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ビッグインタビュー 【新・柔整考⑩】 業界内外の声をお聞きする!

2024/05/01

加速する高齢社会。中でも医療従事者の役目は益々重要である。JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院の病院長・鎌田修博氏は脊椎外科の指導医であり、しっかり患者さんを治す医師や理学療法士にとって、また患者さんにとってもかけがえのない方である。しかも、皆平等であるという崇高な精神の持ち主である。整形外科医の役割と医療従事者の役割についてお聞きした。

患者さんの疾患を治すことに全力を尽くすのが私たち 医師の使命です!!
JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院 病院長 鎌田修博  氏

JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院 病院長 鎌田修博  氏

 

 

―鎌田病院長は、医師、柔道整復師の方達を分け隔てなく医療連携されていらっしゃいますが、その理由やお考えについてお聞かせください。

患者さん中心に考えた場合に、僕の専門領域は脊椎なので、肩が凝ったり腰が痛かったりという患者さん達の症状を治すことが仕事です。僕の出来ることは、例えば薬であったり注射であったり、或いは手術だったりしますが、肩こりや腰痛が残った場合は如何するのか。注射しても良くならないと患者さん達は困るでしょう。そうであれば、みんながかかって良いと言っているマッサージも治療の一環として一緒に併用したら良いのではないかという観点で考えています。開業医の先生達はそれを行っていませんが、そういった患者さん達を治療している関係上どうしても柔道整復師の方達をライバル視してしまうようです。しかしながら僕ら勤務医のスタンスからすると、私たちの治療で症状の残った患者さん達を開業の先生方にお願いしても、マッサージ等はやらない施設が多いのです。それは、自費では保険上出来ませんし、ちゃんと理学療法士を雇って、しっかりやっている所であれば良いとは思いますが、そうではない所が大半です。結局実際にやってくれるのは接骨院のほうなので、酒田先生みたいな真面目な柔道整復師の方にお願いをすれば、開業の先生達より逆に良いのではないかという考えも実はあります。患者さんにとって一番良い方法は何かという観点からすると、僕ら病院の勤務医からすれば柔整師は決してライバルではなく協力できる、協同のチームになれる相手であると考えられます。勤務医と開業医ではそもそも医療に対しての捉え方が違うのでしょう。

 

―以前、鎌田病院長は、柔道整復師の酒田達臣先生と共同講演をされ、また本年3月3日に開催された関東学会でもご講演されました。その講演で〝腰痛は1ヵ月もすると治るが、残念なことに6割の患者さんが1年後もまだ痛みが残っており慢性化してしまうという研究データもある。慢性化してしまうと日常生活にも支障が出てきてしまうため、3ヵ月以内に治すことが非常に重要である〟と話されました。3ヵ月以内に治すためにはどのような対処の仕方がありますか?

腰痛の原因も多種多様ですので、全てに万能な治療法というのは無いでしょう。どのような原因の腰痛でも、ある程度良くなってから改善が頭打ちになってしまうこともありますし、逆に良くなったと思って、ちょっと無理をするとまた元に戻ってしまうということもあります。だからと言って指示を守って安静にしていれば大丈夫なのかというと、そうでもないので腰痛の治療は非常に難しく、中々一筋縄ではいきません。また同じ腰痛でも急性期と慢性期では治療法も異なるのでそれぞれに適した治療を選択しなければなりません。しかし一般の方は腰痛を一括りの疾患としで考えられるようです。僕らからすると腰痛というのは、症状の一つで、いろんな病気の症状の一つでしかないけれども、一般の人からすると「腰痛」というのは病気の診断名みたいになってしまっています。ある人にとっては、腰痛イコール腰部脊柱管狭窄症であったり、ある人にとっては腰痛イコール椎間板ヘルニアであったりします。従って、その辺りは、プロの考え方と一般の素人の方の考えや思いは、少しズレているところもあると思います。

 

―同講演で〝骨粗鬆症になると大腿骨頚部、脊椎、上腕骨頚部、橈骨遠位端などを骨折しやすい。椎体骨折は既存骨折数が多ければ多いほど、発生率も高くなる。また大腿骨を骨折すると、骨折後は50%が歩けなくなり、25%が施設に入所、20%が1年以内に死亡するというデータもある。骨折してもすぐに死亡するわけではないが、骨粗鬆症患者への注意喚起は重要となる〟とも話されていますが、骨粗鬆症の方はそういった骨折をあまり意識していないかもしれません。どのような注意喚起をすると良いと思われますか?

骨粗鬆症自体には症状がないんです。骨粗鬆症の自覚症状の一つに身長が縮まって、低身長になってしますことがあります。これは背骨に「いつの間にか骨折」というのが起こっていて、背中が丸くなって縮まってしまうということが原因です。しかし痛いとか痺れるとか自覚症状はなく骨密度を測る検査を受けないと確定的な診断をつけられません。また、もう一つの診断基準は、骨折したら骨粗鬆症であるという診断です。ということは、痛い思いをしないと診断がつかない。その結果半分歩けなくなってしまうというデータが出ています。従って医療者側としては医学的には無症状だけど骨折しないような治療を受けてくださいということが一番重要なんですが、中々その周知が行き届いていないのが実情です。

 

―鎌田病院長は転倒予防について、どのようにお考えでしょうか?

転倒予防という観点は、いま整形外科学会では「ロコモシンドローム」になります。ロコモにならないようにするための「ロコモ体操」があります。僕は患者さんがそうならないために外来で出来るだけパンフレットを配るようにはしています。実際にはロコモ体操のパンフレットで片足立ちを何回とか、そういったことを患者さんにはいろいろ指導しています。ただ「ロコモ」という概念があまり周知されておりません。学会で調べても認知度は40%位ですので、全然「メタボ」に較べると負けているんです(笑)。 高齢者の中の認知度調査を学会では行っていますが、ロコモは40%をなんとかクリアできています。「フレイル」や「サルコペニア」については20%を切っていますので、「ロコモ」は未だ頑張っているという自覚は多少あります。フレイルにならないためにもロコモで頑張りましょうという意味合いもありますし、整形外科学会としては、そういう観点でフレイルの手前の状態でなんとか阻止しましょうというキャンペーンを進めています。転倒しないように運動することは勿論ですが、なおかつ骨粗鬆症にもならないように治療しておけば、万一転んでも骨折しなくなります。転んでも骨折しなければ良い訳です。転んで一番困るのは、骨折して歩けなくなって、寝たきりになってしまうことです。健康寿命延伸にはそこのところを回避することが最も重要です。

 

―酒田達臣先生は、柔整考の⑧で、〝鎌田先生と20数年間に亘って連携させていただいてきて、様々な重度の脊椎外科患者さんの手術を執刀していただきました。多い年は年間10例の脊椎手術を行って頂いたこともあります。手術適応ではないと判断されたその他多くの患者さんも含めて、紹介した患者さんお一人お一人に鎌田先生と僕とで共有する思い出深いドラマがありました。何百人にも上るこういった患者さんを介したやり取りを通じて、僕は鎌田先生には医学的技術的な面だけでなく人間的にも全幅の信頼を置くようになりました〟と話されました。鎌田先生にも思い出深いエピソード等ありましたら教えてください。

僕としては、患者さんのことをしっかり診て、いろんな所見を紹介状に書いてくれる柔道整復師の人というのは、酒田先生が初めてでした。そういうキチッと患者さんを診ようとする姿勢、紹介状に書いてある内容を見ると、いろいろなことを患者さんとのやり取りの中でチェックしていることが分かります。そういう紹介状を見ると、この半分も診ていない開業医が沢山居ますので、そのような先生方には少し見習ってこのくらいきちんと患者さんの診察をしてほしいと思います。僕の中ではいつも酒田先生の紹介状を見る度にそのように思っています。〝ちゃんと患者さんを診察しないと駄目だよ〟〝あなたはレントゲンだけ診て治す医者になるの?〟と自分の部下達には事あるごとに言っています。〝患者さんの痛みは如何なの?〟〝身体所見はどうなのか?〟と、聞いても問診も不十分だったり何も診察していなかったり、ただレントゲンを撮っているだけのことが多々あります。レントゲンの異常は分かったけれども、痛みの原因が分からない医者になってしまうよと言っています。そういう医者を作らないためには酒田先生みたいにキチッと患者さんと接して所見をとることが一番大事です。そういった観点から言うと、そういうことが出来る接骨師の人が居るということは驚きでした。時間に追われているということについては、患者さんが多ければそうかもしれませんが、でもそれはダメだと言っている訳です。少なくとも初診の段階、或いは再診の時に患者さんから新たな訴えが出たり、症状が変わったりした時には、ただレントゲンを撮るだけではダメで、ちゃんと診察をして、何所がどのように、最初と違うのかという所見をとらない限りは分からないんです。レントゲンを撮っても分からないことがいっぱいあるのに、話しを聞いて、〝はいレントゲンを撮ってきて〟というのは一番ダメだと言っています。医師達が時間が限られているというのも確かですが、そういうことではいかんというのが、僕の基本スタンスです(笑)。

 

―JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院では理学療法士さんのみを雇われていらっしゃるのでしょうか?柔道整復師さんの雇用についてはどのように思われますか?

僕の同級生で足利で開業している医者がおります。彼の所は理学療法士と柔道整復師と半々くらいではないかと思います。上手く共存させているように思います。彼のクリニックに手伝いに行って、こうやって柔道整復師の人達を使って、理学療法士の人も使ってということが出来るんだなということは其処で勉強させてもらいましたし、初めてそういう発想があることに驚きました。資格がある、ない等あるんでしょうけど、患者さんにとっては、最終的には自分と接してくれている人がどれくらい良くやってくれているかということが一番重要です。だから柔整師本人に能力とやる気があるか無いかは重要です。しかしながら整形外科の開業の先生達は基本的には柔道整復師の人達とは相容れないスタンスなので、雇っているというだけで爪弾きにされてしまう可能性もありますので、表立って雇っている人は少ないと思います。

 

―鎌田先生は、日本勤務整形外科勤務医会の会長、日本整形外科学会の副理事長もされてましたし、また脊椎の指導医をされていらっしゃるとお聞きしました。若い整形外科医にどのような指導をされていらっしゃるのでしょうか?

当病院もそうですが、慶応の整形外科の医局からローテーションで回って来る先生が多い訳です。何人かはもう殆ど其処に就職した形で移動はなくなりますが、回らないと公平ではないため若い時はいろいろ回るんです。医局に入ってずっと同じ所に居ると、良い所に行った人は良いけれども、悪い所に行った先生には不公平が生じてしまうので、一定期間4年間は1年ずついろいろな所で研修をします。施設の手術件数や、何所が専門の人が多い等、いろんな情報を医局が全て把握していますので、施設を3か所、4か所回ることで、公平化を図れる訳です。そういうローテーションで回っている最中に、整形の中で膝をやりたいや肩をやりたい等専門分野を決めていきます。中には脊椎を私のように専門としてやりたいという人もおります。夫々の学年によって、指導するレベルが違います。若い人に手術のことを教えても経験が少ないため、一応やらせてはいるけれども、夫々のレベルに合わせて指導します。ただ根本は先述しましたように、患者さんの症状を治すことが重要なので〝君は脊椎外科医であるから患者さんの痛みをとらなければダメだよ〟と指導します。医師の中には手術をしても痛みが取れないと、レントゲンは完ぺきに治っているので、痛みが取れないのは患者さんが悪いからなので、もうやることはないから別の医者に行ってくれと見放す医者もいます。腰が痛いとか足が痛いとか、痺れるとか症状を治す訳で、画像でここが悪いからここを治すという人は、コンピュータ屋さんだよと若い医師には話しています。患者さんを診察して、その結果こういう画像所見と整合性が取れて、此処を治すと症状がとれるという確信が持てるのであればそれをやりなさいということを大事にしています。そうじゃなければ、手術を終わった後に、〝先生こんなにレントゲンとMRIが綺麗になりましたよ〟〝患者さん良くなったんだね〝イヤ変わっていません〟ということがなくならないので。そういうのが一番ダメなんです。患者さんは痛い思いをして手術をしたにも拘わらず、症状は治っていない。そういうことをする医師は脊椎外科医とは言わないと言っています。当たり前のことです。人の体にメスを入れるんです。脊椎というのは、足が動けなくなってしまうリスクが高いので、そういうリスクを患者さんとお互いに共有しながら手術しているのです。手術が終わったのにすぐには良くならないことも確かにあります。手術までに長期間経ってしまった場合などには、手術をやっても直ぐに治らないかもしれませんが、それでも段々良くなるのが分かっているから、患者さんにはよく言っておくようにと伝えています。僕の中では、患者さんの症状をちゃんと治せる医師になるということを若手の指導では一番大事にしています。その治すための手段として、手術のスキルを教えて欲しいというのであれば、勿論教えます。画像のここのところが曲がっているのを真っ直ぐにするにはどうしたら良いですか?と言われたら、〝それを真っ直ぐにすれば、この痛みが治るんだね〟〝治ります〟〝ならOK〟って、そのやり方を教えることにしています。

 

 

 

●鎌田修博(かまたみちひろ)氏 プロフィール

1982年、慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。慶応義塾大学医学部客員教授、一般財団法人神奈川県警友会けいゆう病院副院長を経て、2020年より現職。日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医・名誉会員、東日本整形災害外科学会、日本脊椎脊髄病外科学会指導医・専門医、日本脊柱脊髄学会、日本側彎症学会、関東整形災害外科学会。

 

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