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これだけは知っておいて
【第93回:腹(腑)に落ちる内容に裏付けられた業界の在り方をデザインする】

2022/12/01

長尾淳彦

柔道整復師の施術は先人の血のにじむ努力で療養費受領委任の取り扱いにより医療機関と同じような窓口システムが出来上がり患者さんである国民は良質な柔道整復術を受けられる環境は整備されました。当初は患者さんも支払い側の保険者も我々施術者側の柔道整復師もこの取り扱いは三方良しであったと思います。1970年に「柔道整復師法」が単独法になり、柔道整復師の資格も1990年に都道府県知事免許から厚労大臣免許の国家資格となりました。柔道整復師は本人にとっても家族にとっても「憧れ」の職業でした。周囲の目も「地域を支える接骨院の先生」として見られ、収入においても平均で当時の公務員の部長クラスの年収はありました。そして、柔道整復療養費もそこから2011年度の4085億円(国民医療費385850億円)のピークまで年々増加の一途をたどりました。WHO(世界保健機関)にも認知され、海外にも「JUSEI」「JudoTherapist」として活躍の場があります。柔道整復師養成の大学も10校を超え数校に大学院も設置され「柔道整復学博士」が誕生しています。有資格者が12万人、就業柔道整復師は7万5千人、施術所は5万カ所を超えています。

接骨院での業務以外にも柔道整復師の資格をベースに介護支援専門員や機能訓練指導員として介護保険に係る業務にも携わっています。スポーツ現場では、メディカル、フィジカルなどのトレーナーとして活躍の場があります。

こうしてみると「明るく」「豊か」な素晴らしい業界であるはずなのに現在、柔道整復師業界は閉塞感が漂い、黒く分厚い雲が頭上を覆っているようですっきりしないと感じるのは私だけではないと思います。

国民医療費も他の療養費(鍼灸・あん摩マッサージ指圧)も増加しているのに柔道整復療養費のみが年々減少しているのはナゼか?柔道整復師も柔道整復施術所も年々増加しているのに柔道整復療養費だけが減少しているのはナゼか?

柔道整復療養費の算定に多部位施術逓減、長期施術逓減が導入され、更に多部位の負傷原因、長期施術の長期理由等の支給申請書への記載が付記されたこと。保険者、外部委託会社による行き過ぎた患者照会のため患者の受診抑制がかかった。柔道整復療養費を使わず、自費施術の施術所に切り替えたなどの多くの可能性はうかがい知れるが本当のことはわからない。療養費減少の理由、収入減少の真の原因を調べなくてはわからない。

柔道整復施術所の経営や運営に関する実態調査を行わなければ憶測だけの議論と対策に終わってしまいます。

また、柔道整復師、接骨院、整骨院、ほねつぎなどの名称についても国民は正しく理解しているか?病院や医院、歯科医院などの医療機関と似たような窓口業務であるが現物給付の医療費ではなく、現金給付である療養費の受領委任の取扱いによりそのような方法が行えるということを柔道整復師も国民も理解しているか?柔道整復師の養成の在り方、柔道整復師がその資格で出来ること、出来ないこと。保険の取扱いで出来ること、出来ないこと。柔道整復師がその資格で活動できる現場はどこか?これらも正しく検証していかなければなりません。

療養費の支給基準においても時代(生活様式など)の変化とともに外傷の起因や病態も変化します。ところが柔道整復師の施術に係る療養費の協定は、1936年から86年間、業務範囲や制限の部分が1970年からいままで大きく変わることも変えることもなく残っています。現在、制度疲労ともいうべき事態に陥っています。

療養費の請求、審査、支払いの一体化と透明性を確保して、いまこそ厚生労働省、保険者、柔道整復師によって、腹(腑)に落ちる内容に裏付けられた柔道整復療養費の制度設計が行われ、国民に示す時期であると思います。

それには、柔道整復師の根本的な存在価値について真正面から向かい合い徹底的に腹に落ちるまで考えなければ打開できないと思います。

そうしない限り、業界を取り巻く環境は混迷を深め未来は混沌とし業界は混乱します。それは泥濘の地に杭を打つ、乾いた砂漠の地に水を撒くという今は虚しい行為かも知れませんが真剣に深く考えてひとつひとつ具現化していかなければ業界は無くなってしまいます。

業界全体で動き出さなければ誰も助けてはくれません。しかし、業界内だけで出来ることはたかが知れています。国を巻き込んで国が介入できるような「柔道整復師業界再建案」を構築していかなければなりません。我々、柔道整復師がどのように社会に貢献するかを常に問わなければなりません。

願望やお願いベースではダメです。願望を成就に繋げるには並みに思ってはダメです。そうできればいいな程度の生半可な思いはダメです。すさまじく激しく必死で考えなくてはなりません。

最後に「因果応報」について

「因果応報」業界が受ける結果は業界がつくる。因果とは、原因と結果です。どんな結果にも必ず原因があり原因なしに起きる結果は一つもないということ。ただ、原因がすぐには分からないこともあります。しかし、原因は必ずあります。応報とは原因に応じた結果です。

玉ねぎの種を蒔いたら玉ねぎが出来ます。人参の種を蒔いたら人参が出来ます。玉ねぎの種を蒔いて人参が出来ることは絶対にありません。原因に応じた結果しか出ません。

柔道整復師業界は現状に至った結果の原因を分析してそれを猛省し、出したい良き将来の結果に向けての源を考えていかなければいけません。業界全体で。

 

(日整 広報誌vol.262 巻頭言より転用)

 

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