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スペシャルインタビュー:杉並区長・田中良氏

2016/08/01

杉並区の人口は、約55万7千人である(平成28年5月現在)。東京23区でも閑静な住宅街として人気の高い杉並区。日本全国に約400あるアニメ製作関連会社の70ほどが杉並区内にあり、世界有数のアニメ産業集積地となっており、機動戦士ガンダムなど多くの作品が杉並に所在するスタジオで製作されてきた。また杉並区は、毎年100万人を超える見物客が訪れる東京の代表的な夏祭りの一つである高円寺の阿波踊りや80万人もの見物客が訪れる阿佐谷の七夕まつりなどが開催される地でもある。そんな杉並区の田中区長は現実を厳しい目で直視し、困難と思われる問題に果敢に取り組むダイナミックな人物である。今後杉並区民が、安心して住むことが出来るまちづくりを共につくりあげ、託せる人である。

 

地域包括ケアシステムの構築はもとより、将来をみすえて一つ一つ現実に横たわる深刻な課題を解決していく必要があります!
田中良氏

杉並区長
田中 良   氏

 

―日本の社会保障制度について田中区長のお考えをお聞かせください。

日本の社会保障制度は、戦後の救貧対策から高度経済成長を経て、寝たきり老人問題、成人病対策など、その時代の要請に応じて改革を繰り返し、国民の安心・安全の暮らしを支えてきた素晴らしい制度だと考えています。しかしながら、世界でも類を見ないほど急速なスピードで迎える高齢化、少子化などの人口構造の変化などから次世代への負担が大きくなること、受益と負担の偏重感、核家族化や女性の就業状況及び就業形態の多様化など社会構造の変化などにより、国においても「税と社会保障の一体改革」を行っていますが、やはり制度の在り方を大きく見直す必要があると考えています。所謂日本の社会保障制度は、医療保険と年金、介護保険という3つの柱で成り立っていますが、このまま少子高齢化がどんどん進行していけば、医療にしても年金や介護にしてもサービスが持続不可能になっていくことが予想され、現状の負担と給付のバランスが崩れていくことになります。少子高齢化ということで人口構成が変わっていく中で、非常に危機感が募っているというのが今の日本の状況であり、世界に例をみないスピードで、高齢化が進行しているということはよく言われていることですが、高齢化と少子化が相俟って、日本の社会保障制度が今後100年を展望した時に危機的な状況にあるということは、最早共通認識であると考えております。

 

―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展と少子化に対する区長のお考えを聞かせてください。

少子化対策について、つい最近まで国家的な課題認識で取り組んだという記憶がありません。少子化対策が必要だという人はたくさんいますが、実際に少子化対策にこれだけの財源を注ぎ込んでいるとか、こういうことに取り組んでいくというのは、あまり聞いたことがありません。目の前に子どもが少なくなっている現実は分かっていても、危機意識として共有されていないのです。少子化のもたらす影響で将来こうなっていくだろうということは理屈や理論では理解できたとしても、子供が少なくなっていることを一般の方達が地域社会において危機意識として実感しているかというとそうではないと思います。〝寂しくなったね、野球チームも出来なくなるよね〟という程度のことで、それが将来地域社会にとってどれだけ深刻な問題になるのかという危機意識は共有されていないと思います。例えば家庭で子育てが一段落して、子供が独り立ちすれば〝もう私達今度はのんびり生きようよ、やりたいことやろうよ〟となるだけで、つまり少子化というのは高齢化に比べるとリアルに大変だという危機感が共有されにくいのです。

ところが高齢化は「家庭崩壊」、「介護地獄」と言われることが増えてきて、しかも昨今の問題でいえば車の運転の問題も後期高齢者が事故を起こすケーズが多発して巻きぞえになる方たちがいる。また認知症で大変なのは本人だけではなく、周りが大変だというような生活実感がどんどん広がっています。現に暮らしている人たちが大変になっている状況を何とかしなければということで、そういったことが多くの国民に理解されています。しかしながら少子化対策というのは誰も本気で困ったとは思っていないために、そんなことに税金を注ぎ込むのであれば、もっと困っている人がいるじゃないかという話になってしまうため、あまり政治の世界でも前面に出て来なかったと言えると思います。そういう状態が何十年も続いてきたことで、「少子化対策」をしっかりやらなければ、子供の時代、孫の時代になった時に大変な事態になり、社会保障制度が持続不可能になって崩壊してしまうということが少しずつ言われるようになりました。

しかし、まだまだ全体の理解としては弱いのではないかと思います。例えば、いま杉並区では保育園の待機児童解消緊急対策として、1年間で定員を2200人増やすという、かつてない取組みを進めています。保育園を作ることに反対する方がいらっしゃいますが、これだけ女性の社会進出や晩婚晩産化が進んでいる中で一刻も早く子育てと仕事が両立できる社会環境を都市部で作っていかなければ、更に出生率の低下を招くことになります。どんどん若い人たちが都市部に流入してきている中で、都市部の出生率を上げていく必要がありますし、その取り組みを進めなければ益々少子化問題は深刻になります。今後、子供たちや孫たちの時代に悪い意味で影響が出てくることが予測されますので、なんとか区民の方達に理解をして頂いて都市政策を進めていきたいと考えているところです。お互いに危機意識を共有した上で譲り合いの精神でやっていくしかないと思っています。

 

―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。杉並区で現在取り組まれている地域包括ケアシステムの構築状況ついてお聞かせください。

区の地域包括ケアは区内20カ所の地域包括支援センター(ケア24)を中心に、地域づくりや医療・介護連携の推進、認知症対策などを柱とした地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいます。また27年度には、区内20箇所の地域包括支援センター(ケア24)に「地域包括ケア推進員」を配置し、それぞれの特性に合った地域づくり(認知症対策、医療介護連携の推進、生活支援サービス体制の整備)を進めています。また、杉並区医師会の協力で7つの日常生活圏域ごとに「在宅医療地域ケア会議」を開催し、医療・介護の連携と在宅医療の推進をめざしています。そのほか、認知症の早期発見・早期診断・早期対応の体制づくりに向けて、認知症初期集中支援チームを立ち上げるなど、目下地域包括ケアシステムの構築を一生懸命進めています。

しかしながら、地域包括ケアが全ての課題を解決してくれるということを識者の中でも主張される方がいらっしゃいますが、それは幻想ではないでしょうか。認知症の人たちをケア出来るというのも一定程度までであり、どうしても施設介護は必要になってきますし、施設介護の受け皿が弱ければ、地域包括ケアにどんどん負荷がかかってきて、大変な状態で困っている人が滞留してしまうことになります。地域包括ケアというのはネットワークづくりでもあり、まちづくりでもあるというのは全く否定するものではありませんが、それだけで問題は解決しないということも直視しなければいけないでしょう。例えば昔は家で死ぬのが主流でした。昭和のはじめ頃、戦後間もない頃もそうだったように思います。しかし今は病院で死ぬ人が圧倒的に多い。つまり医療費を膨張させているから家で看取りが出来るようにしましょうとなって、確かにそれが出来る人は大いに夫々の家庭で看取って頂ければ良いと思います。ただ、これだけ核家族化して親と子供が離ればなれになっていて、病院や施設にでも入れなければ誰が看取りまでやってくれるのか。其処までの余力は地域包括ケアシステムには無いでしょう。従ってどうしても医療施設や介護福祉施設を急ピッチで用意していく必要があるのです。現実に今ある困った問題を解決していくことを考えた時に、施設介護の受け皿もしっかり整備していかなければなりません。つまり、偏った見方や希望的観測ではなく、問題をキチッと直視してやっていかなければいけないというのが私の持論です。区内では特別養護老人ホーム待機者が多く、施設がまだまだ不十分であるとして、特養を1000床増やそうと10年計画で取り組んでいるところです。

施設を作るにあたって、区内で整備をすると莫大な費用がかかります。しかも半分以上は土地代です。土地に税金をそんなに注ぎ込むようなことで本当にそれでいいのであろうかという疑念を抱いております。確かに〝住みなれた地域で安心して住み続けられる〟とした理想的なスローガンですが、ただ福祉というのは施設に入居する人のサービス向上、或いは其処で働く人の処遇改善に繋がっていくお金の使い方であるならばまだしもと思います。公費が土地の取得にどんどん注ぎ込まれていくことに対し、何で誰も矛盾を感じないのかと思っております。そういった考えに基づいて、杉並区は南伊豆に特養を造ろうとしている訳です。つまり区域外に介護施設を造って、土地にお金をかけるのではなく、もっと施設のサービスや施設そのもの、或いはそこで働く人たちの処遇を改善していくような形にしなければという意図であります。お金が土地の所有者だけに流れていくのは、おかしいことですし、福祉というのは人に使うものだろうというのが私の考えです。勿論、地域包括ケアもとても大事であり、住み慣れた地域に安心して住み続けられるというのは、全く否定するものではありません。みんなそれを目指している訳ですが、その発想に全てを押し込めて非効率なことを自治体に強いているのではないかと思う面もあります。

元々介護施設は多摩地域(あきる野市・八王子市・青梅市等)に沢山存在し、それら施設は介護保険制度や後期高齢者医療制度が出来る以前から、いっぱい造ってきているのです。ところがその施設に入っている利用者さんは、例えばあきる野市の施設において、あきる野市住民の入居は3割で、7割以上は外から受け入れています。八王子方面もみんなそうです。それは23区でお金を補助して、ベッドを確保するという形で今までやってきた訳です。しかし、そういう施設をこれからは増やしたくないと多摩の自治体も考えています。何故なら後期高齢者医療制度では、後期高齢者の数が増えればその分を一般財源から後期高齢者医療にお金を投入しなければならないことになっていますので、そのお金を投入するにしても自分の所の住民のために投入するのは良いけれども、他所から入居している人にその市が負担するのはご免だとして、これ以上施設を増やしたくないということです。従って、中々施設は増えません。あと10年か20年経つと地元の高齢化がもっと進みますので他所の高齢者を受け入れる枠がなくなります。そもそも23区の高齢者の行き場がなくなるということになっていきますので、どんどん深刻です。そういう理由で南伊豆に特養ホームを造ろうと取り組んでいるのですが「姥捨て山」ではないかと批判する人もいます。しかし多摩地域の介護施設についてもその一部は、例えば社会福祉法人が運営しており、様々な住民を受け入れています。その社会福祉法人は一生懸命やっているかもしれませんが、その施設の運営について、自治体が基本的に責任を負っているのかと問われれば、一義的責任は社会福祉法人にありますから、それで受け入れて最終的な責任はどこにも無いのです。杉並区の取り組みでは、自治体が施設を区域外に造らせて下さいと言っている訳です。静岡県知事の認可の下に造る施設ではありますが、杉並区のコンセプトが強く反映される施設で、そのことを前提に造っています。従って杉並区が良い施設にしようと思えば、梃入れが可能であり、また事業者は梃入れを受け入れなければいけない関係です。負担の押し付け合いではなく、杉並区民は杉並区が一義的に責任を負うという理念を明確にしております。その上で良い施設を区域外に造ろうとしているので、批判する人にはちゃんと理解して欲しいと思います。また、東京都にも、我々基礎自治体が取り組んでいる事業をもっと応援してほしいですね。

 

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