の医療機関では、あぶない請求もありました。その辺はザーッと分析していくと分ります。

やはり柔整には支払基金がないため、一番突つきやすい。医科・歯科は支払基金というフィルターを通ってきていますから。しかし、それだっていろいろ過誤というのはあります。それで医科でも歯科でも返戻はあるんですよ。そういう意味で柔整は未だその鎧を被っていない。だから狙われるんだと思います。

こういう事実に基づいて、こういう施術をしましたということを記録としてとっておかないと誤解されてしまう可能性があります。記憶の範囲なんて昨日の朝ご飯に何を食べたかも分らないんですから、今度支給申請書を電子化することになるとやはり面白いのではないかと思っております。またこの支給申請書を作る時には、やはり歯科等を真似て、歯科のレセプトの流れというのは、必ず検査をして、その後に治療をして、その結果を見ながらということになっています。そういった良いお手本を取り入れていくことが大切でしょう。

柔整師の仕事全体を堤防に喩えると、泥とコンクリートみたいなもので、泥はいじりやすいけど、コンクリートはそういうことが出来ない。そんな感じだと私は思っていますけれども。従って、電子データをキチッと活用するといろいろ見えてくると思います。如何にルールを統一化していくかということだと思います。

最近地元の老人会の方から、2、30分ほど話してくれと依頼されて、話をしています。例えば75歳以上の高齢の方が病院に行ってきて〝薬も貰ったし千円だった〟ということで喜んでいるんです。いま75歳以上の人は1割負担ですから、0.1で割ると、〝これ1万円かかったんですよ〟と。1万円という金額は何所にも出てこないけれども、市区町村が半分、4割が若者からの拠出金という形で支払われているのです。私は健保の仕事をやってから2、3年は毎日そのことばかり〝いくらかかった?〟〝割り算して高いか安いかを判断しなさいよ、千円ではないよ〟と言っていました(笑)。

 

―貴財団がやっていることを、他の健保さんたちにも知らしめることが出来るのかなと思いますが。

私自身もまだ現役の人たちと繋がりがありますので、それは可能であると思います。私の考えは良いことは絶対に勧めたいということです。しかも、優れたものには皆さんどんなことがあっても必ずついてきます。ただ其処に行くまでが大変な努力が必要です。

我々の健保の知識を当財団の職員や担当者にもある程度教えておかなければと思っております。どのようにレセプトが健保まで流れていくかの過程等を時間もらって話そうかと考えております。どんどん状況は変わっています。つまり、それに合わせるやり方をやっていくことが大事です。

健保に在任している時代の取り組みの中で印象に残っているのは、家族で年間365日以上の実診療日数を数える人がいるということがデータ上で分かりました。母親が30代前半、子供2人、ご主人が家庭を全くかえりみない、その人たちの改革を如何しようかということで、子育ての段階から健康思想を変えていくということをやりました。「赤ちゃんとママ社」というのがありまして、その本の中にアンケート用紙を入れて〝何か心配なことや問題がありますか?〟と。それに対して個別に保健師さんや看護師さんに答えてもらうやり方で、答えてもらうと病院に行かなくても済むんです。それは親会社健保にも伝えて、取り上げてもらっています。

また、いろいろ分析していって、〝誰が一番医療費を使っているのか?〟と。年齢別に全部分けて、やはり50~54歳、55~59歳、所謂中高年と0歳~4歳までの乳幼児が病気になりやすいことが判明しました。しかも誰も頼る人がいないために病院に行ってしまう。老人の場合も同様です。老人で成功したというのは、老人一人一人に〝相性が合わなかったら変えますから〟ということで訪問指導のできる看護師さんをつけました。そうすると看護師さんに相談して終わってしまうので病院に行かない。つまり、行く必要がない。そういう取り組みを行うことによって、医療費が減っていくんですね。

 

―柔道整復師の方達に期待することをお聞かせください。

社会全体がもう医療機関にかかれない状態になりつつあります。特に東京がそうで、老人の数が多すぎるのです。今までは、看取りは病院でということでしたが、もう病院にも入れなくなります。国はそれを見越して「地域包括ケア構想」を推進しています。

2週間程前に、日経新聞主催の講演会があって聴講しました。その講演会では、医療法人が地域包括ケアセンターを作って成功した事例報告として、また厚生労働省の元局長の話、また地域包括事業をセコムが始めており、センサー等で一人住まいの方の所謂「見守り」を行うというものです。そして、もう一方で隣近所の仲良しグループを作ろうということでした。つまり、そういう意味では、柔道整復師さんは専門知識を持っていますから地域住民の方々にとって良い相談相手になるでしょう。

かねがね私が言っていたことは間違いじゃなかったと確信しました。その船橋市と浅草の成功事例によると、医療と介護と福祉が全部一体になって、広いフロアに全部の職種の方々が入り混じって協働したことで成功したということです。医者も別に白衣を着なくても良い、白衣を着ると全体がきしみはじめるということで、全部同じユニフォームにしたと話していました。

例えば、「かかりつけ医」にしても、やはり貴方の家庭を全てわかっているのはお医者さんということなんですが、もう医療の範疇ではなく、医療は最後の最後みたいで、在宅で医療も介護もオプションにして生活できる形にしようとしているのです。しかも支援センターでは、みんなに手伝ってもらう仕組みを作っていこうというやり方です。私は、その中に柔整師さんは入り込めると思います。

前のインタビューでも話したことですが、結局は整形外科といったって、長期療養になると赤外線照射等を行うだけのようでした。であれば、申し訳ないけれど健保から見ると、柔整師さんのほうが全然単価が安い。やはり1つの政治的なバランスということで、間違った方向に行っている可能性があります。

先日、ラジオを聞いていると、ハーバード大学で発表した〝長生きのコツ〟というのは、「地域と仲良くすること」というデータがキチッと出されています。学歴、仕事は全く関係ないそうです。つまり、地域社会に如何に溶け込むかということです。そういう意味では、柔道整復師の施術所あたりが中心になってやれるのではないかと。いま医療と福祉と介護が一緒になっているんですからね。

 

―また伊藤副理事長から見て、今の柔道整復師の方達の存在意義、そして問題点は何所にあるとお考えでしょうか?

やはり何所の世界にも変な人はおりますし、異端児は居るのです。それを認めるか、拒否するかがその組織のレベルだと思うのです。この財団を設立する前に、「患者と柔整師の会」で議論された〝レベルを上げていく〟という考えに私は賛成なんです。

多分、枝葉末節の話のほうがニュース性があるために取り沙汰されているだけで、ここの会合で会う柔整師さんはみんな真面目です。そういう意味でこの財団を作って、レベルを上げていくというのは、私は物凄く良いことだと思います。今後は、どれだけの情報をとっているかということで、今の健康保険組合について、相手のことを分かりませんでは絶対勝負できません。

結局、健康保険組合が相手で、その先に患者さんが居る訳ですが、どういう状況になっているかということをしっかり把握しておくことが重要です。つまり、整形とは目指すところが違うと思いますので、得意分野をちゃんと発揮すれば良いと思います。従って、柔整師さんの近くの整形の先生とどうやってコンタクトをとるか。いろんな機会はあると思います。仲良くなった先生と、お互いに互恵関係を結べるようにしたら良いという感じがします。地区別にマップを作るなどして成功事例を流していく。出来ないことはないと思います。

夫々が専門知識を持っていますから、施術所と整形外科は此処と此処にありますと。営業時間まで含めて入れてあげて、〝我々は関連性を持ってやっています〟というやり方だってあると思いますし、脚光を浴びるようなことも考えていくと良いでしょう。やはり地域に根差しているのが接骨院ですし、柔道整復師の存在意義は絶対あると思っています。

 

―最後に、支払基金の必要性について教えてください。

支払基金的な役割というものを発揮できれば少なくとも支払側は、楽ですね。先程述べた土手の話ではありませんが、狙われることもないし、一応そういうフィルターを通ってきているから財団として支払業務を委託されて行う意義は大きいと思います。

私はとにかく一生懸命やられているので、お手伝いできればということなんです。今は大事な時期なので、与えられた使命をもって理想まで近づけていくということだと思います。

 

●伊藤義徳氏プロフィール

日鐵本社に入社。
習志野市の工場に11年間勤務。その間、人事・総務畑を歩く。
研究所勤務、3年半を経て、人事兼務で日鐵住金溶接工業健保組合常務に就任。
新日鐵住金健康保険組合シニアアドバイザーを歴任。

 

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