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この人に聞く!
【明治国際医療大学保健医療学部柔道整復学科スポーツ科学講座 教授・林弘典氏】

2013/05/16

これまで柔整ホットニュースでは、柔道整復大学で活躍されている教育者にテーマを設け、リレー式でご執筆いただいてきた。しかし、近年の柔整教育は4年制大学と3年制専門学校の2極化が進展していることから、大学と専門学校の差別化が加速すると思われる。そこで柔整ホットニュースでは、〝柔整教育の根幹はなんぞや〟という大きな問いかけをテーマに専門学校の教育者、大学の教育者両者に提言いただくことにした。今回の執筆者は、明治国際医療大学 保健医療学部 柔道整復学科 スポーツ科学講座 教授・林弘典氏である。

 

明治国際医療大学における柔道教育について

明治国際医療大学 保健医療学部 柔道整復学科
スポーツ科学講座 教授  林弘典

 

1.授業において

本学は、保健医療学部の必修科目として、1年生の前期に「柔道Ⅰ」、後期に「柔道Ⅱ」、2年生の前期に「柔道Ⅲ」の計3科目の授業を実施しています。また、看護学部の選択科目として、1年生の後期に「柔道」という1科目の授業を実施しています。1科目は15回で設定され、1回の授業は90分間です。柔道整復師の養成学校にあたる本学保健医療学部の授業で柔道が行われることは当然ですが、看護学部の授業で柔道を行われていることは本学の独自性であり、都築英明看護学部長の柔道教育に対する理解や期待の現れであると思います。

柔道の創始者である嘉納治五郎師範は、「柔道は、心身の力を最も有効に使用する道である。その修行は攻撃防御の練習に由って身体精神を鍛錬修養し、斯道の神髄を体得する事である。そうして、是に由って己を完成し、世を補益するが柔道修行の究竟の目的である」と述べています。また、全国柔道整復学校協会と日本柔道整復師会が共同制定している柔道整復師倫理綱領には、「日本古来の柔道精神を涵養し、国民の規範となるべく人格の陶冶に努める」とあります。さらに、柔道整復師養成施設指導要領では、「柔道により、柔道整復の源を学ぶとともに、健全な身体の育成及び礼節をわきまえた人格を形成する」とあります。したがって、本学における柔道の授業では、精力善用・自他共栄の体得と実践を目指すことによって、医療人として資質向上を図ることを目的しています。

授業では「怪我をしない、させない」ことを最優先とし、学生同士が思いやりの行動を取るように指導しています。例えば、体格や力に差があるときは、優位な者が力加減をすること、倒れ込んだり巻き込んだりして技を掛けないこと、組み手争いをせず前襟と袖を持って乱取をすることなど。その甲斐もあり、私が本学に赴任して11年目になりますが、脳挫傷や骨折などの重大な怪我は一度も発生していません。以下に中心的な指導を記します。

 

① 怪我や病気をせず授業に出席する

怪我や病気をすると日常生活に支障をきたします。授業を休んだ場合、後日休んだ授業内容を勉強する必要があります。また、休んだ分の授業料が無駄になり、病院を利用したり、薬を使用すれば医療費が掛かります。怪我や病気の状態で授業に出席したとしても、健康な状態より学習効果が低下し、さらに体調が悪くなったり、大きな怪我につながる恐れがあります。怪我や病気がなければ、自分のやるべきことや、やりたいことが精力的に行えます。怪我や病気が大きな損失であり、健康であることが有益であるかを説いています。

 

② 礼法を徹底し、教職員に挨拶をする

「礼は、人が交わるにあたり、まずその人の人格を尊重し、これに敬意を表することに発し、人と人との交際を整え、社会秩序を保つ道であり、礼法は、この精神を表す作法である。精力善用・自他共栄を学ぶ柔道人は内に礼の精神を深め、外に礼法を正しく守ることが肝要である」とあります。したがって、修行の場である柔道場への出入りの際に、服装を正して(帯して)礼をすること、授業の開始時や終了時、乱取の前後に礼をすることを徹底させています。また、学生が学生生活を円滑に送ることができるのは、学生の知らないところでも教職員が尽力しているからです。授業料を払っているから教職員は尽力するのは当然であり挨拶は必要ない、知らない教職員だから挨拶しないということではなく、自分の知らないところでもお世話になっている教職員に対し、敬意や尊敬、感謝の気持ちを表すことは互いに良好な関係を構築していくために大切です。このように、授業で学んだ礼の精神を発展させて教職員に挨拶をするように指導しています。

 

③ 学内施設を大切に使用する

柔道場は柔道部や少林寺拳法部などのクラブ活動で使用され、他の授業でも使用されるので、授業後は必ず畳の掃き掃除を行っています。また、本学には、付属病院やリハビリテーションセンター、鍼灸センターなどの施設があり、学外から多くの人が出入りしています。そのこともあって、学内でガムやタバコの吸い殻、ゴミのポイ捨が見られます。すべてが部外者の行為ではなく、おそらく大半は心ない一部の学生等が行っていると思われます。医療人を養成する大学として非常に恥ずべきことであり、残念なことです。そこで、授業の一環として、最後の授業に全員で学内・学外(本学周辺)の清掃を行っています(授業を1回欠席した者は、後日私と一緒に2回目の学内清掃を行っています)。さらに、学内清掃と同様に、柔道場の大掃除(畳の拭き掃除・除菌、更衣室・シャワールームの掃除)も行っています。もちろん、ガムやタバコの吸い殻、ゴミのポイ捨てをしないように、タバコは喫煙場所で吸う(喫煙場所以外は禁煙場所と認識する)に指導しています。また、学内施設は公共施設であり、自分の家(部屋)や大切な物と同じであると認識するように説いています。このように認識できれば、学内施設を汚損することがなくなり、物を大切に扱うことができるようになると思います。このことに関連して、相手の立場になって考え、行動することも指導しています。

これらのことは、人として常識的なことであり、できて当然のことです。医療人であればなおさらです。しかし、今の学生は当たり前のことができません。できないということより、当たり前にできるという教育(訓練)を受けていないと解釈する方が適切かもしれません。上記のことを含めて、当たり前のことがきるように、気づいたことは些細なことでも授業で指導しています。

精力善用・自他共栄については、学生が簡単に理解・実践できるように、「自分の行動が最も合理的で、他人のためにもなること」と説明しています。こうした積み重ねによって、柔道修行の究竟の目的である世を補益することにつながると思います。精力悪用・自己中心な人間にならないように、精力善用・自他共栄を実践できる医療人を本学から輩出したいと考えています。

 

2.柔道部において

柔道部は本学創立(明治鍼灸大学短期大学)の1978年から創設された伝統のある部です(2013年5月現在、部員16名:男子14名・女子2名)。2010年より文武両道の教育による優秀な柔道整復師または鍼灸師を育成するため、入学金の全額や授業料の半額を給付する柔道部特別奨学金制度が設立されました。柔道整復師・鍼灸師を目指しながら、学業と柔道を一生懸命に取り組む者であれば、柔道未経験者も利用でき、原則的に奨学金を返還する必要がありません(詳しくは本学ホームページ参照)。この制度は、中川雅夫理事長と岩井直躬学長の柔道教育に対する理解や期待によって設立されたものであり、充実した教育を行うことが可能となりました。

柔道部の指導は、基本的に柔道の授業の指導と同じです。部員を親身に指導し、厳しいことも率直に伝えます。また、部員には部の運営や指導を含めて、意見や要望など何でも言っていいと伝えています。ゆえに、部員が言いたいことが言えるような明るい雰囲気を作り、冗談も交えながら必ず部員全員に声掛けてコミュニケーションを図っています。練習後は、1年生だけが掃除を行うのではなく、私も含めて全員で柔道場の掃除を行っています。また、入学式前と卒業式前も一緒に学内清掃を行っています。

部の目標は、「怪我や病気せずに4年間柔道を継続し、留年せずに国家試験に合格して卒業する」ことです。そして、京都学生柔道大会(2部)と関西学生優勝大会(2部)の優勝することです。そのため、部員は授業の空き時間や試験前に大学で勉強を頑張っています。練習では、しっかりと組んで最後まで「一本」を取る柔道が身につくように指導しています。試合では、勝ち負けに関係なく、勝負に逃げずに練習した成果を少しでも出せたかどうかが重要であると説いています。その成果の1つですが、今年は20年ぶりに京都学生柔道大会(2部)で優勝することができました。

柔道部員については、精力善用・自他共栄を実践でき、指導的な医療人・柔道人になって欲しいと願っています。そして、本学に入学し、柔道部に在籍して卒業できて良かったと感じてくれることが私の最大の目標です。

3.最後に

精力悪用・自己中心な人間が増えている現代において、中学校の武道必修化における柔道の役割と同様に、柔道整復師の養成学校における柔道の役割は非常に重要であり、有意義であると思います。本学の鍼灸学部や看護学部において、柔道が「必修科目」として導入され、学生の資質向上に役立てることができれば幸いです。また、柔道の指導を通して、より優れた人物を輩出できるように、微力ながらも尽力していきたいと思います。

 

●林弘典氏プロフィール

1973年生まれ。福岡県出身。日本傳講道館柔道六段。全日本柔道連盟公認A級審判員。「柔道の審判員の投技評価における異見発生の要因に関する研究(体育学研究55(2):363-378)」など柔道の審判に関する研究を行っている。

【学歴】

1997年 筑波大学体育専門学群 卒業
1999年 筑波大学大学院修士課程体育研究科 修了(体育学修士)
2011年 筑波大学大学院博士課程人間科学研究科 修了
(コーチング学博士)

【職歴】

1999年 安田学園高等学校 非常勤講師(保健体育)
2000年 筑波大学文部技官 研究協力部研究協力課(体育科学系担当)
2002年 明治鍼灸大学医療技術短期大学部柔道整復学科
保健体育ユニット 助手
2004年 明治鍼灸大学医療技術短期大学部柔道整復学科
保健体育ユニット 講師
2011年 明治国際医療大学保健医療学部柔道整復学科
基礎柔道整復学Ⅲユニット 准教授
2013年 明治国際医療大学保健医療学部柔道整復学科
スポーツ科学講座 教授(現在に至る)

【所属学会・委員会】
日本武道学会(評議員)、日本体育学会、全日本柔道連盟広報委員会、全日本柔道連盟強化委員会情報戦略部、京都府柔道連盟審判副部長、関西学生柔道連盟評議員、京都学生柔道連盟理事

【表彰】
日本武道学会平成17年度優秀論文賞(人文・社会科学系)、全国柔道高段者大会技術優秀賞(五段の部)、近畿柔道高段者大会・大阪大会優秀賞(五段の部)、全国柔道高段者大会10回出場表彰

【柔道指導歴】

1997年 筑波大学コーチ(2002年まで)
2005年 全日本柔道連盟強化委員会委員・女子総務コーチ(2008年まで)
2002年 明治国際医療大学(旧  明治鍼灸大学)監督(現在に至る)

【柔道指導歴】

2002年 国際交流基金スポーツ専門家短期派遣事業(東ティモール)
2003年 講道館巡回柔道指導(マレーシア、カンボジア、タイ)
2005年 平成17年度島根県(松江市)青少年武道練成大会
2010年 平成22年度全国少年競技者育成事業(九州地区・大分県)
2011年 平成23年度愛媛県(松山市)地方青少年武道練成大会
2012年 平成24年度石川県(金沢市)地方青少年武道練成大会
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