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何故、柔道整復は国民に支持されてきたのか?
【第4回:明治時代の骨継ぎ・接骨術】

2017/07/01

いよいよ我が国は幕府による統治から近代国家として、明治の時代を迎えます。
多くの接骨術者は柔術を修めた武道家であり仁術をも心得て不良者は無く、信頼ある身分であったと言えます。ただただ残念な点は、同業者間における相互交流や流派を超えた技術研究などが行われたかったことでしょうか。
各自は柔術を修養した武道家であり、いわゆる一国一城の主であることから我が道を貫くという精神で歩んでおられたのでしょう。この特色こそが後に展開する我が国の医療における大きな舵取り(近代医制へ邁進)を読み誤ることになります。

一般に西洋医学を禁じ、漢方医や蘭方医など和蘭医学主流であった江戸時代に代わり、明治政府は和蘭医学の源流とも言えるドイツ医学を主とした医療にシフトします。
明治7(1874)年3月「文部省通達」により『医制』が交付され、医師は医学卒業の証書と共に、内科眼科産科等の専門科目について2年以上の研修を得た証書とを揃えて開業が許されると定められました。
明治8年の医師学術試験規則により、従来の接骨術者は届け出により条件を満たせば「整骨科医術開業免許」が与えられ、届け出条件に満たない場合には試験を受けなければ免許が得られないことになります。これより整骨科医師が誕生することになりますが、明治16年(1883)医師免許規則の公布により専門医師としては歯科のみが設けられ、他の産科・眼科・整骨科は「医師」として統合されます。
このような経緯のもとに現代の医師のベースが完成することになりますが、当時の試験合格による医師は20%にも至らず、多くは従来からの漢方医が占めていたようです。

この頃における整骨科の医師は少数であり、多くは従来からの接骨術者であることから、経験や技術・倫理観の涵養は十分であったものの医師試験に合格するための西洋医学を修めた接骨術者の存在は無かったようです。
医師試験を受けず、医術開業免許も得られないままに接骨術を営む者には、「従前接骨業」として都道府県庁規則により取り扱われることになりました。
そして明治18年(1885)に『入歯歯抜口中療治接骨営業者取締方』が内務省から発せられました。入歯・歯抜・口中療治とは、行商や大道芸的に行われていた口腔内の業を含めています。
当時は歯科を専門として修めた医師以外に、専ら口中療治を行う業者もありました。
前述の届け出による接骨術者は、全国に約300名が存在していたようです。
これら届け出により業務を許された者は鑑札(警察や役所が許可する営業証)により業を営むこととなりますが、鑑札の得られない者の中には、いわゆる非合法接骨業者として検挙され、罰金を科せられる者もあったようです。
鍼灸術についても医師監督下での業務制限が課せられていましたが、接骨術に値するほどの状況ではなかったようです。また按摩術については、厳しい取締対象とならなかったことから按摩業者の門下生となる接骨術者も現れたようで、いずれにしましても明治の近代医制政策によって、接骨術並びに柔術を行う者には大きな死活問題を生じた第一危機時代と言えます。

因みに明治39年(1906)に東京帝国大学医学部に我が国初の整形外科学教室が開講されます。脊椎疾患や先天性四肢疾患など外科の一分野として扱われていた疾患は、整形外科により専門的に治療することが可能となりました。
歯科医師については、明治23年に全国初の歯科養成校(高山歯科医学院)が開校され、当時の西洋医学に沿う学術基盤を整えた結果、明治36年に歯科医師会を誕生させ、明治39年には歯科医師法が制定され現在に至っています。
接骨術者も流派に固執せず、全国的に統一された理論や技術に向けた活動ができていれば「接骨術科医師」として、法や身分の確立が得られていたのかもしれません。

当時は広告についても厳しく規制されています。
現代では柔道整復師法に違反する広告が多く見られ、中には目を覆いたくなるようなサインがありますが、この時代には鑑札で開業を許された接骨業者であっても、接骨科などと掲げると処罰の対象となりました。
看板記載として許された文言は「官許うちみ、くじき、ほねつぎ所」
に統一され、一字の相違も許されない厳しい対策がなされます。
文明開化へと一直線のこの時代にありましても、法令の遵守は重んじられていたようです。柔道整復師の先生方、自院の看板や広告などに違反があるか否か、一度省みて頂きたいと存じます。

接骨術が禁止された明治18年から26年後の明治44年(1911)「按摩術営業取締規則」が制定され、鍼灸・按摩の営業が公認されることになりますが、接骨術は未公認のまま明治の終わりを迎えることになります。
現在、柔道整復師の先生方は厳しい患者調査に業務妨害され、実情に沿わない低価な治療金額での業務を強いられています。
ですが先達の皆様方は計り知れない労苦を重ねて、柔道整復を継承するべく努力されています。
加えて、整形外科が我が国の医療として発展することになっても多数の柔道整復受診希望者の存在があってこそ今日につながっている事実も真摯にご理解頂きたいと願います。

 

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