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運動器超音波塾【第27回:股関節の観察法2】

2019/04/01
股関節前方の超音波観察法

それでは、股関節前方の超音波観察法です。前回把握した全体像を想い出しながら、前方からの観察を続けていきます。

前回同様、この観察の肢位は仰臥位(背臥位)です。もう一度、復習です。股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角によって骨頭が下がり筋肉が緩んでしまうため、股関節中間位(屈曲0度)で観察します。また、骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。この時に、正常ではベッドと腰椎との間に手の平ひとつ分の腰椎前弯が存在し、腸腰筋拘縮がある場合には腸腰筋に骨盤や腰椎が牽引される事で腰椎前弯の程度が増大するとの話があり、観察前に注意しておきたいポイントです。*13 超音波による観察の場合、観察肢位やこのような下準備をすることがとても大切で、安定した再現性のある画像にするためにも心掛けておきたいところです。

股関節前方の観察肢位

図 股関節前方の観察肢位

 

股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角の為、骨頭が下がり筋肉が緩んでしまいます。
骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。

 

股関節前方の観察では、大腿骨頭の位置を触診で確認して大腿骨頭と大腿動静脈を観察後、大腿動脈に沿って上り腸恥隆起に合わせてプローブを置きます。この時、拍動する大腿動脈を目印として位置関係を確認します。*14 大腿骨頭は、下肢を内外旋するなど動かすと回転する様子を観察することができます。超音波画像診断装置の2画面機能などを利用して幅広く観察すると、全体が把握しやすくなります。

ここまでが前回の復習です。今回は、この骨頭を画面の中心にして、大腿骨頸部に沿うようにプローブを90°回転させ、大腿骨頭と関節包、関節唇の様子を観察します。小児の場合、前方関節腔に低エコーを示す水腫の貯留等に特に注意をします。単純性股関節炎やペルテス病も念頭に入れ観察を進めます。*14
更に、腸腰筋の長軸像を観察します。この画像では、骨頭と関節唇の位置関係とその上を通る腸骨大腿靭帯のfibrillar patternと腸腰筋を描出していきます。

 

股関節の関節唇は、骨盤側の寛骨臼の辺縁を取り巻く柔らかい線維軟骨組織で、大腿骨頭を包み込むようにしてパッキングしています。この関節唇が損傷すると骨頭が不安定となり、次第に軟骨が破壊されて変形性股関節症(OA)へ移行すると考えられています。

変形性股関節症については、日本人の場合、圧倒的に女性の発症が多く、9割近いとの話があります。骨盤側の屋根が浅い寛骨臼(かんこつきゅう)形成不全や寛骨臼による骨頭の被覆過剰もしくは後捻に伴う股関節を深く曲げたときに骨同士がぶつかる 股関節インピンジメント(Femoroacetabular impingement : FAI)、大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(Subchondral insufficiency fracture of the femoral head : SIF)が要因と言われています。着目する事として、寛骨臼形成不全における関節唇損傷は、変形性股関節症の病期の極めて早い時期から大部分の症例で観察されるという事で、損傷部位は関節唇前上方から上方に多いとされている点です。*15 
関節唇の状態を観察することは、アスリートの問題だけではなく、超高齢社会の股関節症の早期発見や予防に於いて、極めて重要なポイントであると解ります。

変形性股関節症については、また別の機会に詳しくエビデンスを調べてみたいと思います。宿題が増えている気もしますが。

 

関節唇損傷の観察では、関節唇の肥大以外に、関節外のガングリオンや関節水腫、腸骨大腿靭帯の変性肥大が低エコーに観察されることもあると指摘されています。*14

*13 林 典雄 運動療法のための運動器超音波機能解剖 文光堂

*14 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

*15 変形性股関節症診療ガイドライン2016 監修 日本整形外科学会 日本股関節学会 南江堂

 

股関節前面の超音波観察法(長軸) 腸腰筋と関節唇

図 股関節前面の超音波観察法(長軸) 腸腰筋と関節唇

股関節伸展位の場合、腸腰筋の停止部の小転子は大腿骨後方に位置するため、腸腰筋は大腿骨頭を斜めに走行しています。そのため、軽度屈曲(30°程度)にすると、水平になります。

 

肥厚した滑膜や血管増生を伴う関節包炎が疑われる場合には、積極的にドプラ観察を行って、内部の血流の様子を観察して下さい。

前回も書いたように、股関節屈曲拘縮の主要因は、腸腰筋の拘縮であるとされ、腸腰筋の拘縮は腰椎の代償的前弯を引き起こし、しばしば腰痛の原因となるとされています。*13
静止画で骨頭と臼蓋、関節唇の状態や位置関係を観察し、さらに屈曲動態での観察をしていきます。超音波による腸腰筋の硬さを観察することや、腸骨大腿靭帯にも着目していきます。股関節では腸腰筋はよく話にのぼりますが、腸骨大腿靭帯は余り着目されていない印象があります。腸骨大腿靭帯は腸腰筋との間に滑液包もある事から、股関節の中では注意すべき構成体であると思っています。腸骨大腿靭帯はとても強い靭帯ですが、拘縮すると股関節の可動域制限をもたらすと考えられており、この位置で観察される腸骨大腿靭帯の上部線維については、その解剖学的走行から股関節外旋で伸張を促しながらの観察も有用であると考えています。

 

では、動画です。大腿骨頭位置の腸腰筋長軸で、屈伸動態を観察してみます。

表在の腸腰筋筋膜と脂肪、その間の縫工筋からと観られる膜状組織の滑走にも注意して観察します。

動画 股関節屈伸動作による腸腰筋の動態観察

股関節を少しだけ屈伸動作して観察すると、骨頭が臼蓋に滑り込む様子とともに、腸腰筋の収縮の様子と腸腰筋と腸骨大腿靭帯の間にある滑液包の位置も理解しやすくなります。この位置での観察は関節唇が引っ掛かるような様子や、その場合に臼蓋の形成不全や関節外にガングリオンを観ることもあります。*14
また、腸骨大腿靭帯の肥厚や関節水腫にも注意して観ることが、股関節の前方での超音波観察法の重要なポイントです。

股関節屈曲の最終域を観察する場合は、臀部に手を添えて骨盤の後傾を止めた上で、大腿骨頸部と臼蓋が衝突しないように、股関節をやや外転・外旋気味に屈曲を誘導する工夫が必要です。また、この方向への反復運動は、腸腰筋の緊張緩和にもなる反回抑制(recurrent inhibition)が働く運動です。*13

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

日本人成人男女の骨盤、大腿骨を計測した結果、女性では男性に比べて臼蓋の形成および骨頭の被覆が低下しているだけでなく、大腿骨頭中心そのものが外側化しており、股関節のバイオメカニクスから不利な形態をしていたとの報告がある
変形性股関節症は変形の進行ととともに疼痛が増強するとされているが、その一方で、進行期や末期の股関節症のなかには、自然経過の中で十分な骨棘形成(臼蓋外上方の骨棘形成)が見られると疼痛が減少する症例もある
股関節の非荷重面に発生した小さな骨棘はOAの進行と共に増大して荷重面として機能する事が示唆されるが、本来の硝子軟骨ではないために、ある期間限定である
スカルパ三角( Scarpa's triangle)は、鼠径靭帯・縫工筋・長内転筋に囲まれた部分で、底面は腸腰筋と恥骨筋、長内転筋があり、腸恥筋膜でおおわれており、腸腰筋と恥骨筋の接合部はへこみとなっており、このへこみの部分を fossa iliopectinea腸恥窩という
鼡径靭帯の直下には、外側に筋裂孔、腸恥筋膜弓に隔てられて血管裂孔があり、筋裂孔には外側大腿皮神経と腸腰筋、大腿神経があり、血管裂孔には恥骨筋と大腿動脈・静脈と大腿輪という膜にリンパ管(ローゼンミューラー腺Rosenmüllersche Drüse)が通っている
単関節筋(一関節筋.)は主に機械的な力を発揮し、二関節筋は主に外力の方向の制御や末梢の求心性神経からの運動関連のフィードバッグにより、柔軟に応答しているとの報告がある
姿勢異常を有する多くの症例は単関節筋が機能不全を起こし、多関節筋が過剰に機能しているとの説もある
大腿骨頭位置での観察は、小児の場合、前方関節腔に低エコーを示す水腫の貯留等に特に注意をし、単純性股関節炎やペルテス病も念頭に入れ観察を進める
関節唇は、骨盤側の寛骨臼の辺縁を取り巻く柔らかい線維軟骨組織で、大腿骨頭を包み込むようにしてパッキングしており、損傷すると骨頭が不安定となり、次第に軟骨が破壊されて変形性股関節症(OA)へ移行すると考えられている
寛骨臼形成不全における関節唇損傷は、変形性股関節症の病期の極めて早い時期から大部分の症例で観察される
関節唇損傷の観察では、関節唇の肥大以外に、関節外のガングリオンや関節水腫、腸骨大腿靭帯の変性肥大が低エコーに観察されることもある
肥厚した滑膜や血管増生を伴う関節包炎が疑われる場合には、積極的にドプラ観察を行って、内部の血流の様子を観察する
股関節の屈伸動作での観察は関節唇が引っ掛かるような様子や、臼蓋の形成不全、関節外にガングリオンを観ることもあり、併せて腸骨大腿靭帯の肥厚や関節水腫にも注意して観る
股関節屈曲の最終域を観察する場合は、臀部に手を添えて骨盤の後傾を止めた上で、大腿骨頸部と臼蓋が衝突しないように、股関節をやや外転・外旋気味に屈曲を誘導する工夫が必要で、この方向への反復運動は腸腰筋の緊張緩和にもなる反回抑制が働く運動である

 

次回は、「下肢編 股関節の観察法について3」として、引き続き前方走査について考えてみたいと思います。

 

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情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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