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これだけは知っておいて【第19回:嘉納治五郎先生に学ぶ】

2016/06/01

明治国際医療大学 教授 長尾 淳彦

私たちの国家資格名である「柔道整復師」。その冠である「柔道」についてもっともっと学ぶべきだと、柔道の創始者 嘉納治五郎先生のことを知るために、「嘉納治五郎師範に學ぶ」(村田直樹著)公益財団法人 日本武道館発行、「気概と行動の教育者 嘉納治五郎」(生誕150周年記念出版委員会編)筑波大学出版会発行を読んだ。

当時(明治時代初期)の柔術界と現在の柔道整復師界のおかれている状況は酷似している。危機的状況から嘉納治五郎先生がどのような理念と行動力で「講道館柔道」を作られたかを全柔道整復師が知ることは今後の柔道整復師界にとって非常に大切なことである。

現状の柔道整復師界が患者である国民に信頼される業界になるためのヒントがここにはある。

文中、引用紹介する。注:師範=嘉納治五郎

『師範に拠れば、明治時代の始め、世間では柔術とは身体を害し、益することは無いもののように考えられていた。また、かつて門人は、免許を貰う迄は柔術を教えることを許されていなかったが、この頃になると必ずしもそうではなくなり、人に教える程の技量が未だ身に付いていないうちから指導を始め、本当の柔術ではないことを人に伝えたりする者が出て来た。すると世間は柔術とはこんなものかと思って、まだ自分の知らない本当の柔術までも軽蔑するようになった。更に、世間には柔術を一種の見世物にし、お金をとって相撲や軽業をなす場所で人に見せたりする者が出て来たりした。かくして世の人々は、益々柔術を何か卑しいもののように思うようになって来たのである。-中略― 師範は考えた。飽く迄も柔術の伝統、その道について古人の功労を消滅すべきではない。故に、以前より在った名称を遺し、その上で自分の道場の名前を付けようと。』

この考えを以て明治十五(1883)年五月に講道館を下谷の北稲荷町永昌寺に於いて創始したのである。

以上を纏めると、

自分が新たに始めるものについて、世間に誤解をされてはならないということ
そもそも術は手段で道が根本なのだから、道という名前を付けること
そして、永きに渡って柔術の伝統を継承してきた古人の功労を消滅してはいけないと考え、柔の字は遺したこと

先人の功労を消滅させない、原理を見抜く、そして拙策は避ける。名称の問題一つにしても、これだけの知恵が用意されたのである。ここには人間の踏み行うべき道が示されているようだ。

即ち敬うという心、普遍を見つめる理知、そして英図に拠る実践というそれぞれの道が。

「精力善用」
講道館創設当初は、柔術や柔道の原理を「相手の力に順応し其の力を利用して勝つ」という柔の理で説いていたが、やがて「心身の力を最も有効に使用する」という原理を編み出した。心身の力を精力という言葉で表し「精力最善活用」とし、それを約言し「精力善用」とした。

「自他共栄」
人が共同生活をしている以上、相互の間を融和協調していかなければいけないのである。それには、互いに譲り、互いに扶けるということをせねばならない。人は常に自分の栄えと他人の栄えを両立するように自分のことのみを考えず人の為をも考え、他人の為に尽くしながら自分の為をも図ることを忘れぬというところに融和も平和も進歩も生じてくるのである。

嘉納治五郎先生は「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である」の心身の力を精力の二文字に詰め、人間の行動は善を目的に最も有効に行うということで「精力最善活用」と唱えた。そして、精力最善活用によって自己を完成し(個人の原理)、この個人の完成が直ちに他の完成を助け、自他一体となって共栄する自他共栄(社会の原理)によって人類の幸福を求めたのである。

「柔道整復」は日本で生まれ日本で育った正真正銘の「日本の伝統医療」です。

従来、「まちのほねつぎ・接骨院」として地域を支え、地域の方々と共に歩んできた柔道整復師です。

在、一部の悪貨によって良貨も悪く思われていることも事実です。しかし、その悪しきものへの撲滅を徹底して自らで行ってこなかったツケがこの数年事件として出てきています。

前述の「かくして世の人々は、益々柔術を何か卑しいもののように思うようになって来たのである」の「柔術」を「柔道整復師」に置き換えれば何をすべきかは明らかである。

いま、徹底した改革を行える条件は整っています。
医療人としての「誇り」と「責任」を持って地域に根差した柔道整復師として社会貢献出来るよう皆で取り組んで行かなければならない。

 

引用文献

村田直樹著:嘉納治五郎師範に學ぶ.
(公財)日本武道館.2011
生誕150周年記念出版委員会編:気概と行動の教育者 嘉納治五郎.
筑波大学出版会.2011

 

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