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ビッグインタビュー 【新・柔整考⑫】 業界内外の声をお聞きする!

2024/07/01

からだサイエンス創刊当時、「優しい中医学」を長きにわたって執筆くださった郷宗知先生。また、公益社団法人東京都鍼灸師会の役員(青年部会長・理事、広報部会長・常任理事)を12年間務め、同時に渋谷区鍼灸師会副会長を歴任。この間、内外共に鍼灸の普及、広報活動、若手治療家の糾合に奔走。その後、時代の先を見据えて脳卒中認知症予防鍼灸手技ネットワークを立ち上げ副代表として高齢者の疾病対策の普及にも奔走されている。他にも専門学校で教鞭をとられる等、人気を博した。その郷先生に鍼灸業界、そして柔整業界の現状並びに今後について、鋭く切り込んでいただいた。

少子化は止まらない。鍼灸も柔整も、整形外科医も過当競争の時代に突入。今こそ確固たる技術を磨き上げるべき!
郷鍼療所 院長 郷宗知氏

郷鍼療所 院長 郷宗知氏

 

 

―古い話で恐縮ですが、からだサイエンス誌が創刊した直後から郷先生は、「優しい中医学」と題して連載くださっておりました。当時、日本国内において中医学を学ばれていた方はどのくらいいらっしゃったのでしょうか?

当時でも、はり師、きゅう師国家免許合格者は、毎年3,000名ほど、おりました。

 

―郷先生は、中医レーザー協会の東京支局長をされていましたが、中医レーザー協会とはどういった組織でしょうか?中医レーザーというのは、中医学プラスレーザー治療を行うという理解でよろしいのでしょうか。

当時、低出力レーザーを鍼のしにくいところに照射して、はり治療と併用による効果を考えて取り組んでおりました。それを広めるために協会を立ち上げましたが思ったような臨床成果が上がらなかったので、消滅しました。

 

―また東洋医学&光線療法の研究所も開設されておられましたが、出来れば光線療法についても教えてください。

高田馬場に光線研究所という財団法人があります。戦前より難病の民間療法として、現在でも存在しています。可視光線を人体に照射することで、細胞が活性化することにより、病気が治るという考え方です。私も癌の再発予防などに現在も使用しております。

 

―鍼灸はアキュパンクチャーとして世界的に普及しており、また理論的にも解明、証明されています。そのことについて勿論治療家はしっかり認識されておりますが、患者さん達はその辺どうなのでしょうか?

まだまだ、一般的にはそこまでの認識は残念ながらされておりませんが、最近、NHKで「東洋医学 ホントのチカラ」鍼灸に対する特集の番組が複数回放映されて反響があります。

 

―郷先生から見て、今の柔整業界についてどのように思われていらっしゃいますか?

私も、鍼灸整骨院を以前経営していたのでよくわかりますが、バブルのころのように、健保組合の財政が潤沢な時代は病院の高額医療が主たるチェック機関だったものが、不況の時代になり、整骨院のレセプトにも細かいチェックが年々入るようになりましたので、レセプトの返戻が多くなり、保険治療は冬の時代に入りました。2014年には柔整の療養費は全国で3.800億余りでしたが、2018年には3.300億と4年間で500億も減少しております。

「厚生労働省:医療保険に関する基礎資料~平成30年度の医療費等の状況より」

施設数/従事者数は増加している一方で、患者対象年齢の人口は減少し、1人あたりが治療院にかける消費もコロナ禍が収まったとしても横ばいもしくは微減の状況で療養費も減少している状況にあります。よって、1院あたりの患者数は、減少することが想定されるので、今後に備えてのさらなる対応が求められる。今後、日本の人口は減少し、柔整・鍼灸業界および整形外科業界のメインの患者さまである対象年齢層の人口も減少していくことになります。

柔整・鍼灸業界においては、施設数や柔道整復師・はり師・きゅう師は増加する一方で、1人あたりが治療院にかける消費もコロナ禍が収まったとしても横ばいもしくは微減の状況で、療養費も減少している状況にあるため、1院あたりの患者数は、減少することが想定されます。

 

―柔整業界では、返戻等のことも多々あり、最近は自由診療が増加の傾向にあるとお聞きします。鍼灸業界におかれましては、如何でしょうか?

はり、きゅうの場合、元々、柔整のように療養費の請求・受領に関して、医師の同意不要とはわけが違い支給額も低料金であるため、療養費だけで鍼灸限定の経営を成り立たせることは実質的に不可能です。

下記のような制約が撤廃されない限り今後も基本的に自由診療が主になります。

下記の1、2 の両方の要件を満たす場合にのみ、健康保険の給付の対象となります。

1
対象となる傷病であること
  1. 神経痛
  2. リウマチ
  3. 五十肩
  4. 頸腕症候群
  5. 腰痛症
  6. 頚椎捻挫後遺症
対象となる傷病が限られています!

 

2
医師がはり・きゅうの施術について同意していること

医師による適当な治療手段がなく(医療機関において治療を行い、その結果、治療の効果が現れなかった場合等)、はり・きゅうの施術を受けることを認める医師の同意がある場合です。

はり・きゅうの施術について健康保険による給付を受けることができるのは、医師による適当な治療手段がない場合のみです。
したがって、はり・きゅうの施術を受けながら、並行して医療機関で同じ傷病の診療を受けた場合は、はり・きゅうの施術は、健康保険扱いとはなりません。

※医師から薬やシップを処方された場合も、治療行為となり、はり・きゅうの施術は健康保険扱いとはなりませんのでご注意ください。

 

3
定期的に医師の同意が必要です!

健康保険を使って継続して「はり・きゅうの施術」を受けるには、6ヵ月ごとに文書による同意が必要です。医師の同意のない施術は、健康保険の対象となりません。

(協会けんぽHPより抜粋)

 

―鍼灸治療を行われるにあたって、医師の同意書が必要とされている今の制度についてもご意見があればお聞かせください。

以前よりは業団の努力により緩和されてきていますが、残念ながら、いまだ同意書撤廃には至っていません。鍼灸師のレベルアップは当然のこと、医療連携の一層の充実をはかるために厚労省に積極的に関与推進していただき、医師の方々に鍼灸師という存在を医療の一翼を担うに値する職種であることを認めてもらわないと、同意書の撤廃は難しいのが我が国の現状だと思います。

 

―業界の課題及び今後について

最近になりNHKで「東洋医学のホントのチカラ」と題して、鍼灸や東洋医学に関しての特集が放映されるようになり反響が広まっています。やはりメディアの力は大きいと実感しています。

鍼灸も柔整共に、もっともっと医療として優れていることを一般の方に広くアピールしていくことに腐心すべきと常々思いますが、日々臨床に追われている身としてはなかなか広報活動に手が回らないのが現状です。この辺の共同打開策が若い世代の鍼灸・柔整のメンバーで、活発な意見交換をしながら大同小異での業界発展に尽力してもらいたいと思います。

 

―IT医療が行われるようになっている昨今、それに対局にあるのが鍼灸治療や接骨院の治療と思います。その辺というか今後の医療の在り方について、何かご意見があればお聞かせください。

コロナ禍の中でオンライン治療もスタートしました。患者様の状態をお聞きして、効果の上がるツボをお教えして、ご自身でせんねん灸をすえていただくという試みも始めました。今後、対面消費が減少するような状況が再び起こるようなときに備えて、そのような取り組みも活発にしようと考えておりますが、基本は対面の業種ですので、これから先の人口減少や再びのパンデミックが起こった時には業界にとって深刻な問題と考えております。

がしかし、いつの時代も本物は必ず生き残るものです。

今こそ治療家我々が自信に満ち溢れた確固たる技術を磨き上げることが肝要と思われます。

 

―郷先生は、2020年に「1回の治療で痛みが消失した帯状疱疹」と題して症例報告を発表されていらっしゃいますが、その内容についてかいつまんで教えていただけますか?

キーコスタイルの松本岐子先生の師匠であられる長野潔先生の治療法のひとつに気水穴処置法というのが、帯状疱疹の治療にきわめて著効をあらわします。(詳細は鍼灸臨床わが30年の軌跡 医道の日本社刊 参照)

 

―郷先生が推奨されている「長野式キーコスタイル治療法」についても教えてください。

長野潔先生の治療法を発見され、その多くの教えを受け継ぎ、長野式治療法を世界に広め、「長野式と言えば松本岐子先生」と言われる、長野潔先生の愛弟子です。

世界屈指のハーバード大学医学部から招聘され、現在、付属のベス・イスラエル病院で、ハーバード大学医学部の医師や学生に長野式治療法を中心とした東洋医学を、夫のディビット・ユーラー氏と共に教えられています。また、博士課程の鍼灸専門学校やイスラエルの大学医学部でも招聘依頼を受け、アメリカの多くの州、カナダ、イギリス、オランダ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、イスラエル、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチン、日本で、教鞭を執られたり、セミナーを精力的に行い、「キー子スタイル」として世界的に有名です。(セミナーのいくつかは、医師に対してであり、彼女のセミナーのほとんどに、鍼灸師ばかりでなく、多くの医師や他の医療関係者が参加されています) 後ろ盾になる組織もなく、「博士」などの肩書きも持たず、自らアピールすることもなくここまで至ったことが、松本岐子先生の鍼灸の実力の凄さを如実に示していると思います。古典の造詣も非常に深く、『医道の日本』誌に単なる古典ではなく、解剖学、発生学など様々な分野を縦横無尽に駆使し、独自の古典の世界を展開しています。

長野式治療法を中心とした、「キー子スタイル」の総決算とも言うべき著書『Kiiko Matsumoto's Clinical Strategies … In The Spirit Of Master Nagano:Vol.1』がようやく完成し、長野式治療法を学ぶ方々には素晴らしい贈り物となりました。現在も精力的に、長野式を中心に鍼灸の素晴らしさを世界に広め、古典の奥義を極めんとしています。そして、いつも日本の若者に、「鍼灸って素晴らしい!古典って凄い!」と檄を飛ばしています。

 

―最後に、これからの熱中症対策について治療家の立場からアドバイスをお願いします。

養生訓にはこのように書いてあります。養生訓とは、江戸時代を生きた儒学者※1であり、医者でもある貝原益軒(かいばらえきけん)によって、健康で長生きするためのエッセンスが書かれた書物です。「夏は、発生の気いよいよさかんにして、汗もれ、人の肌膚(きふ)大いに開く故外邪入やすし。涼風に久しくあたるべからず。沐浴の後、風に当るべからず。且夏は伏陰とて、陰気かくれて腹中にある故、食物の消化する事おそし。多く飲食すべからず。温(あたたか)なる物を食ひて、脾胃をあたゝむべし。冷水を飲べからず。すべて生冷の物をいむ。冷麪多く食ふべからず。虚人は尤(もっとも)泄瀉(せっしゃ)のうれひおそるべし。冷水に浴すべからず。暑甚き時も、冷水を以(もって)面目(かおめ)を洗へば、眼を損ず。冷水にて、手足洗ふべからず。睡中に、扇にて、人にあふがしむべからず。風にあたり臥べからず。夜、外に臥べからず。夜、外に久しく坐して、露気にあたるべからず。極暑の時も、極て涼しくすべからず。日に久しくさらせる熱物の上に、坐すべからず。」要は、夏こそ日ごろから体を外からも中からも冷やさず、胃腸の働きが低下する季節なので、消化に良いものをよく噛んでゆっくりと食べることが大事になります。その上で現代的に 室温が28℃を超えないように、エアコンや扇風機を上手に使いましょう。

水分補給するときは、水道水やお茶ではなく、スポーツドリンクを飲むようにしましょう。
のどが渇いたと感じたら必ず水分補給。
のどが渇いてなくてもこまめに水分補給。

※1
儒教を自らの行為規範にしようと儒教を学んだり、研究・教授する人のことである。一般的には儒者(じゅしゃ、ずさ)と称され、特に儒学を学ぶものは儒生(じゅせい)と呼ばれる。

 

 

 

●郷 宗知(むねちか)氏プロフィール

出身:神奈川県横浜市
経歴:日本鍼灸理療専門学校本科1998年卒業
研修履歴:広州中医学院、八綱療院、都内整形外科
所属師会:公益法人日本鍼灸師会、東京都鍼灸師会元常任理事、渋谷区鍼灸師会元副会長
専門資格:公益社団法人日本鍼灸師会臨床研修指導者講師
趣味:読書、ゴルフ

 

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