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スペシャルインタビュー:東京大学高齢社会総合研究機構特任教授・辻 哲夫 氏

2015/09/01

世界一の超高齢社会である日本は、これまでの医療・介護のパラダイムシフトの転換をはかり、2025年までにドラスティックな改革を推し進めていく必要がある。その旗頭に立つ東京大学高齢社会総合研究機構・特任教授で、元厚生労働省事務次官の辻哲夫氏は、20年以上前から在宅医療を推奨されてきた人物である。

今後の我が国の命運をかける一大事業である柏市プロジェクトを地域包括ケアシステムのモデル事例として日本全国そして世界に提示・発信していく使命がある。

果たして柏市プロジェクトというのは、どのような取組みなのか?医療行政の流れを踏まえ概要を話して頂いた。

 

地域包括ケアシステムのモデルとして柏市プロジェクトを推進しています!
辻哲夫氏

東京大学
高齢社会総合研究機構
特任教授
辻 哲夫 氏

 

―辻教授は厚生労働省事務次官をされた方ですが、約20年前から東大の佐藤先生が在宅医療を実践され、行政では辻哲夫氏が考えておられたと先日盛岡で開催された第17回日本在宅医学会の開会式で前田代表理事が挨拶でお話されていました。やはり20年前から2025年を想定されて準備されていたことなのでしょうか?これまでの医療行政の流れなど教えてください。

佐藤智(あきら)さんという在宅医学会の初代会長で、在宅医療の重要性を唱えられたいわば始祖といわれる方で、もう20年以上前になりますが佐藤先生の『在宅老人に学ぶ』という著書を私は読んで、非常に感銘を受けました。在宅医療が高齢社会に必要なものであるということを感じて、ある会合でそのことについて話しておりましたところ、〝その佐藤は、私です〟と仰られて出会ったのが始まりで、以来ずっと佐藤先生に在宅医療の大切さを学んで、他の厚労省の職員も一緒に勉強会を繰り返しまして、在宅医療は日本の医療の中で大変重要なジャンルだと確信を持って今まで取り組んできました。

超高齢社会というのは若くして死ぬ方が減少し、老いてからみんな死ぬようになりました。老いて死ぬということは、どうしても虚弱な期間を経て、死に至る訳ですけれども、その前の時期に、病気になり病人ということで、病院に入って病気とたたかうだけではなく、生活の場で生活者として生きる、このことが大事です。これを支える在宅医療という医療が、病院医療とは別に必要であるという信念をその頃からもちまして、在宅医療の普及が今後の医療政策に極めて重要であるということを私個人も、また厚労省の私の後輩にもそれを伝え、当時は未だ小さな流れでしたけれども、その頃から「在宅医療の普及」を唱え続けて参りました。そういうことで、本当に佐藤智先生との出会いが私達の在宅医療の原点だったと思います。

勿論、その後、時代を経るとともに高齢社会において本質的に必要なものという確信に至りました。しかも2025年というのは一つのいわば在宅医療普及の正念場であるということも、その後明らかになってきました。当時から2025年のことを考えていた訳ではなく、医療のあり方として在宅医療は本質的に必要であるということを実感していたということなんですね。

 

―また同じく第17回日本在宅医学会で厚労省大臣官房審議官・武田俊彦氏が、行政が在宅医療に熱心になると、国の押し付けであるとか財政節約のためとばかり言われる方が多いがそうではなく長野の佐久総合病院の井益雄先生がおっしゃられるように〝家に帰りたいお年寄りや家に連れて帰りたい家族〟の気持ちに寄り添い協力したいという考えが基本であると講演で話されました。「地域包括ケアシステム構築」の根底にある考えや理念をお聞かせください。

従来、高齢になって虚弱になった場合、施設に預けるとか、或いは療養病床に入るなどが一般的でしたが、近年、これまでの生活行動、生活習慣を繰り返すというのが最も「事立を維持する」ということが分ってきました。それはどういうことかというと、やはり住み慣れた自らの住まいに住み続けるのが、その人がその人らしく事立を続ける一番重要な方法だということが分かってきたんですね。そういうことで、地域包括ケアというのは、ケア思想の大転換をはかるということなんです。住まいを基本として、住み慣れた所に住み続けることが、そのお年寄りの自立を維持するためにも、勿論お年寄りの気持ちに寄り添うためにも一番良いということが地域包括ケアの根底にある理念です。

現在は、年をとったらみんなが虚弱になって病気がちになり、やがては死に至る訳でピンピンコロリというのは稀です。そういう中で、病院というのは、治療をしていただく場所であり、病気と闘う場所ですので、其処で最後の最後まで闘うというのは幸せなのかという考え方が出てくる訳です。寧ろ虚弱になった期間においても先ほど話しましたように、生活の場で生活者として、例えば自宅であればペットが傍でうろうろしていたり、大音響の音楽も聴ける、お酒を飲んでも叱られない(笑)、痛い場合に在宅でコントロールしていただければ、その人は生活者として笑顔で生きられるのです。つまり、折角長生きしてきた幸運を生活者として生活を享受できるようにするために在宅医療が必要であって、それは決して医療費の適正化が目的ではないんですね。そこのところは、かなり明確かつ確信を持った考え方です。

佐藤智先生が〝病気は家庭で治すもの〟と仰られましたが、本来人間というのは生活の場で自らを生活者として生き続けることが一番幸せであるという考え方が、在宅医療の思想の中にあります。

 

―6月12日~14日までパシフィコ横浜で開催された第29回日本老年学会総会で最新の科学データを総合すると、現在の高齢者は10~20年前に比べて、5~10歳は若返っていると想定されると評価し、高齢者の健康状態は個人差が大きいが、高齢者が就労やボランティア活動などに参加できる社会を創ることが今後の超高齢社会を活力あるものにするために大切だとの声明を出されました。今後のキーワードは「社会参加」であると言えるのではないかと思います。辻教授のお考えをお聞かせください。

超高齢社会というのは、75歳以上人口の割合が非常に高い社会でもある訳ですが、それにしても2030年には人口の5分の1にもなるという、世界で経験したことがない国になる訳で、ましてや65歳以上の人口が3割という国になりますので、そういう国の在り方として何が大切かというと、出来る限り事立を維持することが大事なんです。しかも事立を維持するために何が必要かというと、結論から申し上げると、「閉じこもらないこと」なんです。一日に1回以上出かける人は、週1回しか出かけない人に比べて歩行障害のリスクは4分の1、認知症の発症のリスクは3.5分の1だといわれております。そういうことで如何に閉じこもらないことが大切であるか。逆にいえば「社会参加」、出かけて社会に交わることが最も重要であるということで、これはもう本当に今後の超高齢社会の基本中の基本だと思います。

 

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