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ビッグインタビュー:
(一社)スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事・武藤芳照氏

2019/01/21

―悪質な事例について対処すべきことや注意すべきことがありましたら教えてください。

大事なことは競技ルール違反で、本来はスポーツの現場で対処、完了しなければいけない事案について、警察や検察等の介入をさせてしまうと話が複雑になり過ぎて、本来的な解決を遠のけると思います。譬えていうと、日大のアメフトの悪質危険なタックル、流行語大賞の候補にもなった「悪質タックル」ですが、本来ならあの事案は、競技現場において審判が〝そんなに危ないプレイはダメだ〟と、其の場で止めさせれば終わった事です。そしてまた、相手の関西学院大学の監督も〝うちの選手に何をするんだ〟と審判に抗議にいき、相手に抗議をすれば、あれは間違いなく危ないから学生スポーツではないと日大の監督と選手が関西学院大学に行って〝申し訳ありませんでした〟と頭を下げていたら終わっていたのです。審判も何も言わなかった、関西学院大学の監督もキャプテンも動かなかった。しかし、相当時間が経ってから顕在化し、なおかつ警察まで入れてしまって話がどんどん複雑になってしまいました。

元々はスポーツ競技現場で解決出来る話だったのです。毎日リピートして映像を流していましたし、悪質なプレイであることは間違いありませんから、厳重に処分をすべきことです。競技規則に基づいて「2年間出場停止」とか「1年間資格停止」等、学生に反省文を書かせて〝こういう勉強をしてきなさい〟といった教育的指導がなければいけないのです。それについては、大学の中のルールで決めていけば良い訳で、それを警察に行ったり、東京地検に行ったりというのは、あり得ないことです。本来はあのプレイグラウンドで解決すべきことです。この事案以外の他の連盟の事案でも「第三者委員会」が当たり前のように出来て、最後に第三者委員会の委員長を任せられた弁護士の方が記者会見をして終わるという、それもおかしな話です。協会や連盟の中には必ず理事会があって監事がおりますので、理事会が動かなかったら監事が動くべきで、監事が仕切って、第三者委員会の委員長が〝監事としてこういう決裁をします〟という報告を受ける。監事が定款に基づいて処置をするのであれば、それは文句の言いようがないんです。ということで、私は流行語大賞に「第三者委員会」を入れてほしいと思っています(笑)。

 

―他にも女子レスリングのパワハラ問題、日本ボクシング連盟・会長による判定、また体操協会、日大水泳部、東洋大陸上部なども取り沙汰されて世間を驚かせております。貴機構ではどのような取り組みをされていらっしゃるのか教えてください。

昨年度の委託事業で10の競技団体に〝どういう体制を組んでいますか?〟〝組織的な整備をしていますか?〟〝事案が起きた際にどういう対処をしてきましたか?〟等のヒアリングを行って、評価をしましたが、バラツキが見られました。勿論、不祥事は起きないほうが良いけれども、何らかの不祥事の事案が起きた際に対処すべき仕方のモデル的なものを提示しました。但し、バラツキが大きいというのは皆夫々試行錯誤している中で、もう少し合理的に情報共有をして整えるべきところは整えて共通化していくべきです。勿論個別的な種目特性もありますから、其処は工夫をすれば良いことで、競技団体、協会、連盟等の中で規則と手続きに従って適切に処置出来るようにすべきだと私は思います。本来は各競技団体で定められた定款第何条、第何項に基づいて調査をし、調査結果が出たので、査定委員会や判定委員会で議論をした上での報告が委員長から連盟の会長に上伸される。会長はそれに基づいて最終決済を監事を含む理事会で〝こういう処置をしますが適切でしょうか、それで良ければ組織の判定とします〟とすれば誰も文句は言わないのです。つまり、本来あるべき規則と手続きが定められていないということだと私は思っています。どの団体も規則と手続きを作ってそれに則ってやるようにもっていけば良いと思います。法律家だけが集まってやる「第三者委員会」は適切か如何かというのは意見が分かれるところだと思います。

 

―オリンピック選手強化のために各種競技団体に今までになかったお金が国から拠出され、これまで経験したことのないお金が入ることでどのように使えば良いのか分からないということもあり、その使途について国はお金を出すだけで、内容を明らかにするよう求めていないこともあり、不正がまかりとおるといったことも言われております。そういったことについて武藤代表理事のお考えをお聞かせください。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前提としてスポーツ関連の予算が膨大に膨らみ、47都道府県のスポーツに関係する行政マンが様々なかたちで予算を獲得しようとか、2020年のオリパラに何らかの直接的間接的に関与をしたいという風に動いていることは事実です。これから更に加速する可能性が高いと思います。だからといって、そういうことに伴う弊害、不祥事を起こさせないように指導することはあり得ないと思います。どんな小さな競技団体でもどんな大きな競技団体でも先程から申し上げているように業務が適正に執行されているかどうかを監事が全うに仕事をしなければいけないんです。どの団体や組織においても必ず監査報告があります。業務が適正であることと会計が適正であること、その2つを監査をすることが監事の仕事です。つまり、指導するとか指導していないとかいうことよりも定款に謳われている通りちゃんとやりなさいということです。これだけコンプライアンスのことが社会の中で注目されている時代なので、やはり本来の定款にある監事の役割を担うようにみんなで努力していかないとそのスポーツ団体もスポーツも社会的信頼を失ってしまうのです。それは別に我が機構が指導するような内容ではなく〝貴方達もっとちゃんとしなさい〟と。自分たちが作った組織を大切にするか如何かです。やはりボクシングの会長職は長かったんです。日産のゴーンさんも長かったんですよ。〝権力は必ず腐る、奢れるものは久しからず〟ということです。

 

―9月20日讀賣新聞朝刊の記事で、『スポーツ社会変えられるか』と題して、福島県知事・内堀雅雄氏、スペシャルオリンピックス日本理事長・有森裕子氏、新潟県見附市長・久住時男氏が話されていました。中でも有森氏は、「パラリンピックやSOは、スポーツを通じ、社会に生きる人々の発想や考えに何を残せるか、という点を重視している。でも多くのパラリンピアンが、2020年以降に流れが続くかを不安視しているのが現実だ。私たちは「障害」を、自分のこととして考えているだろうか。いずれ高齢になれば、体の機能や認知力が衰え、車いすを利用する可能性もある。その時、今の社会は果たして住みやすいだろうか・・・」と話されていました。武藤代表理事のお考えと『スポーツ 社会変えられるか』についてお聞かせください。

障害という言い方が良いのかどうか、或いは障害が個性だという表現も適切かどうか分かりませんし、私には少し違和感があります。しかし障害があるなしに関わらず多くの人と接触、交流をはかることは一人ひとりの意識を変えますし、意識を変えれば行動が変わる、行動が変われば習慣が変わると思うんです。その意識を変える存在として障害のある方たちと日頃交流をはかられているということはとても大切です。

以前、東大の安田講堂でシンポジウムを開催して、水泳のパラリンピックの金メダリストである成田真由美さんにシンポジストで来て頂き、終了後に懇親会が別の会館でありました。安田講堂の近辺にはいっぱい坂道があるし、階段もあってエレベーターは無いので、私が責任者でしたから成田さんとその会館に行くにはどうしようかと考えて、学生達があちこちで本を読んでいましたので〝おーい、みんなちょっと来てくれ。今日のシンポジストの成田さんは車椅子を使っている方で、そこの会館まで行きたいので申し訳ないけど手伝ってくれ〟と言うと、ワーッと学生達が来て成田さんをそのまま運んでくれました。行くまでの間お互いに話していたので、学生達は〝成田さんってこういう方なんですね〟と、成田さんも〝東大の学生、捨てたもんじゃないですね〟と。そういう障害をサラッと乗り越えるような意識の変革がありました。それって社会を変えることになります。

あまり大仰にここを全部エレベーターにしなければいけないやバリアフリーじゃないとダメとかいうのではなく、日本中全部バリアフリーにしたら良いかというと物理的刺激がなくなるので転倒しやすくなります。勿論明らかにこれは障害のある人に不利益であるとかリスクが極めて高いというものは減らすべきだと思います。見た目は分らないけれども実は聴覚障害の人もおりますし、内部障害で腎臓を痛めた方もおり、いろんな障害がある訳です。そういう正しい知識と情報に基づいて一人ひとりが意識を少し変える。10%意識を変えて、10人集まれば100%になりますから、それは社会を変えていく大きな入口になるかもしれないと思っております。

 

●武藤芳照氏プロフィール

東京健康リハビリテーション総合研究所所長/東京大学名誉教授

[略歴]
昭和25(1950)年愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部長・理事・副学長を経て、平成30(2018)年4月より現職。医学博士。ロサンゼルス(1984年)・ソウル(1988年)・バルセロナ(1992年)各オリンピック水泳チームドクターを経て、国際水泳連盟医事委員(1992年~2000年)を務める。(公財)日本水泳連盟評議員。(一財)少林寺拳法連盟顧問、日本学生野球協会理事。第69回第一生命 保健文化賞受賞。

[編著書]
『疲労骨折』(編著・文光堂)、『スポーツ障害のメカニズムと予防のポイント』(編著・文光堂)、『水泳の医学Ⅰ,Ⅱ』(ブックハウスHD)、『スポーツ障害のリハビリテーション-Science and Practice-』(金原出版)、『イラストと写真でわかる武道のスポーツ医学』(柔道2016、剣道2017、少林寺拳法2017 監修・ベースボールマガジン社)、『学校の運動器検診』(共編、中外医学社、2018年)他合計91冊。

 

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