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第25回日本柔道整復接骨医学会学術大会2日目!

2017/02/01
11月20日・2日目

 

大会会長講演:『症例研究と単一事例実験計画法について』

元帝京大学医療技術学部教授 佐藤揵氏

座長は、一般社団法人日本柔道整復接骨医学会会長・櫻井康司氏

〝医学、看護学、行動科学等の臨床科学では症例研究がよく行われてきており、珍しい病気、珍しい疾患であることが分っているとすれば、それを1例ではなく続けて研究すると、何が原因であるか因果関係を分析することが可能になります。報告された症例によって新しい疾患や新しい概念が発見されるということがよくあります。
有名な1例は、1817年にジェームズ・パーキンソン先生が症例報告し、70年後の1887年にフランスの神経学者シャルコー先生が研究を行いその疾患の病名をパーキンソン病と命名されたことが広く知られています。こういう事例に対する研究をどういう風にすれば良いかということを纏めてみたい〟と前置きした。

〝症例研究の意義については、

①非常にめずらしい疾患の場合
②珍しくはないが、特異な経過・転帰をたどったケース
③治療・介入への反応が独特であったケース
④新治療法、新技術の開発・試行・実験治療を行ってみた効果
⑤診断・取り扱い(処遇)・治療・リハビリテーションに非常に苦慮したケース
⑥治療手段方法に対して従来の方法に問題点を感じ、ある仮説を示す場合、

これらが症例報告の特質になります。

つまり症例報告というのは患者さんの特徴、診断、問題点、治療、反応を細かく記録したものです。元々治療効果の判定をするための仮説が役に立つ、一方、治療効果や介入の効果を証明することは出来ません。実際に発表されている症例研究の多くはどうしても定性的、或いは叙述的になることが多く、全く違う理論系の人からみると、それは"単なる幸運だ"とみられ、一般化できないととられます。
では、それを避けるべく類似例を集めることが簡単に出来るかというと極めて難度が高い等問題点もあります。実際に行われている集団的比較研究には、

①倫理的問題
②実施上の困難
③集団の平均値の意味
④結果の普遍性
⑤被験者の個体差
という5つの問題点があります。

今回、学会で発表されたタイトルだけを数えてみると、症例または症例にふれるようなタイトルになっているのは20題あり、おそらく内容的にいえばもっとあると思います。つまり、症例研究はかなり行われているが、従来型の研究であり、メリット・デメリットがあります。簡単に申し上げると人を相手にする場合、そっちのグループに介入をやって、こっちにやらないでおくことがどうなのか、倫理的に良いのかというような意見が出てきます。そこが一番大きな問題だとされており、その反省に立ち1例または僅か数例の対象者に関していろんな方法で経過観察をすることで、その観察した部分をなんとか客観化できないだろうか、というアイデアが主として高等教育分野から出てきた訳です。

その方法の1つが、シングルケース実験計画法であり、single case design(N=1 research design)という手法であります。単一個体に刺激を与えたり、治療を行ったり介入を行うことで反応に違いが出るか出ないかを追いかけて観察する方法で、コントロールグループ不必要、基礎水準期と操作介入期を設けてその差異をみます。臨床研究において重要性は高いが、あまり活用されていませんでした。例えば、リハビリテーション前後の症状や機能の変化をみて、効果を測定する、或いは目標を設定し、いろんな介入を行って効果を測定する方法、或いはある方法で行っていたが、効果が得られなかった場合、モニターすることで方針を変更する場合にも、この方法を使うことがあります〟として、1981年、Ostendorfらが片麻痺患者1例、上肢機能の治療について基礎水準7日、操作介入7日のリハビリテーション効果を直線表示の簡単な手法で比較した効果の評価法やデザインの種類(A-B-A型)について紹介し解説を行った。また(変型A-B型)基準移動型として2003年に佐藤氏が研究報告した学生トライアスロン選手1名(国際レベル)と学生レベルのプレイヤー11名と比較試行した分析結果についても概説。シーズンインをベースラインとし、3大大会を介入(独立変数)ととらえることとし、柔軟性系7項目、筋力系8項目を従属変数として時系列的に観察測定した。特に両群の差および変動の大きい体重、足底屈力、足背屈力についてみると競技力の高い選手の柔軟性と筋力のいくつかに差異を見出した。とくに足底屈力と後部(背部)の筋力の群間差が課題と読解しえた等紹介した。〝スポーツ分野で取り入れられた例はあまり無いが、この研究の手法には、薬効検定で使われるプラセボに相当する偽薬、何もやらない期間、介入をやらない観察期間を設けることは出来るかという問題がある。改善出来る方法としては、従来の治療を継続し、それに新たな方法を導入する、デザイン型として、A-B型、A-B-C-D型、B-A-B型、交替操作型、基準移動型等が可能ではないかと考えられる。症例研究をやる場合に効果を判定する方法として適用できるのであれば、症例研究の科学化が少しレベルアップするのではないかと期待できる〟等話し、1例や少数例に対するアプローチの持つ意義や問題点を検討。臨床科学の客観性を高める上での必要性を説いた。

櫻井座長から〝佐藤先生の今日の講演の中で、学会の教育というものを更に高めて、若い先生方がいろんなことにチャレンジして増えていくことに期待し、先生のご講義を明日に活かしていきたいと思います〟等述べ、盛大な拍手の中、終了。

 

 

特別講演Ⅱ『腱板断裂の病態と治療』

東北大学大学院整形外科学分野 井樋栄二氏

座長は、一般社団法人日本柔道整復接骨医学会副会長・米田忠正氏

〝腱板というのは、仙台生まれ。実は、東北大学初代整形外科教授・三木威勇治先生が1946年に臨床外科の第1号に書いており「腱板」という言葉を三木先生が最初に使った後、日本全国に広まりました。腱板は仙台が発祥の地だったということで、皆さんは仙台でこの話を聞けるのは非常に良いことかなと思います。

どうして断裂が起こるのか。いろんな説がありますが、昔からよく言われている内因説は、加齢による腱の変性で、亡くなった方の腱を調べてみると必ず変性が起こっていて年をとるほど腱が変性を起こしています。年とともに髪の毛が白くなったり、皮膚に皺がよるのと同様に、引っぱると切れやすくなって強度が段々弱くなり、やがて切れてしまうのではないかというのが1つの考え方です。

肩峰の先端口を調べると正常な肩は関節窩の中心から10ミリ位後ろにありますが、腱板断裂の人は5ミリ位前にあり、ここに断裂の原因があるのではないかとされています。肩峰の下の接触圧は2倍以上高いので、肩峰の下を腱板が常に通過する人は切れるリスクが高い。最近言われているのは、肩甲骨関節窩を結ぶ線、関節窩の下縁から肩峰外側縁を結ぶ線、この2つの線がなす角度をクリティカルショルダーアングルと呼び、断裂の人の方がクリティカルショルダーアングルが大きい。

秋田県のある村の住民健診のデータで、40代~80代まで1328肩を観たところ「痛い」と答えた人が各年代20%位、50歳代では10人に1人。80歳を超えると3人に1人が腱板が完全に切れていました。腱板が切れていて痛い人は3分の1、3分の2の人は痛くないことが分かり非常に驚きました。日本に腱板断裂の人がどれくらい居るかを有病率から計算したところ一番多いのは70歳代で300万人位、腱板がちょっと切れている、大きく切れている、いろんな切れ方があるが日本人で4人に1人位は腱板が痛んでいることが推定されます。病院に来る人は、痛みで来た人が88%、痛いと力が入らないという人が11%、痛くないが力が入らない人は1%。病院に来る患者さんの99%は痛みで来ると言えます。肩の筋肉の働きをみる場合、これまでは筋電図しか無かったが、最近はPETを使って筋肉の働きを観ることが出来ます。痛い断裂と痛くない断裂では何が違うのかとPETスキャンをしてみました。殆どの動きは三角筋が働いて手が上がったり下がったりしていますが、痛い人は三角筋の働きが弱い。その代わり僧帽筋、或いは肩甲棘筋が働いています。これは痛みの原因というより結果で、痛いからできるだけ肩関節を動かさずに手を挙げるには肩甲骨を出来るだけ動かすのだろうと思われます。

腱板断裂の診断には、現病歴と身体所見が大切です。視診では棘下筋、棘上筋の委縮に注意し、触診では棘上筋腱の触診が大切で、全層断裂があればその部位を陥凹として触れることができます。肩自動運動時の肩甲骨の動き、有痛弧、インピンジメント徴候など痛みに関連してみられる所見をとります。断裂の部位診断には、棘上筋腱断裂を診断する棘上筋テスト、後方の腱板である棘下筋腱断裂をみる外旋筋力テスト、外旋ラグ徴候、後方の断裂が小円筋腱まで広がるとHornblower徴候が陽性になり、前方の腱板である肩甲下筋腱断裂に対してはLift-off テスト、内旋ラグ徴候、Belly press テスト、Bear hug テストなどが有用です。ランセットに載っている論文では、棘上筋テスト、外旋筋力、インピンジメント徴候をみて、この3つが全て陽性であれば全ての年齢層で断裂を持つ確率は98%。3つの内の2つが陽性で患者さんが60歳以上であれば、98%の確率で断裂がある。3つが全部陰性であれば、年齢に関わらず断裂を持つ確率は5%と報告しています。以上の身体所見に加えてX線、超音波、MRIなどの画像所見も合わせて診断を確定します。治療は大きく保存療法と手術療法に分けられ、保存療法では断裂した腱の治癒は期待できませんが、断裂によって引き起こされる痛みは約75%の症例で軽快します。保存療法を3か月続けても症状が改善しない症例や症状の再発を繰り返す症例では手術的治療を考えます。若年者、スポーツ愛好家、肉体労働者では症状再発、断裂拡大のリスクが高いので積極的に手術を考えます〟等述べ、〝煙草が断裂を大きくする1つの引き金になることが分かりました。更にその後の研究で喫煙そのものが腱板断裂の発症にも関与していることが分っています。煙草を吸っているとゴムのような腱板が瀬戸物のようになってくることも分かりました〟と話し、日本は喫煙率が高いので啓発活動をしなければならないとした。

最後に〝2年前に日本に入ってきたのが、反転型人工肩関節、リバーストータルショルダーが入ってきました。最大の利点は、手を挙げるモーメントアームにあります。フランスのグラモンという方が1987年に開発し、出来たのは94年です。2004年にアメリカにわたって2006年に韓国、2008年中国、2014年ようやく日本に導入されました。去年1年間で使われた人工関節はあっという間に75%が反転型になっています。導入を待っていた患者さんは沢山いるということです。フランスと比べれば26年も遅い2014年に日本に導入されたということで悲しくなるが、しかし遅ればせながらも日本に入ってきたので、今後も反転型人工関節の果たす役割は非常に大きくなるだろうと考えています〟と結んだ。

(フロアからの質疑と応答は省略)

 

 

 
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