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ビッグインタビュー 【新・柔整考⑥】 業界内外の声をお聞きする!

2024/01/01

―やはり以前のインタビューで白木教授は、学会の役割として、捻挫・骨折・脱臼について、無血療法のどの方法であれば回復していくのかといった疫学的な研究を行うべきであると。また、徒手療法なのでマニュピレーションでどういう影響があるのかについての研究もあると良い。それが柔整の生きる道であり臨床研究だと思います、と述べておられます。研究に関しては、疫学者や科学者がメンバーに入っていないともう対応できない時代になっているとも述べられていますが、その辺は如何でしょうか?

今回の学会の抄録の中身を見ましたが、結構そういった効果判定をした研究がありました。それは有明医療大学とか明治鍼灸、帝京大学の卒論や修士論文での研究でした。ということは、センシビリティを持っている柔整の先生方が大学に居ます。其処があるので、これから良い方向になっていくかなと見ています。これをやらない限りは進歩がありません。医者でもそうですが、臨床医は、基本的には基礎研究はせず、臨床研究が主となります。柔整もそうで、今まで臨床しかなかったけれども、大学制度が出来て、その先生方が学生に論文を指導したり、自身で論文を発表したりしているので結構面白いのがありました。柔整の研究には、疫学研究が必要だと考えていましたので、去年の学会でスポーツ柔整分科会のセッションで疫学の専門家に講義をしてもらいました。ちょっと皆さんに難しかったというか、大学の先生であれば疫学、統計学は当たり前です。ただし、人間を扱った判定はちょっと難しいんですが、統計学を使えばエビデンスになります。それを現場というか、実際にやっている接骨院の先生と組めば絶対に可能です。

筑波大学には以前から鍼灸科がありますし、筑波大学理療科教員養成施設も茗荷谷の筑波大学東京キャンパスにあり、其処は昔から鍼灸の研究をしていて、かなり研究が進んでいます。筑波の場合は、目の見えない方のために技術を身に付かせるということで盲聾学校があり、その流れで研究室がある訳です。成り立ちはどうであれ、やはり研究をしていますが、柔整にはそういう所がありませんでしたが、大学ができて、研究が行われてきたことは好ましいことだと思います。

 

―何故、接骨院にかかるのかというアンケートを行うという話を聞いていますが、如何思われますか?

つまり、商品の販売促進戦略と同様で、消費者の嗜好動向調査により商品を開発することです。〝私は整形外科に行くから接骨院はなくても良いんじゃない〟という意見が多い場合には、大変です。しかもこれは公表しなくてはなりません。ただし、実は家の周りに山ほど整形外科があるし、接骨院に行っても意味ないからっていう人は多分いません。何故居ないのかというと、病院へ行くと先ず待たなければいけない。待って、ちょっと先生に診てもらってレントゲンを撮りました。なんともなかったですよと、後はお薬出しておきますというのは基本です。しかし柔整の場合には、その人の生活に入っていくんです。〝家ではどういうことをしていますか?〟と、手を差し伸べるだけではなく、ライフスタイルの中で治療するための生活指南(養生訓)を処方してくれます。柔整は生活リハビリテーションを教えてくれるので、其処が柔整の一番凄いところで、誰も言っていない。それを言ってくれるのは実は患者さんかもしれません。柔整に行ったら、先生は患部を触ってくれるし、ホッとしますというのは、心理学で言うと、動物に癒されると一緒で、其処のところを柔整がやっているのです。病気で、体力が低下してネガティブになっているところを、もう一歩前に出ましょうということをしてくれる心理的な役割もある訳ですが、実はこれに関してもおっしゃっている方は少なく、研究も多くはないと思います。私たちは、手で触る無血療法ですとは言いますが、触ったらどういう効果があるんですか?というところに着目した人が居ません。これは心理学では当たり前のことで、其処のところ、町の心のお医者さんみたいというのも1つの方法としてあって、やはり心理医学者と柔整の関係というのを改めて見てみる必要もあると思います。手っ取り早いのは、患者さんに〝何故柔整に来たんですか?〟と聞くだけでも良いし、そういうアンケートは必要だと思います。やはり患者さんに寄り添ったというところを評価した上で、変わろうとしていると思います。いろんな方面から患者さんへのサポートをしていくのが柔整です。

 

―選手の痛みを軽減させて、筋力や持久性、柔軟性の向上等をはかって競技に戻す、ATと称されているが、本当はコンディショニングコーチである。またコンディショニングコーチは、トレーニングの専門家であって、治療の専門家であってほしい。現場ではそういう人間が絶対に雇われる。それは外傷に強い柔整であると話されました。そのお考えは今も同じでしょうか?

それは変わりません。柔整というと接骨院をかまえているイメージですが、しかし本来持っているものは救命救急士の役割も担っています。交通事故、スポーツ活動中の突発的な怪我の場合、如何するの?僕らは無血療法だから開放性のものはダメですではなく、そういう時に救急救命士は、その場で手当をします。止血しなければいけないし、死ぬかもしれないのです。柔整は、そういった能力の一部だと僕は思っていますし、柔整の方が救命救急士だったらベストです。僕らトレーナーは、救急救命を必ずやらなければならないし、その資格も持っていますが、柔整の先生からは〝僕らはそんな場面に遭遇することはないから〟と言われます。しかし、スポーツの事故があったとします。その時の適切な対応は、救急救命士の能力と柔整師の能力が両方必要となります。外傷の場合骨折かどうか不明でも、最悪の場合を想定して柔整師の専門的固定がなされます。整形外科で診断を受けますが、その後、柔整で後療法をするにしてもPTのもとでリハビリテーションするにしてもその時の整形外科的処置は適切で、そのために早期治癒となることが有り得ると考えます。少なくとも柔整師も日赤の救命救急は学んでほしいと思っています。このように、突発的な事故があってもその後の対応も柔整師はトレーナーとほぼ同じことをおこなっていると思います。やはり、柔整師はトレーナーなのです。

 

―スポーツの指導者として日大の問題をどのように思われますか?

今いる学生達が〝日大です〟と言った瞬間に就職が無くなる場合があると聞いています。真実は定かではありませんが、本当に学生が可哀想です。話がどんどんすり替わっていってしまっています。皆さんが仰る通り、アメリカンフットボール部の部長・監督が出てこないのはあまりにもおかしい。〝申し訳ございません、私の監督不行き届きです〟と先ずあって、〝何も関係ない学生には部活動を続けさせたいと思っています〟と言えば、日大は守れます。以前、アメフトの違法タックル問題がありましたが、今あの選手はプロでやっているようです。私立のスポーツ特待生は、授業料等の免除があることもあります。その場合、4年間授業料タダです。しかも強い大学であれば、次の就職先は既に企業に決まっていることもあります。廃部になってしまうと〝君は推薦だけど、もう無いんだから授業料を来年から払うように〟って言われたら大変です。それをフォローしてあげないとどうしようもない。推薦で入学し、授業料免除となると親御さんは有難いけれども、こういうことが起きたら目の前が真っ暗です。本当にそれは可哀想だなって思います。何とかしてあげたいですね。

 

―スポーツコンプライアンスについて皆さん熟知されているのでしょうか?また相談に行く所はあるのでしょうか?

ありません。スポーツコンプライアンスというのは、いろんなことがあり過ぎてちょっと難しいんですが、例えばパワハラ、セクハラ問題。他には選手選考で、日本代表を選ぶ時にあまりにも不当だという場合に訴えたりする訳ですが、多分コンプライアンス協会であれば、弁護士が居るはずです。弁護士が居て、スポーツの中のいろいろな訴訟問題を取り扱う、その相談窓口になったりする所がコンプライアンス協会だと思いますが、財源が何所にあるのかが解らないので、バックに企業があるのであれば、何人か職員も置けますし、当然担当弁護士を置いています。その時にもお金をちゃんと払ってくれていないと協会が成り立たないです。確かにセクハラ、パワハラ問題等いっぱいありますので、それは必要です。あとは、いまスポーツの中でオリンピックに行くのに世界に出ていかないとポイントが取れないルールになっています。もし選手が、〝世界に行くお金がありません〟ってなった時に、なんとか然るべき方法で、例えば奨学金を出すから、これで外国に行ってポイントを取って、何年間で返済すれば良いみたいなことを、そういう相談にものる所があればと思っています。僕はそれを選手から聞くこともありますし、じゃどうしたら良いでしょうねという時に相談する所が本当に無いんです。

 

―勉強会についても教えてください。

私が現職の教授の時は、週に1度必ず「終わりのない勉強会」をやっていました。殆どの学生(学部学生、大学院学生)がクラブ活動に参加しているので、夜7時から始めて、終わるのは夜中の1時くらいです。1つの話題にみんなが意見を言い合います。論文の時期になると、論文の作成状況でプレゼンをやりますが、やはり1つの話題になった時に限りなく意見交換をします。物事ってこうやって考えるんですねっていう話を後からしてくれた子が居ました。教科書通りにやるのではなく、先ず教科書を批判するんです(笑)。これ正しいかな?モノってこうやって考えて、今ある情報を見て、正しいと思えたら前に進むのが良いんです。つまり鵜呑みにしないということです。例えば今ある現象で膝の怪我が多いというのは本当かな?と。それは疫学調査だろう、先ず調べてみて本当にそう思ったらその研究をしてみたらどうかとして、そこからアンケートが始まるんです。これだけで論文になると思うみたいな話をして、一つの形にするにはちょっとでも出来ますが、全部纏めて行うのは生涯の研究で、2、3編の研究を積み重ねると博士論文になるよみたいなことを毎週毎週ずっと行っていました。

 

―今後AIは、スポーツの世界にどのような影響を及ぼすでしょうか?課題等も教えてください。

AIは間違いなくスポーツを進化させます。間違いなく良い方法、無駄のない方法を示してくれます。これをやったら、次はこれを行こう、次これ行こう、じゃこういう練習をしていこう、と。今の疲労度は多分これくらいになっているから、今日はこの通りにしてくださいという指針を間違いなく出してくれます。というのは、今までの失敗例があるからです。失敗例を失敗しないようにしてくれるから其処の指針は出来ます。具体的に何をするかについてもAIが出します。何時間休みましょうや何を食べましょうとか、それが出てきた時に人間に接するのはAIではないので、人間がそれを伝えます。でも第三者委員会のような〝其処はちょっと違うんじゃない〟という人が居ないと駄目です。AIはこう言っているけど、顔色は違うぞみたいな。AIのメニューはこれだけど、今日はこれにしておこうということが出来る優秀なコーチが必要です。そのAIの失敗例とか成功例のデータを誰が如何使うか。成功例は出たとしても、これが難しいというのは出さないんです。例えば何日目にこうやってこうやって365日こうやったら、次の年の何月に最高記録が出ましたと。ただしこの中身をキチッと記載しているかというところは凄く微妙でAIは其処を迷うのではないかと思います。即ち、練習日誌とかコーチのトレーニング日誌、選手の書き込んだモノ、これをどれくらい客観的に見れるかどうか、全て主観で書かれたものを客観的にデータ化して、それをAIに読ませる。これについては僕らの臨床も同じです。現場で見ていく時に、こいつ今日は遅いな、今日ちょっとタイミング違うぞ、この言葉を如何するかです。何が違うかなんて解らないんです。それを入力するということは、例えば右手のタイミングが遅いっていうデータを入れたら、AIは読みやすい。1年間、右手がおかしいや右手が遅い、左手が遅いというデータがあるが、4月5月は右手が遅い、6月7月は左手が遅いって言っているという風にしてAIがちゃんと区別をしてくれたら、この時期はこうでしたから、右手注意とか、其処までデータが無いとAIもどうしようもないかもしれません。AIってそういう意味でカテゴライズしてくるので、それと日時とか選手名とか選手のパフォーマンス力を併せてくれたらAIって凄いです。

 

―AIは良いほうに導いてくれるとお考えですか?

はい。基本的にはデータの入れ方です。慣れてくるとAI任せをしなくなりますが、AIがかなり知恵のベースを創ると思います。しかも生活する中でもこういう風にした方が良い、ああした方が良いって言うのがある程度、適正化されます。しかし〝AIが言っている通りに食べているのに私なんでこんなに太っているの?〟ってなれば、AIへの不信感が出ます。分析した入力データの信憑生が疑わしい時にそういう問題も出てくると思います。スポーツの場合は、有効で適切なデータを入力して、それを分析してもらえば、かなり速く上達します。しかも何所に居ても出来る、地方に行っても出来ます。大谷選手見たいな、凄い選手が居たとします。なんだ簡単じゃん、なるほどなるほど、じゃこの方法で先ずやってみよう、と。問題なのは、そこにコーチが居るかどうかです。このコーチがかなり能力が高くないとその選手をダメにしてしまう。多分、授業の中にAI適用法やAI応用編みたいなものが出てくると思っています。技術系のトレーニングはちょっと難しいけれども、体のほうのフィジカルトレーニングは、絶対に出来ます。100メートル何秒といったデータを全部入れていくとピッタリ当たって、パンと出てきます。やはりデータを如何入れていくかという其処は、コンピュータの専門家とコラボすれば、僕は行けると思います。

 

―スポーツの課題について

これだけお金のない時に、パラスポーツをどうやって擁護していくのかを考えています。パラスポーツを行うのに、2倍3倍の健常者の人が必要です。人口が減少していますし、ボランティアでやれていくかどうかが一番の境目です。つまり、ボランティアではなく、手伝ってくれる人に対価を払ってあげないとやれなくなってきます。パラスポーツを擁護できるだけの国の力があるかどうかです。実は其処にかかっています。しかしパラスポーツは絶対継続し続けなければいけないと思っています。何故かというと、パラスポーツにはスポーツの楽しさがあります。それを体験できて、そのために頑張るという生きる希望を与えてくれるパラのスポーツは、非常に重要です。ただし誰が、何所がそれにかかる費用をキチッと捻出できるのか?パラのスポーツ選手は毎日練習しています。車椅子を誰が運ぶのか、誰が車に乗せていくのか?本当は国、企業プラス大金持ち、申し訳ないけれども、あしながおじさんです。例えば、いま職のない人がいます。そこに付けましょうっていうのも雇用としてアリだと思いますし、パラスポーツを中心にして、ある意味みんなが潤っていく、パラスポーツをやっている人は希望が持てるというような社会になるのが理想です。 東京オリンピック・パラリンピック2020が終わってから異変があったのは、スポンサーがいっぱい下りました。2020を1つの目標にして企業は頑張ってきた訳ですが、この円安等で頑張れなくなったんです。切りたくないんだけど切らざるを得なかったということもあって、その補填は国が出来るのか?日本の国として、これが出来たら凄い国です。もう1つ、パラのプロスポーツ選手は、何人か居ます。あの人達は何故プロになっているかというと手伝ってもらう人のために払うからです。一緒についてくれている人が居て、これで僕はパラが出来ています。頑張りたいのでスポンサーをお願いします、となっています。プロの意味が明確で、自分だけのためにだけではない。だからプロになるんですが、ちょっと弱くなってしまうと経済的サポートは徐々に手を離していきます。今、パラスポーツ専門のトレーナーを養成しているところもあり、かなりの専門的要件を必要とされ、時間もかかります。其処に行っている人もおりますが、自分の仕事が出来なくなるので、結局やっていけなくなるんです。そうなった時に誰が保障するのか?国もやりません。パラの場合は遠征に帯同していくと本業に影響することが多くあり、結局、仕事になってしまうので、ボランティアで行うことは現実的に難しくなります。パラスポーツに関係している方々に対しての何らかの補償があっても良いのではないでしょうか。例えば、1年間パラのサポートをしたら、介護士の免許を与えますというようなものがあれば、将来の希望も持てるのではないでしょうか。いずれにしても、パラスポーツが前進するような社会になっていくことを望みます。

 

 

 

●白木 仁(しらきひとし)氏 プロフィール

1957年、北海道生まれ。1979年、筑波大学体育専門学群卒。1982年、同大大学院体育研究科体育学修士修了。1991年、筑波大学体育科学系にてスポーツ医学講師。同大人間総合科学研究科スポーツ医学専攻教授、筑波大学体育センター長を経て、現在同大学名誉教授。著書:スポーツ外来ハンドブック(南江堂)、スポーツ外傷・障害とリハビリテーション(文光堂)、コンディショニングの科学(朝倉書店)、スポーツ整形外科(メディカルビュー社)、アスレチックトレーナーのためのスポーツ医学(文光堂)、ゴルフストレッチング(新星出版社)、スポーツマッサージ(成美堂出版)、ゴルフカラダを作る(ゴルフコンディショニング)(新星出版社)、驚異の1分間コアトレーニング(学研パブリッシング)、トップアスリートがなぜ「養生訓」を実践しているか(PHP新書)、他多数。

 
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