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保険請求の手引き【第9回:療養費の支給基準 その8】

2016/03/01

平成9年4月版の療養費の支給基準(社会保険研究所)には、打撲・捻挫の部に「筋又は腱の断裂(いわゆる肉離れをいい、挫傷を伴う場合もある。)については、打撲の部の所定料金により算定して差し支えないこと。」と表記がされています。

それまでは、支給基準により定められている傷病名として骨折・脱臼・打撲・捻挫のみであり筋損傷としての挫傷の使用は認められていなかったようです。
挫傷が傷病名として利用可能となっても、柔道整復施術療養費取り扱いにおける業務範囲が拡大されたものではありません。

あくまでも、介達外力による筋・腱等軟部組織損傷(断裂損傷・いわゆる肉ばなれ)が対象であり、柔道整復の業務範囲でなければなりません。打撲や捻挫の傷病名と区別する必要から、挫傷が便宜上許されることになったと考えられます。

支給の対象は,介達外力による筋,腱の断裂(いわゆる肉ばなれ)であって柔道整復師の業務の範囲内のものとすること。
なお,打撲及び捻挫と区分する必要があることから,支給申請書に記載する負傷名は挫傷として差し支えないこと。
算定部位は次のものに限ること。
(ア)
胸部挫傷
胸部を走行する筋の負傷であって,肋間筋,胸筋等の損傷であるもの
(イ)
背部挫傷
背部を走行する筋の負傷であって,広背筋,僧帽筋等の損傷であるもの
(ウ)
上腕部挫傷
上腕部を走行する筋の負傷であって,上腕二頭筋,上腕三頭筋等,肩関節と肘関節の間の損傷であるもの
(エ)
前腕部挫傷
前腕部を走行する筋の負傷であって,円回内筋,手根屈筋,腕橈骨筋等,肘関節と手関節との間の損傷であるもの
(オ)
大腿部挫傷
大腿部を走行する筋の負傷であって,大腿四頭筋,内転筋,大腿二頭筋等,股関節と膝関節の間の損傷であるもの
(カ)
下腿部挫傷
下腿部を走行する筋の負傷であって,腓腹筋,ヒラメ筋,脛骨筋等,膝関節と足関節の聞の損傷であるもの
胸部及び背部は,左右合わせて1部位として算定すること。

約20年前までは下腿三頭筋損傷やアキレス腱損傷、大腿部肉ばなれ損傷などを治療し算定される場合には、多くの柔道整復師の先生方が矛盾を持ちつつ捻挫や打撲の傷病名を使っておられたことが思料されます。そのような時期に、例の患者調査が行われていると殆どが整合性の確認が取れないという理由で返戻対象となったことでしょう。

下腿三頭筋の損傷で柔道整復の治療を受け、打撲や捻挫の傷病名以外の使用が許されず、やむなく「下腿部打撲」として施術録記載され、申請書が作成されることになります。
その受診者に、「貴方は下腿部の打撲を受傷されて〇〇接(整)骨院へ通院されましたか?」等と調査文書が届いた場合、殆どの受診者は「いいえ」と回答されたことでしょう。

昨今、まるで柔道整復の現場における言葉遊びのように受診調査が行われています。不正や詐欺犯罪に値する事件があるのも事実ですが、多くの柔道整復師の先生方は安価な費用で固定処置などを工夫され、様々な手技による治療を行っておられます。
編集部で調査する限り、多くの外傷や損傷を治療し国民の健康増進に役立っておられることは紛れもない事実です。約20年前に挫傷という傷病名の利用が認められた如く、現在の受診者に多く見られる数々の損傷に相応した新たな傷病名の利用も認められるべきです。

 

挫傷の算定部位は、上記の(ア)~(カ)にある胸部・背部・上腕部・前腕部・大腿部・下腿部に限る、と支給基準では定められています。
ですが挫傷は、筋組織が存在する部位には発生することが考えられる損傷であることから、「平成22年5月24日保発0524第1号~保医発0524第3号等に続く平成22年6月30日発令の疑義解釈資料」には次のような記載があります。

問25「殿部挫傷」、「足底部挫傷」等、算定基準上に明記されていない負傷について、療養費の算定は可能か。

(答)挫傷の部位として算定基準上に明記されていない負傷であっても、筋が存在する部位については挫傷が発生し得るので、これらについては保険者において算定の対象として差し支えない。なお、負傷名についても「殿部挫傷」「足底部挫傷」等とする。

とありますので、殿部・足底部等の挫傷名にて治療と算定も可能です。

筋損傷・筋繊維損傷の発生機序も多岐にわたっていることから、亜急性損傷としての判断もより高い初検能力が求められる現在、前述の通り傷病名の改変は本当に必要であるといえます。ですが現状では支給基準に則り、挫傷の傷病名を柔道整復の業務や治療範囲拡大などと誤解を持たず、臨床上は筋損傷としての傷病名が認められた経緯があることを理解いただき適正に対応されることを願っています。

 

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